30話 肉の種類に魔物の種類
ボベリウの町から東に出て数キロ先にある巨大な森。名前も町にちなんでそのまま『ボベリウの森』。
さて、依頼内容は『地殻変動調査及び魔物討伐』。
普段なら旨そうな魔物の討伐を優先させたいところだが今回は町の発展に絡んでいるらしい天然ガスに少しでも関係がありそうな地殻変動調査の方を進めていきたい。
いやまあ手掛かりも何もないため結局手探りになるし、そもそも地殻変動と天然ガスの関係性も、ただ地面が関わっている共通点があるというそれだけに過ぎないのだか。
つまるところやる事は同じなので気持ちの持ちようの問題。と、そこで今回の依頼を受けるきっかけになった発言を残したリリティアから声がかかる。
「それで、今回はどんな魔物を狙うのですかアッシュさん」
「なんで俺が魔物を食う事が目的である事前提なんだよ」
「別に『魔物を食べる』とはまだ言ってませんけど、私の言いたいことを察してくれたのなら幸いです」
口の利き方だけは上手くなったようだな。
でもまあいいや。こう言ってくるのも、リリティアもまた俺の気持ちを優先させんが為の事だろう。そっちに合わせといている。
「そうだな、魚に牛に鳥……蝙蝠や翼竜だが、とにかく主要な肉は一通り食ったから、肉はなんでもいいや。目に見えたものを食っていこう。で、せっかく初めての森に入るんだ。木の実や果実なんかがあるといいな」
「あ、それなら私も食べたいです! 甘ーい果物がいいですね!」
「ま、結局のところは見つけたものを食うんだけどな」
こうして俺達はボベリウの森に足を踏み入れた。
◇
中に入ると木々の密集度が異様に高く、一本一本が巨大な事も良くわかる。
密林。ココと比べると、リリティアと出会った森は林程度のものにも思えてくる。
「深い森ですねー、私の故郷に近いかも知れません」
「エルフの集落か。俺も昔その一つに行った事もあったが、確かにあそこも密林だったな……しかし、ここは暑いな」
「普通の密林は暑い場所に出来る事多いみたいですしねえ。お日様のエネルギーをいっぱい貰っているからでしょうか?」
「『普通の密林は』? エルフの集落は普通とは違うのか?」
「私達エルフは基本的には暑いの嫌いなんです。それでいて魔法が得意なエルフが多いからか、自然とエルフが集まっている所はみんなの魔力で涼しくなるんですよ」
初耳だな。
いやエルフが熱を苦手とする事は知っていたが、魔法を無意識に集団発動させているだと?
「エルフの集まりは天然の……いや人工的な? 寒冷装置みたいなものか」
「あはは! そうなっちゃいますね! 炎の魔法だって使えるし得意なエルフもいるのに不思議ですよね」
こう言った雑談をしながら歩いていると、前方から物音が聞こえる。
俺達は立ち止り、リリティアは自慢の耳に手を添え文字通り聞き耳を立てた。
一方俺は目を閉じて物音方向へ意識を集中させる。
ワイバーンから入手した『索敵』のスキル。生命反応が三つ。似たような反応である事から同じ種族の魔物、か?
「リリティア、構えろ」
「ええ、果物が良かったですけどやっぱり最初はお肉になりそうですね」
「致し方ないだろ……」
そこまで言いかけた時、物音の主が姿を見せた。
ギラギラした目つきに鋭い牙。その物体は明らかに魔物である。
しかし、その顔はみずみずしい緑色に染まった球体に付いており、そのてっぺんからは何か茎の様なモノが可愛らしく生えている。
「おっきな青りんごに顔が付いています……」
「これは……果実としてカウントしてもいいか?」
「私としては嫌です」
「しかし肉でもないだろう」
「果物としても認めたくありません」
植物系の魔物か、そういえばそういう種類もいたな。 この辺りでも全然見ないからスッカリ忘れていたぜ。
コイツらの名前は『キラーアップル』。どこかに本体となる木の魔物『キラーツリー』がいて、先兵として実らせたキラーアップルを周囲に拡散し、獲物を捕獲させ自分の下に持ってこさせる移動型食人植物だ。
奇怪な見た目ではあるがキラーアップル単体の戦闘力は高くはない。俺はすぐさま奴らに接近すると短剣で中央の一体を素早く切り裂いた。
「ギャワギリリンゴオォォォ!!」
切り裂いた個体が断末魔を上げた。俺に続くようにリリティアが魔法を展開し唱える。
「【ファイアー】!」
「ギャワヤキリンゴオォォォ!!」
あっという間に炎に包まれ同じく断末魔を上げる。それと同時に中々香ばしい香りが辺りを立ち込めた。
元々が植物の先兵。仲間がやられた程度の事で恐れる様な素振りは一切見せずに、残る一体俺の方に飛び掛かって来る。
俺はその噛みつきを短剣で受け、その短剣を宙に軽く頬り投げ投げる。
「うおりゃあッ!!」
短剣に噛みついたままのキラーアップルの両頬を挟み込むように拳をぶつけ、
「ギャワスリオロシリンゴオォォォ!!」
この奇妙な魔物を押しつぶした。
三体とも無事撃破、一丁上がりだ。
しかし、コイツら口は塞がっていても断末魔だけは器用に上げるな。キショい。
「さて、コイツらがいるってことは近くに本体のキラーツリーもいる。それを倒さない限りコイツら際限なく湧いてくる可能性もあるから、ササっと見つけて処理しよう」
「はーい」
返事をするリリティアと共に飛び散った残骸の横を通り過ぎようとする。
と、そこで俺の中からいつもの声が聞こえた。
──『コイツらを喰え』──
ええっと【暴食】さん、マジっすか? 相当キショいんすけど。え? いいから喰え? でもコレは流石にさあ……しかし、焼いた個体は香ばしいし潰した果汁は甘い匂いがするな。全くしょうがねえなあ今回だけだぞ!
無言でキラーアップルの残骸を拾い出す俺。
もはやリリティアも慣れたようで、何も言わずにその作業を手伝い始めた。




