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27話 ボベリウの町

 ボベリウの町。

 数年前に俺は一度この町に訪れた事があった。

 特に大きな理由があったわけではない。Sランク冒険者パーティとして旅をしている中で、拠点の一つとして立ち寄った小さな町。

 そう、小さな町であったはずだ。

 しかしそれが今はどうだ、その面積は数倍に膨れ上がっており、大通りには王都の様な数の人々が賑わっている。


「わあー! 凄い人ですねー!」


「話には聞いていたが、もう都会と化していたんだなここは」


 いつもならば周囲の視線を集めるリリティアなため、人の数が多いこの場ではいつも以上のものになるかと思った。

 だが、その考えは杞憂だったようだ。

 なるほど、人の数が多い分色んな奴がいるな。リリティア同様セクシーな衣装をまとっている冒険者。ピエロのような訳の分からん恰好をした奴もいる。エルフの他、ドワーフや獣人といった異種族もチラホラ見えるな。どんな種族どんな趣向の者でも分け隔てなく受け入れている町のようだ。

 さてそれはともかく、町に着たならばまずは冒険者ギルドに……じゃなかったわ。いかんいかん、思考が完全に仕事人のソレになってしまっている。


「で、リリティア、どこに行きたい?」


「え?」


「え? じゃねーだろ。お前が『ここに新しい発見がありそう』とかいうから来たんだ」


「あー、ええっとそう言えばでしたね。……うーん、それじゃあ、大きな町ならまた違った依頼もあるかも知れませんし、冒険者ギルド、行きます?」


 お前もかい。


「……いいけどよ、じゃあ、行こ────」


「返せねえとはどう言うことだこの野郎ッ!!」


 「行こう」と言おうとした瞬間、明後日の方向から怒鳴り声が聞こえる。

 気になってそちらに目を向けてみると、そこには軽い人だかりができていた。その中心にいるのは二つのグループに分かれた数人の男女。

 

 片方は黒いスーツ姿に派手な貴金属を身に着けた銀髪オールバックの男を中心に、他数人明らかにガラの悪い、しかし屈強な肉体を誇る男達。

 もう片方は赤く長い髪の美しい女性。顔だちは非常に整っているが瞳の色は鋭く、冷静を通り越して冷酷さすら感じ取れる。

 そしてその女性の後ろに隠れているのは気の弱そうな中年小男。


「言った通りよ。貴方達が貸し出しているお金は金利が高すぎる。ここは王都ではないけれど、それでもこの国である以上は法がまかり通っている。それを無視しての金貸しなんてただの犯罪よ、従う必要はないわ」


 赤髪の女性の言葉に、銀髪オールバックが詰め寄り口を開く。


「なあ~姉ちゃん、正義の味方のつもりかい? そこの男は間違いなくその条件で俺達から金を借りたんだ。法がどうこうは聞いちゃいねえ、人と人との約束を破っちゃいけねえよなあ~。俺は美人は好きなんだ、増してや関係ないアンタに乱暴する趣味はない」


「私は貴方みたいな男大っ嫌いだけどね、弱者の弱みを握り言葉巧みに近づいてそれを貪る亡者共め、今なら許してあげるわ、そうそうに立ち去りなさい」


「……姉ちゃん、見ない顔だがシザリックファミリーの事は知っているだろう? そのNO.2であるこのジャヴィッツ様にそんな悪い口聞いちゃあいけねえなあ。俺が温厚でもコイツらが黙っちゃいねえぞ?」


「姉ちゃん姉ちゃんって別に私は貴方の姉なんかじゃあないわよ? ミスリーって立派な名前があるの、別に貴方なんかに覚えてもらう必要もないけど。数にモノを言わせないと発言の一つも出来ないのならば、頼もしいお仲間の陰からコソコソ言っていればいいんじゃないかしら?」


 尚も言い争う二人を見ながら俺の隣でリリティアが俺の服の裾を掴む。


「アッシュさん……なんだかあの人達、恐いです」


「真昼間から喧嘩しそうな勢いで怒鳴り合っていればそりゃ恐いわな、しかしあの姉ちゃんも度胸あるねえ」


「そうじゃなくって────」


 リリティアが言いかけた時、ジャヴィッツと名乗った銀髪オールバックの身体が地面に叩きつけられた。

 ミスリーという赤髪の女性が一瞬のスキをついて投げ技をかましたのだ。


「兄貴!」

「女! てめぇ!」

「やっちまえ!!」


 おそらく周りの男たちはジャヴィッツの指示で手を出していなかったのだろう。しかしそのジャヴィッツが投げ飛ばされた事でその均衡が破れたようだ。

 一斉にミスリーの方へ皆拳を振り上げながら駆けだす。あくまでも喧嘩の類に納めるつもりなのか武器は使わないようだ。


 しかしそれはともかく多勢に無勢。

 ミスリーの方も腕には自信があっての行動だろうが、女一人でこの人数差では流石に敵わないだろう。

 事情は知らんしミスリーの口の悪さは気になるが、美女を颯爽と助けるというのも乙なモノなのかもしれない。

 と、思ったがミスリーの強さは俺の予想の上をいった。

 迫りくる男達の攻撃を最小の動きで見切り、相手の勢いを利用しつつ足払い転ばせ、あるいは技で投げ飛ばしていく。


「「「おおおーーー!!」」」


 その曲芸や演劇のような一連の出来事にギャラリーが大きく沸き上がった。

 さほど時間を立たずに男達は全員地に伏せる。

 俺も感心しながらその動きを見ていたが、リリティアだけは服の裾を掴んだままやや険しい顔をしたままだ。


 倒れた男たちのなかから、最初に倒されたジャヴィッツが起き上がった。


「クソッ! てめぇ覚えてろよッ!!」


 何ともわかりやすいセリフを吐き捨てながら、他の仲間たちと共にその場を走り去っていく。

 そしてその時、服の裾を掴むリリティアの力が弱まった。


「おう、もう大丈夫か?」


 戦闘が終わり緊張が解けたのかと、俺はリリティアに話しかける。


「……うん、なんだか恐いのがいなくなった」


「? まあ喧嘩は終わったからな」


「う~ん……そう、だね……」


 なんとも歯切れの悪い言い方。

 ……いや、そもそもリリティアが他人の喧嘩くらいで怯えるか? 危険な魔物達との戦闘を幾度もこなしてきた中々に凄腕のエルフだぞ?

 魔物と人とでそりゃ勝手も違うが、どちらかというと殺しにかかってくる魔物の方がよっぽど恐い気が……


「あ、アッシュさん、さっきの人こっちに来ます」


 その言葉に顔を前に向けると、こちらに歩みをよせている赤髪の女性ミスリーと目が合った。

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