36話 隠し通路
この洞窟には好戦的な魔物はいないようで、しかも今進んでいる道は今しがたミスリーが歩いてきた場所。
大した危険はないと判断し、俺は体力温存のためにも超音波の展開を止めた。代わりにワイバーンから入手した消耗の少ない『索敵』のスキルを休み休み発動しながら奥へと進む。
ミスリーと行動を共にしてから30分余り。
俺達は行き止まりに辿り着く。
「ミスリー、ここがアンタが言っていた最深部かい?」
「ええ、何にもないでしょう? とんだ外れ洞窟だわ」
確かに一見何も無いように見える。が、『索敵』のスキルを発動していると奥の方からも生命反応があるんだよなあ。
小動物もそうだが、もっと奥の方にデカいのもいるような……
「リリティア、仮にどこかに奥に進む通路があるとしたら、お前の魔法で何か探せるか?」
「え? いえ、そんな魔法は覚えていないですけど、う~ん……」
俺の言葉に反応したリリティアが両耳を澄ますように手を当て目を閉じる。
しばらくすると目を開いて俺の方へ顔を向けた。
「でも、なんだか風が通る音が聞こえますね。通路かはわからないですけど、空洞はあると思います」
流石はエルフ。聴力は一流だ。
となればソイツがどこにあるか、だが……
そこでおれは右手を前に出し手の平を上に向け、念じた。
そこから生えてくるのは文字通り手のひらサイズの小人。
「あ、ミッシュちゃん!」
「な、なにそのキモ……おかしな能力は」
キラーツリーから入手した分身精製のスキルで俺によく似た小人を生み出す。
リリティアは目を光らせミスリーは怪訝な顔を見せた。お前今絶対キモイって言おうとしただろ。
たまたまかもしれんが、ミッシュはこの洞窟の入り口を早期に発見した。探索能力は高いと思われる。
仮にそうでなくても、三人で探すより四人で探した方が早いだろう。
「行け」
俺がミッシュに命令すると、ミッシュは手の平から飛び降り壁に向かって走り出す。
「さて、俺達も手探りで探してみるか」
「……どうして奥に通路があると思うの? 空洞があっても人が通れるとは限らないじゃない」
横からミスリーが声をかけてくる。自分では見つけられなかったものを俺が簡単に当たりを付けた事が不満か?
「ま、そこは冒険者としての勘だな。通れるかどうかはそりゃ見つけてみなきゃわからんが、せっかくこんな所まで来たんだ、探してみる価値はあるだろう」
「……貴方、冒険者として長いのね」
おっとそう言えば今の俺はDランクだった。あまりベテランぶった言い回しはやめた方がいいかも知れんな。
と、そんな他愛のない会話をしていていざ探し始めようとしたところで、ミッシュが奥でピョンピョン跳ねながらこっちを見ている。
「アッシュさん! ミッシュちゃんがもうなにか見つけたみたいですよ!」
あの野郎、本当に検索能力は高いみたいだな。どれ、何を見つけやがった?
俺達はミッシュのそばまで移動する。パッと見は何もないように見えるが……
「ん? この壁、やけに柔らかいな」
軽く押しただけで凹む土壁。洞窟を支えているにしてはおかしい。
俺はその部分をある程度力を込めて殴りつけた。
すると壁は崩れ、奥へと続く通路が発見される。
「隠し通路……」
「やったあ! アッシュさん、ミッシュちゃん流石です!」
スムーズに奥へと進む道が見つかったのは良かった。が、なんでこんなものがあるんだ?
「こんなに早くみつかるとは運がいいな、さ、奥に進んでみようぜ」
「……ええ、そうね」
ミスリーの呟き。トーンが少し低い。やはり後から来た俺達が隠し通路を見つけるのは機嫌が悪いか。
そこでリリティアがなにか少し意外そうな顔をしてミスリーの方へ目を向ける。
「……ミスリーさん?」
「ん? なあにリリティアさん」
「あ、いえなにも……」
なにが言いたいのかよくわからん。話をしないのならばさっさと先に進むぞ。
「さあ私たちも行きましょうリリティアさん」
「え、ええ……」
俺が歩き始めると、リリティアとミスリーが後に続く。
奥にある小動物でない生命反応が気になる。さて、何が出る?
しばらく歩くと、話し声が聞こえてくる。つまりこれは魔物の類ではなく、人間。
隠し通路の奥に人間がいるだと? 隠れた方がいいか? ……いやこの声は聞き覚えがあるな。
俺はそのまま歩いていくと、こちらの足音に向こうも気がついたようだ。
俺達の姿を確認するなり声をかけてくる。
「あん? アンタらは酒場で出会った……」
銀髪オールバックに洞窟内でもスーツを着込んだ男、とその取り巻き。
「シザリックファミリーのジャヴィッツ殿、また会ったな」
ミスリーのような冒険者ならいざ知らず、こんな所でコイツらと出会うとは思いもしなかった。
「あ、あの赤髪女!」
取り巻きの一人がミスリーを指さし大声を上げる。
それに対してミスリーはつまらなさそうな顔をしてそっぽを向いた。
リーダー格のジャヴィッツもミスリーには怪訝な顔を見せるが、特に何かいう事はなく俺に話しかけてくる。
「おいおい、確か、アッシュって言ったか。何故アンタがここにいる? 俺ァ忠告したよな? 俺達が買い占めている土地に無断で近寄るなって」
む、ここはシザリックファミリーの土地なのか? いや、それっぽい仕切りなんかは無かったはずだ。
「そうだったか? ソイツはすまなかったな。俺達は森からの入り口から来たんだが、ここがその土地とは知らなかった」
「知らなかったじゃ済まされ……森からきただと? どうしてそんなところからここに来れる? つーかそっちは行き止まりじゃなかったか?」
しらねーよ。歩いていたら着いたんだ文句あっか。
コイツらシザリックファミリーも隠し通路の事は知らなかったってことか。広そうな洞窟だしな。
何にしても組織が管轄している土地に入っちまったんだ。ごめんなさいで帰るわけにはいかねーか。
「俺も聞きたいことがある。少し話をさせてもらってもいいか?」




