39話 VSメイ・ウィザーロック
「……メイ、なぜお前がここにいる?」
「つれないなぁアッシュ、睨みつけてきちゃって恐い恐い。ボクらは同じパーティの仲間じゃないか、せっかくの再会なんだからもっと嬉しそうにしてよ」
眉を潜めて、しかし口元はほんの少しひくつかせながらわざとらしくい言ってくるメイ。
俺を暗殺しようとした張本人が、よくもまあいけしゃあしゃあと言えるものだ。
ミスリーの転移真珠から出てきたって事は、コイツが裏から操ってやがったか。……という事は。
「ミスリー、天然ガスの利権を欲しがっているってのはひょっとして……」
メイから視線を外しミスリーに問いかけたが、その返事はニッコリと笑顔を見せるメイから返ってきた。
「そう、ボクだよアッシュ。他のメンバーにもナイショなんだよ? でもボクとアッシュの仲だもんね、特別に教えてあげる」
「メイ、なんだってお前がそんなモン欲しがる? 勇者パーティの財力の前ではこんなもん寄り道してまで欲しいモンではないだろ? こんな所で油売ってねえでとっとと魔王でも倒しにでも行けよ」
コイツへの復讐心は沸々と湧いてくるが、それでも出来る事なら今すぐ消えてほしい。
「んー、確かにお金は大した問題じゃないんだ。欲しいは欲しいんだけどね。ただそれよりもココのガスの潜在効果がとっても魅力的でさ」
天然ガスの潜在効果……確かそこで伸びているジャヴィッツが言ってたのは……
「魔力が帯びているんだったよな? それを使って魔法道具を造って、一般人でも魔法を使えるようになるかもしれんとか。そんなもん、お前にはますます不要だろう」
勇者パーティ随一の魔法使い、メイ・ウィザーロック。
魔法が得意な種族であるエルフのリリティアも色々な魔法を使える。ワイバーン討伐の際任務を共にしたドーマも相当な腕前で、出力だけならリリティアより上だろう。
だが、そんなもんどうでもよく思えるくらいメイの魔力は桁外れだ。一度爆発魔法を唱えれば一瞬で城は崩壊し、身体能力強化魔法を使えば駆け出し冒険者でも化け物みたいな力を発揮する。
「ああ、やっぱりキミじゃあその程度の考えにしかならないか。あのね、このガス、多分使い方次第じゃ元々魔法の素質ある人の魔力を引きあげる事も出来るんだ。だからさ、そのシステムを確立させて、ユナイトへのプレゼントにしたらいいかなって思っちゃったんだ! ほらカレ、すっごく強くてカッコいいし魔法も一人前に使えるけど、流石にボクにはちょっとだけ劣るからさ!」
ああ~、そうだった。コイツの、いやコイツらの行動原理は1にユナイト2も3も4もユナイトだ。全く【色欲】のスキルとやらはリリティアよりもユナイトの方が相応しいんじゃないか。
しかし、システムを確立させて他人の魔力を引きあげる、か。
「メイ、そんな不確かな事をユナイトに行って、副作用でもあったらどうするつもりだ? ユナイトなら多少な副作用など問題ないってか?」
事実アイツは最大の化け物だからな。ガスの副作用どころか即死の猛毒を水のように飲んでも死ぬ気がしねえ。
「あはは! そんなカレに危険な事するわけないじゃん! ガスの利権を手に入れるのは第一段階。そこからじっくり実験を繰り返して、絶対に安全とわかったら初めてプレゼント! どう? オリアやプリエスじゃこんな事出来ないでしょ? カレ絶対喜ぶよね!」
目を輝かせて計画をベラベラ喋るメイ。
『実験』、ね。なるほどその理想までの道のりになんの犠牲が出るのか、……どれだけの犠牲が出るのか。考えたくもねえや。
「で、さぁ……アッシュ。本当にキミがここにいたのは予想外だったんだ。なんか巷でキミが生きているらしい事は聞いてたんだけどさ。キミなんて放っておいても良かったんだけど、ミスリーからキミっぽい目撃情報聞いてさぁ、いざ来てみると、本当にキミがいるんだもん」
メイの周りの空気が変わった。俺は身構える。
ハッキリ言ってだだっ広い外ならコイツに対して勝ちの目は無い。だが、幸いここは洞窟の中だ。ハデな爆裂魔法は流石に撃てねえだろう。
「……メイ、なぜあの時、俺を殺そうとした?」
「それにボクが答える必要は無いし、結局は同じ事でしょぅ? だって」
メイが持つ魔法の杖の先端が光った。
「結局キミはここでボクに殺されるんだから! 【メルトダウン】!!」
放出されるは高速の熱線。コイツの魔法は威力がマジでケタ違いだ、防御は不可能! だが今の俺なら回避は可能!
咄嗟に横にステップを踏むと、一瞬前までいた先に熱線が突き刺さる。熱い。当たってはいないのにこの熱風、一体何℃あるっていうんだ。その一撃は背後の洞窟の壁を貫通し、尚どこまでも伸び続けている。
回避した後すぐに方向転換を行い、短剣を取り出しながらメイの方へ駆けた。
「ミスリー!」
メイが左手を後ろに回すと、どこからか長剣を取り出した。【空間収納魔法】ってヤツだ。これ自体も使える人間はごく限られている上、本来はこんなに瞬時に使えるものじゃない。
その剣をミスリーの方へ投げてよこすメイ。 俺の迎撃をさせるつもりか? 今の俺の俊敏さをナメるなよ! そんな暇は与えん!
「キミはそっちのエルフの子を相手してあげてよ!」
メイは余裕そうにそう言った。
その一瞬後、俺はメイに向かって短剣を振り下ろす。
だが、けたたましい金属音が鳴り響きメイに当たる直前で見えない壁に当たったかのように短剣の一撃は動きを止める。
「ボクは久々にちょっとカレと遊んであげる事にするからさあ!!」
ニヤリと笑いながら言葉を続けるメイ。
コイツ、完全に一対一で、それも接近戦で【暴食】の俺を相手しようってか!




