24話 依頼後の夜に
依頼を達成しギルドを通して報酬を受け取った。
その後イオス達と挨拶をし別れた俺とリリティアは、多少質の良い宿に泊まる事にする。
空き部屋や持ち予算の都合で相部屋にする時もあるが、大きな仕事を終えた後である今回は別部屋で互いにゆっくり休むという話にした。
一人そこそこ上質なベッドでくつろいでいると、左手に付けている太陽のリングが反応する。
オルディエか。今度は何だろうな。
「はいアッシュです」
『夜分すみませんアッシュ様、調子の方はいかがでしょうか?』
なんだ? ただの雑談か? 忙しい身のくせに。
「今のところはボチボチ上手くやってけていますよ。今日も大きな依頼を済ませていい宿に泊まっています」
『あらあらそれは良かったです。所でアッシュ様、太陽のリングに留め具の様なもの付いているのわかりますか?』
留め具?
……ああ、これの事、か? 装飾の一部かと思った。小さくて今まで気がつかなかったな。
「はいありますね」
『それを開けて頂くと、中に小さな小さな真珠のようなものがいくつか入っていると思いますの。それを一つ、床に置いて頂けません?』
確かに入っているな。……魔力が込められている特別な道具のようだ。しかし何に使うんだコレ。
「はい置きました。何ですかコレ」
『ウフフ、今から説明いたしますね。でもその前に、その真珠の近くには物や人は何もないでしょうか?』
「? はい、半径1メートル程度には何もないです」
『わかりました、では!』
その声と同時に、真珠が眩い光を放った。いきなりの出来事に思わず目を閉じる俺。
数秒してから目を開けると、そこには長い青髪で白いローブを纏った、見覚えのある綺麗な女性が立っていた。
「とまあこのように魔力を込めた私と真珠の場所を入れ替える魔道具でして、名前もそのまま『転移真珠』といいますの」
突如現れたオルディエはニッコリと笑ってそう告げた。
先に言えよ。てか神殿最高権力者の聖女様が、ホイホイと単身で辺境に転移していいのかよ。あ、そういやこの人一人で未開洞窟の奥とか行ってたわ。神出鬼没な聖女様なこった。
「……お久しぶりですオルディエ様。聖女様から夜這いのお誘いなど光栄にございます」
「ウフフ、嫌だわアッシュ様ったらとってもお上手」
半眼の俺からの盛大な嫌味も華麗に流された。
「冒険者としてのご活躍、我が事のように嬉しいです。……でも少し残念なお知らせがありまして」
残念なお知らせ? それを伝えに来たのか?
「ありがとうございます、何でしょうかそのお知らせとは」
「『亡くなられた勇者パーティのアッシュ様に似た方が冒険者をやっている』という噂が流れはじめておりまして、ユナイト様達の耳にも入ったようです」
あー、まあいつかはそうなるわな。しかし思ったよりもはやい。
「なるほど、情報ありがとうございます。ユナイト達はどう出る様子か、教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、ユナイト様はアッシュ様の身を案じておりました。他のお三方も表面上は。しかしユナイト様がその真偽を確かめる提案をすると、『魔王を倒す旅をするのにいい所まで来ているのに、今から戻るわけにはいかない』とオリア様が反対されましたの。勇者パーティの方々がこちらまで来られることは、少なくともしばらくはないと思いますが、それでも用心しておいてくださいね」
ふむ。この話の通りなら、恐らく俺を殺そうとしたのはオリア、メイ、プリエスの三人内での秘密事だな。
他の権力者を巻き込んでいないならあちらも下手には動けまい。
つーかアイツらからしたら、俺が騒がない限りは支障ないし、『暗殺されかけた』と騒いだ所で信じる者は少ないだろうから大した問題はないのか。お互いに出会いたくない関係なわけだな、多分。
「そうさせていただきます」
「ええ。……所で、リリティアちゃんはどこに?」
「ああ、リリティアなら隣の部屋で休んでいますよ。せっかく来たなら顔見せてやると喜ぶんじゃないですかね」
「ウフフ、じゃあそうしようかしら。ではアッシュ様、また後ほど」
そう言ってオルディエは扉から出ていった。
他の客と鉢合わせたら驚くんじゃねえかな、こんな所に聖女様がいるなんて。顔を知らない人間でも明らかに高貴な服を着ている見慣れない美女がいたら普通とは思わないだろうし。
ま、いいか。転移魔法に優れたオルディエには慣れっこなのかも知れん。俺が気にする事じゃないだろう。
忙しい身でわざわざ情報を伝えに来てくれた事、感謝しないとな。これも『大罪スキル』繋がりの縁、か。
……ん? わざわざ情報伝えるにしても、それだけなら太陽のリング越しで良くないか?
◇
(ここからリリティア視点です)
私は枕を抱えながらベッドでうつ伏せになっていた。
依頼は成功してお金は入ったし、イオスさん達とも仲良くなれた。ご飯は美味しかったしベッドもフカフカで気持ちいい。
「ぷわ~ひゃ!」
自分でもよくわからない奇声を上げながら仰向けになるように身体を動かす。
恵まれているのにモヤモヤする。理由はわかっている、けど────
コンコンコン。
そう思った時、ドアがノックされた。
アッシュさんかな? というか私の部屋に用がある人なんてアッシュさん位だろう。
「はーい開いてますどうぞー」
ノックに対して、そのままゴロゴロしながら目も向けずに返事を返すと、キィ……という音がした。
ドアが開いたようだ。
「ウフフ、こんばんはリリティアちゃん」
その声を聞いて私は跳び起きる。
完全に無警戒だった。だってこの人がこんな所にいるはずがないんだもの!
「オルディエ様!? どうしてここに?!?」
洞窟で出会った時と変わらない優しい笑顔でオルディエ様は立っていた。すぐにそちらに駆け寄る。
「ウフフ、横になっていてもいいわよ? 私も座っていいかしら」
「はい! どうぞこちら椅子です!」
私は流れる様な速さでオルディエ様に椅子に差し出す。その動作をみてオルディエ様はまたすこし笑うと腰を掛けた。
「ありがとう、リリティアちゃんも座ってね」
私だけ立っているのも変な話だ。
この部屋に椅子は一つしか無いのでさっきまで寝ていたベッドに再び腰を掛ける。
「……それで、オルディエ様はどうしてここに?」
手段の事ではなく理由の事。
さっきも「どうしてここに?」と尋ねたけれど、この人の事だ、その理由は薄々わかっていた。
「だって、リリティアちゃんからあんな感情が送られてきたんだもの、いても立ってもいられなくなっちゃった」
オルディエ様はやや眉を顰めてそう言った。
やっぱり……ただ、些細な愚痴をこぼすように月のネックレスに念じただけなのに。まさか直接来てくれるなんて……
「すみませんオルディエ様! わざわざ来ていただく事じゃありませんのに!」
勢いよく直角に頭を下げる私。この頭突きの勢いで脆い板くらいなら割れる気がする。
そんな私の頭を、オルディエ様はフワリと抱きしめた。その柔らかい胸がいつかのように私に当たる。それは顔だけでなく、心までも包み込んでしまうかのような優しい優しい抱擁。
「いいのよ、かしこまらなくたって。そんな事させるために来たんじゃないんだから」
その優しさに涙目になりながらしばらく身を任せていると、
「あ、そうだ」
オルディエ様は何かを思いついたように声を上げた。
そして私の頭を離すと、手持ちのバックから何かを取り出す。
「じゃーん! これ、ベルメック王国から頂いた最新の高級焼き菓子!」
やはり笑顔でそう言うと、口元に人差し指を当てながらウインクをしつつ更に続けた。
「ウフフ、ちょっとしかないからアッシュ様には内緒で、二人でお茶しちゃいましょうか!」




