38話 予期せぬ戦い 予期せぬ戦況 予期せぬ……
ミスリーが扱う刃が俺の腹を貫いた瞬間、
「ぬんッ!!」
俺は逆に腹に力を込めた。
そうする事により筋肉は引き締まり、逆に刃を、そしてその柄を持つミスリーの腕を捕える。
「な!?」
ミスリーが驚愕の声を上げる。
そりゃそうだろうな、普通だったらこの一撃で致命傷、そうでなくとも戦闘不能は余儀なくされるはず。
だがこちとらもうとっくに普通じゃないんだ。デモンタウラスだのワイバーンだのやり合っても負けねえ身体に仕上がってんだよ。
俺は自身も短剣を抜くと、腹に刃を刺したままミスリーのほうへ振るい反撃を試みた。
相手は一早くそれを察知し、柄から剣を離し後ろに飛びのく。
「アッシュさんッ!」
リリティアが俺の方へ駆けてくる。
「テメェ!」
「な、なにをしていやがる!!」
シザリックファミリーも目の前で突如行われた凶器の応酬に一歩遅れて反応。
まず俺を仕留めてしまえば町で力を測ったシザリックファミリーは敵でないと判断しての行動だったか?
だが俺を倒せなかった以上計画が狂っている、は、ず……
「聞いてないわよそんな化け物っぷり。……でも」
そこで俺の視界が暗転する。
身体に衝撃が走った。……どうやらその場で崩れ落ちて、地面に当たったようだ。
この感覚……毒か。
「ア、アッシュさん!?」
リリティアは倒れた俺の前でうずくまったようだ。
「しっかりして下さい! 【ヒーリング】!」
回復魔法も使えるようだな。今まで俺が強すぎて使う事は無かったが、やはり魔法に優れたエルフだ。色々出来る。
シザリックファミリー達の怒号も聞こえる。どうやら応戦しているらしい。
「アッシュさん! 毒を受けているんですよね!? どうしよう……私、傷は治せても解毒の魔法は覚えていないんです……!」
声を震わせながらも必死で両手を俺の傷口に当て、回復魔法を使い続けるリリティア。
あーなるほど、決して万能ってわけでもないか。だが、
「……十分だ、ありがとうよリリティア……」
俺は上半身を無理やり起こした。
視線を前に向けるとミスリーとシザリックファミリー達が戦っている。
ミスリーのヤツ、武器を手放したくせに徒手空拳だけであの男達を圧倒できるほどの戦闘力を持っているのか。こりゃのんびり寝てはいられないな。
「おおおおお……」
そこで俺が行ったのは、ファングフィッシュから入手した【液体操作】のスキルの活用。
様々なスキルを取り入れた自分の身体、ミスリーの剣からしみ込んだ毒が、どのあたりに流れているか大体わかる。そいつを操作し逆流させ、傷口から放出する!
「はあぁッ!!」
毒の血液が辺りに飛び散った。
……全部を出し切るのは難しいな。そして今ので体力と血を失って更にふらつく、が、となりではリリティアが俺の傷を治し続けてくれている。なんとかやっていけない程の事でもない。
俺が震えながら立ち上がる頃、
「うおおおおおおおぉッ!?」
ちょうどシザリックファミリー最後の一人のジャヴィッツが投げ飛ばされていた。
もうやられちまったか、早いな。しかし武器を持っていないのが幸いしたな、全員生きてはいそうだ。
「あの毒からもう起きたの? 貴方の身体、本当にどうなっているのかしら」
「……お察しの通り普通の身体じゃなくてね、冒険者ランクも今はDだが昔は……」
「知っているわよ、元Sランクの雑用係、アッシュ・テンバーでしょう?」
あん? コイツ、俺の事知ってやがったか。
まあ勇者パーティは有名だ。そんな奴といつか出会っても不思議じゃないとは思っていたが。
「……ミスリー、アンタだな? 面倒な隠し通路まで魔法かなんかで作ってやがったのは。敢えてあそこにそんなもの作る事で、シザリックファミリーを監視してやがったのか?」
「ええその通り、結構うまく作ったつもりだったのだけど、貴方のわけのわからないスキルで看破されるとは思わなかったわ。もうちょっと慎重に天然ガスの利権奪いたかったのだけど、仕方ないわね」
「天然ガスの利権? 一冒険者のお前が権力者からそんなもの無理やり奪ったところで何になる?」
「……ええ、私一人なら、奪っても仕方ないわね? でもそれを扱える人達がいたら?」
ミスリーは鼻で笑いながらしゃべる。
余裕ぶっこいてんじゃねーか。シザリックファミリーをあらかた片付けて、手負いの俺とリリティアだけなら余裕で仕留めれるってか? お前の腕は並み以上に立つだろう、俺は確かにフラついている。
だが、それでもこの【暴食】の力、まだまだ底はみせてねーぞ。
「……貴方は予想以上に強いみたいだから、こっちもキチンと行かせてもらうわね?」
そういうとミスリーは、懐から小さな石を取り出した。
あれは……俺の『太陽のリング』の中にも入っている『転移真珠』!
ミスリーがそれを足元に投げると、転移真珠はその場で眩しい光を放った。
「きゃっ!」
リリティアが反射的に声を上げる。
想像以上に強い光に俺もつい反射的に目を閉じてしまった。
「やっほーアッシュ! 久しぶりー、ホントに生きていたんだ」
その光の中から聞こえる声に、俺の心臓が高鳴った。
忘れもしねえ……まさか、まさかまさかお前がここに……
光の中から出てきたのは先端が折れ曲がった茶色のとんがり帽子をかぶった小柄な身体。
ショートの黒髪に衣服はダボダボなコート。
あどけなく見えるその目付きは相変わらずどこか他人を見下している。
あの日、俺に暗殺を仕掛けた張本人の一人、勇者パーティ随一の魔法使い、メイ・ウィザーロックと実に数か月ぶりに目が合った。




