33話 肩からにゅるりと
【暴食】の声に身をゆだねるままに焼け焦げたキラーツリーに歩み寄る俺。
ただの木炭じゃねえかどうやって食えってんだよ。一応【暴食】の声が聞こえてきた時は比較的何でも美味そうに見えてくるものだが、これは流石に無理だろ。でもまあちょっとあったかいビスケットみたいなもんかよし食ってみよう。
「アッシュさん、よくもまあそんなものまでボリボリと食べれますね」
真顔でリリティアが俺に話しかける。
もはや俺にもよくわからん。
まあアレだ、美味くはないな。ただの墨だし。むしろ不味い。
しかし【暴食】が食えというもんを食うとなんか胃でも心でもない何かが満たされていくような感覚がある。身体によく効く苦い薬とでも思っておこう。
なんかこう、傷が治っていくみたいな身体からなんか生えてくるみたいなそんな感覚がなくもない。
「アッシュさん、それ……」
そこでリリティアが俺を指さしながら、呟きつつ口をあんぐりと開ける。
なんだ? 食いカスでも顔についたか?
リリティアの視線を追うように、俺は自分の肩の辺りに目を向けた。
そこには、小さい俺がいた。
高さ10cm程度の小人。顔は俺がやや幼かった時の様な顔つきで、着ている衣服も今俺が纏っているものと同じ。
よく見ると膝から下の部分はない。どうやら俺の肩と同化しているようだ。
と、思ったのも束の間。膝から下の部分も見る見るうちに生えて来て、足の指まで精製されると俺の肩からそれは抜け落ち、地面に落ちた。
「アッシュさんの! お子さん!?」
「んなわけねえだろ」
大声で推理をするリリティアにとりあえず否定の言葉を入れておく。
これは単なる子供ではなく完全に小人だ。
地面に落ちたその小人に目を向けると、ソイツもまた俺の方を見上げていた。
ふと思い立ち、ソイツに前方を見るように念じてみる。すると思い描いた通りこの小人は前を向いた。
俺にそっくり。俺の身体から出てきた。言葉を介さず意思疎通が出来る。
これは、どうもアレだな。キラーツリーのスキルだな。奴がキラーアップルを生み出すのと同じような要領なのだろう。
「きゃああ可愛いーーーっ!!」
前を向いた小人をリリティアが掴み上げ抱きかかえた。
大してないリリティアの胸だが、身長10cm強程度の小人の顔を埋めるには十分なようだ。
「なんですかアッシュさんって小さい頃はこんなに可愛かったのですかぁ!?」
お前もお前で急に出てきた得体のしれない生物をよく受け入れられるな。
しかし、この小人が俺と同等の能力を持っているとすればとんでもない戦力になるな。そうでなくても偵察や仕込み等小回りは効きそうだ。
「リリティア、予想はついていると思うが、ソイツはキラーツリーから取得できた能力のようだ。さっそく試してみる、放してやってくれ」
「ええ~? こんなに可愛いのにですか~? ……うーん、はーい」
リリティアはしゃがみ込み、小人を地面に降ろした。
仮に町中で偵察にでも使ったとして、コイツが捕まれば顔や服装から俺の仕業だとバレてしまうだろう
。だがこの自然の森の中なんかではちょうど良いかもしれんな。
俺は再び心の中で念じ、小人に命令をしてみた。『周辺を探索して何かあれば知らせろ』、と。
ソイツにはやはり俺の意思が無事伝わったようだ。すぐに走り出すと森の奥へと姿を消した。
キラーツリーとキラーアップルの関係性を考えると、もしアイツが魔物なんか殺されたとしても、俺にダメージはない、はず。
……カメレオンスライムの背景同化スキルなんかも、本家と俺のとは能力に違いがあるから少し軽率だったかも知れん。でもまあ、流石に即死するような事態にはならないだろう。たぶん。行かせちまったからもうそう信じる。
「行ってらっしゃいミッシュちゃん」
走り去った小人の方へ笑顔を向け、手を振りながらリリティアは呟いた。
「……なんだ? そのミッシュちゃんってのは」
「ミニサイズのアッシュさんだからミッシュちゃんです」
お、おう。まあ好きに呼ぶがいい。
……む、俺の頭に何かを知らせる啓鈴のようなものが感じる。
【暴食】の呼びかけとも違うコレは、アイツからの連絡、か?
だとすれば距離が離れていても『月のネックレス』のような意思疎通が可能。……使えるな、このスキルは。
そしてこの予想が正しいなら、早くも何か見つけたということか。
「リリティア、アイツが何かを見つけたようだ、行ってみよう」
「アイツじゃなくてミッシュちゃんです。私、決めましたのでアッシュさんもちゃんとそう呼んでください」
お、おう。
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アッシュ・テンバー
『スキル一覧』
・【暴食】
・雷撃
・神経毒
・液体操作
・超音波
・火炎息吹
・色彩同化
・索敵
・分身精製
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