8話 スキル再鑑定
ギルドに戻り、依頼の薬草を渡し報酬を受け取る。更に大量のファングフィッシュの牙を換金した俺達は、少し懐に余裕が出来た。
そしてそれ以上に嬉しいのが、ファングフィッシュの薬草包みを食った俺は今まで以上に力が湧いているのを感じているという点だ。
正直に言うと、この力がどこまで伸びるのか試したい。
この近辺で魔物を狩り続けていてもいいが、身体能力向上だけでなく魔物のスキルも使えるとなればなるべく多くの種類を倒し、そして食っていきたいものだ。
「と、いうわけでリリティア、今まで食った事のない魔物に会える依頼を選ぼうと思う」
「アイアイッサーですアッシュさん!」
ビシッと敬礼するポーズが気に入ったらしい。
ふんむ、と鼻息を鳴らしながら笑顔でいうリリティアの言葉を聞きながら、俺はプランを話す。
持ってきた依頼は『未開洞窟の探索』。
ここから少し離れた渓谷に、洞窟の入り口が発見されたらしい。中には魔物の存在も確認されている。
「でもアッシュさん、この依頼『Cランク以上推奨』って書いてありますけど……」
そう、未開の地だけあって、言ってしまえば危険度も未知数。
ある程度実績のあるCランク以上が望ましい依頼なのだろう。間違っても冒険者としてずぶの初心者のEランクが入るべきではない。
しかし、
「曲がりなりにも俺は元Sランクだ、実力的には足りているだろう。そしてあくまでCランク以上『推奨』だ、挑戦する事自体は何の問題もないさ」
「はぁー、ギルドの人止めたりしないんですかねえ」
「おせっかい焼きが忠告してくる程度だな。冒険者たるもの何事も基本は自己責任……国のお偉いさんとしても、未開の地に恐いもの知らずが勝手に突っ込んで、ソイツの命と引き換えに危険度をチェックしてくれるってんなら、国の騎士様や大きな戦闘組織の一員が犠牲になるよりもよっぽどいいって算段さ」
「な、なるほど……冒険者ってそういうポジションなんですね……」
「ま、世の中そんなもんだ。しかし、危険度が未知数な所もあって準備はしていくに越したことはない。……買い出しもそうだが、まずはスキル鑑定屋の所にいこう」
「スキル鑑定屋? この村にありましたっけ?」
「確認済みだ。それ以前に、冒険者ギルドがある場所ならまず間違いなくある」
「あ、そうなんですねー、エルフの里以外の事情はあんまり知りませんでした。でも、どうしてまたそんなところに行くんですか?」
俺もリリティアも当の昔に自分のスキルの鑑定など終わっている。
その時に受けた称号が『外れスキル』。
「俺は最近魔物を食うごとに力が増している。これが【暴食】の効果だってんなら鑑定士は飛んだフシアナ野郎だ、それを確認しに行く」
「あー、ようは鑑定士さんに今の状況説明した上で再鑑定してもらうんですねー」
◇
「いらっしゃいませ」
と、いう訳で俺達はスキル鑑定屋に来ていた。
こじんまりとした建物の中に怪しいフードを被った若い女性が一人。
大抵は鑑定の歴が長い老人がやっているものなんだがな。寂れた所とは言え若くして任せられているのは実力が認められているからなのか、はたまた人が足りずに無理やりやらされているのか。
初めは経緯を話して鑑定して貰おうと思ったが、どれ少し実力を試してやるか。
「俺のスキル鑑定を頼みたい」
「わかりました。お代をこちらの箱にいれて、椅子ににお掛けになってこの水晶玉を見て下さい」
通常、俺くらいの年の人間が鑑定に来ることは少ない。
大概はもっと早いうちに自分のスキルが発現し、さっさと鑑定を済ませてしまうからだ。
スキルが成長したり、新たな能力に使用者が気づく例もあるはある。それでもやはりもっと若いうちにその全てが終わってしまう事が殆どだろう。
しかし流石はプロ。そんな疑問は全く見せずに淡々と仕事をこなしていく。
俺が椅子に座り、鑑定士がなにやらブツブツと呟いた後、水晶の色が変化していった。
その様子を見て鑑定士が呟く。
「あら? 貴方複数のスキルをお持ちなのね?」
以前の鑑定とは違う反応。とりあえず鑑定士としての実力は最低限は有りそうだな。
「『雷撃』に『神経毒』に『液体操作』……なんだか魔物みたいなスキルをお持ちですのね……あ、いえ失礼しました」
正に魔物のスキルそのものだしな。
「最後の一つは……【暴食】……このスキルは……」
ん? 今までの鑑定では残念そうな顔されて、あるいは鼻で笑われて『腹が減るだけの外れスキル』と言われてたんだが、なんか反応が違うな。
「これは……大罪スキル……! 上手く使えば大陸全体をも支配できる可能性を持つ程の力を得る代わりに、宿主の精神をも呑みこんでしまいかねない強大且つ危険なスキルです!」
今までの冷静沈着な対応から声を荒げる鑑定士。
ってなんだって? 大陸を支配? メチャ危険? 全部初耳だぞオイ。
「初めて聞く事ばかりなんだが……」
「……恐らく今まで受けてきた鑑定がずさんなものだったのでしょう。いえ、一般レベルであればその真価を把握できず『外れスキル』とられかねません」
じゃあねーちゃんアンタは何モンなんだよ。
「……私から言えることは、今すぐにでも国にこの事を申告して管理してもらうことをお勧めします。放っておくと貴方の命に関わるかもしれません」
すげー事ベラベラ言ってくれるなこのねーちゃん。
「で、その凄いスキルの具体的な効果はなんなんだ?」
「……すみません、詳しくはわからないです」
「わからない?」
「我々鑑定士が使う、国や大地の情報を感知、分析するこの水晶玉魔法に出たのは、凶悪なまでの波動と、『お腹がすく』という副作用だけ。……しかしこの凶悪さ、伝説の存在ともいえる大罪スキルにまず間違いありません!」
このねーちゃんでもわからないってか。
てか副作用しか探知出来ていなかった今までの鑑定士どんだけボンクラなんだよ。
さて、ここで問題が起こったな。
俺が国のお偉いさんの下にこの事を知らせに行こうものなら、間違いなく勇者ユナイト達の情報網に引っかかる。
今はまだ奴らに会いたくない。
それに国に行った所でどうなるだろう? 良い生活は出来るかもしれんが、所詮は鳥かごの中の実験台。いや、危険因子とみなされて監禁や処刑の可能性も考えられる。
と、なると、だ。
「そうか、ありがとよねーちゃん。これは礼だ」
「え? お代はさっき……ってなんですかこの料金は! ……あっ」
そこで鑑定士は口をふさぐ。
理解の早い人で助かった。そう、こいつは口止め料だ。
そしてこの賢いねーちゃんなら、他人に告げ口した時、俺が自分にどう動くかわかってくれただろう。
「取っといてくれ。……行くぞリリティア」
「え? あ、はい!」
こうして俺達は鑑定屋を後にした。
さて、未開洞窟攻略依頼の準備でも始めるか。
あ、そういやリリティアのスキルも一応鑑定しときたかったが、まあいいか。