辺境伯令嬢とその従者
初投稿です。
温かい目で読んで頂ければ幸いです。
「―――ふむ、おかしいわね。」
草陰でオペラグラス片手に首を傾げる女生徒。
「何がおかしいんです?」
「だって殿下が現れないのよ。」
声をかけてきた者に見向きもせず、真っ直ぐ1本の大きな木に目を凝らす。
「それのどこがおかしいんですか?学舎からかなり離れてますよね、ココ。」
「バカね。だからでしょ。
昼寝している殿下にヒロインが出会う大事なイベントよ!」
興奮気味に話す彼女は、やはり真っ直ぐ視線を逸らさずに答えた。
「はぁ…?」
「なのに全く出てくる気配がないわっ。」
「気配って、動物じゃないんだから。」
「これじゃ話が進まない!」
大きな瞳をキュッと細めて、今にも歯軋りしそうな彼女は、それでも美人である。
「あー、はいはい。分かりましたから、そろそろ帰りましょう。」
燕尾服の男が女生徒を促す。
「嫌よ!まだ最初のスチルが観れてないのにっ!」
やっと男を目視した彼女は、ふんっと首を振った。
「いい加減にして下さいよ。そんな事言って、かれこれ1時間ですよ。」
呆れた声音の男は女生徒に手を差し出した。
「だって!」
「帰りますよ、お嬢。だいたい何処に草むらに座り込む令嬢がいるんです?見られたらどうするおつもりで?」
「あら、平気よ。こんな所にウチの学生が来るわけないじゃない。」
何を言ってるんだ?と言わんばかりの顔で、男を見る。
「その学生が寝ている殿下を見つけるんでしょう。」
はぁ、と溜息をつく。
「そうよ!誰も邪魔する人間は来ないから安心しなさい!」
彼女は胸を張って得意げに言った。
「…その邪魔が入らないイベント?にお嬢がいるからいけないんじゃないですか?」
「私が邪魔だって言うの?何もせずに黙って見ているだけじゃない。」
ぷくっと頬を膨らます。
「それが邪魔だと言ってるんです。
ほら、帰りますよ。」
男はついに女生徒を引きずって歩き出す。
「ちょっ、まって、嫌よ!あぁっ!大事なシーンなのにぃ―――!」
学園一の才色兼備と名高い辺境伯令嬢ソフィアは今日も従者のアダルベルトに引きずられている。