31話 リンゴ調理とトッピング
キラーアップルの欠片を一通り集めた俺達はそれらを大きめの葉っぱの上に一先ず乗せた。
「集めたは集めましたけど、本当にこれ食べるんですかアッシュさん」
「うぅむ確かに……ん?」
飛び出た目や舌を出しながら粉砕されている口など、やはりキショい魔物は残骸もキショい。
しかしその中で一体分だけそれら顔のパーツが残っていないものがあった。
先ほどリリティアが炎の魔法で倒し焼きリンゴとなっている個体だ。
「……焼いてみるか」
俺はそう言って空気を吸い肺を大きく膨らませる。
肺の中の空気に熱を宿すイメージを頭の中に描きながら強めに息を吹きかけた。
デモンタウラスを倒した時に習得した火炎息吹が粉々に砕いたキラーアップルに吹きかかる。
「わっ! 意外と良い匂い……!」
焼かれていくキラーアップルから漂う香りに、思わず声を上げるリリティア。
そしてキラーアップルの変化は香りだけに留まらない。
なんと目や口など口のパーツが、初めから無かったかのように、立ち昇る煙と共に消えだしたのだ。
「わ~……これならただのおっきい焼きリンゴですねぇ」
「不思議な生き物だな。元々はコイツラの本体となる『キラーツリー』の先兵だからか、通常の生き物とは生態そのものは大きく違うだろうが」
程よく焼けたそのリンゴの破片を一つ手に取り口に運ぶ。
ふむ、中々美味い。リンゴならではの甘味に加え、少し肉の様な噛み応えもある。焼いたことにより程よい温かさが身体の芯を温める感覚も悪くない。
果物は冷たいままの方が基本的には好みだが、あの残骸を喰うくらいならこっちの方が見た目的にも良いな。
「それならこっちも……【ファイアー】!」
俺の隣でリリティアが両断した個体にも火を付けた。
落ち武者の生首のようなその顔も炎に包まれた途端見る見るうちに蒸発していき、綺麗な二等分の巨大焼きリンゴが完成した。
「更に……これを試してみましょうか!」
リリティアが道具袋から茶色の塊を取り出す。
「ん? リリティア、なんだそれは?」
「これ、チョコレートです! この間オルディエ様に貰っちゃいまして!」
あぁ、あの宿に転移してきた時か。あいつめ、俺には何もくれなかったくせにリリティアには中々高価なものを。
「こっちにも……【ファイアー】!」
リリティアはチョコレートにも魔法で熱し始めた。
ある程度融けた所でそれをキラーアップルに塗り始める。
「ジャーン! チョコレートコーティングです! 更にこれを……【フリーズ】!」
更にリリティアは手から魔法で冷気を発生させた。
それにより焼けたリンゴを覆ったデロデロなチョコレートが再び固まり出す。
「おお……! 中々美味そうなものを創るじゃないか」
「えへへ! 欲しいですか? アッシュさん」
意地の悪い笑みを浮かべやがって。
確かに俺はチョコを持っていないし冷気を操る事も出来ない。つまり、このチョコリンゴはリリティアがいないと出来なかったオリジナルスウィーツだ。
うぅむ、確かに食ってみたい。しかしこの顔はアレだな、多分それと引き換えに何かを要求してきそうだな。そんな見え透いた罠に掛かる俺ではないしリンゴ自体はまだまだある。これだけで美味い。つまりはチョコリンゴにこだわる必要はない。流石は俺、クールでクレバーだ。お前の様なチョロインとは違うのだよ。でもやっぱりチョコリンゴ食いたい。虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うしな。よし、貰えるように交渉してみよう。
「……何が望みだリリティア」
「どうしてそんな神妙な面持ちをするのですかアッシュさん」
真剣な商談をしようと思ったら、や冷めた目で返されてしまった。
何かを間違えてしまったようだ。
「はいどうぞ、食べてみて下さい!」
なに? くれるのか?
いやまあそれが普通と言えばその通りだが、最近妙にズバズバ来るし、今もあまり見た事のない顔をしやがるから何かを企んでいるかと思ったぜ。
「おおせんきゅ」
受け取ったチョコリンゴを口に頬張る。
……おぉ! 実に美味い!
チョコレートのストレートな甘さにリンゴのスッキリとした甘み。種類の違う二つの甘さが口の中でコラボってやがる!
さっきの焼きリンゴは、ちょっとグニョグニョした食感があまり好きではなかったのだが、パリパリとしたチョコの中から出てくる冷えたリンゴのシャリシャリ具合も非常にナイス! コイツぁ店に出しても人気メニューに出来そうだぜ!
「美味いぞリリティア! 良く思いついたな!」
「ふふ! 良かったです!」
「オルディエからチョコレート貰ったのも結構前だというのに、よく残しておいてくれた。俺ならば貰ったその日に食っちまいそうだからな!」
「ええ、そう思って今日まで隠しておきましたから」
うむ偉い! ってオイ、『そう思って』とはどういう事だ。まるで俺が何の考えもなしに食材を浪費しまくる男のようじゃないか。
……ん? それと別に今日この場でキラーアップルとの組み合わせが出来ると決まっていたわけでもないのだが。
「で、どうして今日までコイツを取っておいたんだ?」
「……もう! せっかく今日ならではのプレゼントですのに!」
リリティアが頬っぺたを膨らませながらブーブー言ってくる。
しかしそこで楽しい食事タイムもいったん中断。俺達の背後から殺気よりも大きな物音がする。
振り返るとそこにいるのは先ほどまでなかった大きな木。
その枝には大量のキラーアップルを実らせ、その分身と変わらない邪悪な表情を幹のど真ん中から覗かせていた。
「向こうからやってきたか」
「チャチャっと倒しちゃいますか。私、まだ食べてないですし」




