16話 昇格
流石にあの巨体の残り全てを持って帰るのは困難だったため、デモンタウラスの肉はその場で出来る限り食い、お土産に一食分だけを確保して残りは置いてきた。
少々惜しい気もしたが、デモンタウラスがアレ一頭だけと言う事はあるまい。ならばまた獲りに行けばいいだけの事。
地上に戻った俺達は、まずは米と共に残りの肉を堪能した。
全て焼いてきたのは間違いだった。流石に焼きたての肉には敵わない。誰だ丸焼きにしたいとか抜かしたヤツは。いやしかし生肉を持って帰るとそれはそれで鮮度の問題もある。リリティアの氷の魔法である程度は保てるが、それも限界がある以上はこれが正解だったか?
しかし、それを差し引いても米との相性は抜群。
肉を一口食うだけで米がいくらでも進む。米、肉、焼肉のタレ、これらが口の中で混じり合い胃が満たされていく喜びは他のものでは形容しがたい。
あっという間に肉が無くなってしまった。多少無理してでも全部持って帰ってくるべきだったか。今の俺ならばデモンタウラスの重量事体はさほど問題ではなかったが、巨体であり既に焼けている事で非常に持ちにくかったのだ。ホント誰だ丸焼きにしたいとか抜かしやがったヤツは。多少悪くなっても腹いっぱい米と共にかっ込みたかった。
ちなみにリリティアは戻ってからは食わなかった。洞窟内で食べたから腹がいっぱいらしい。前のパーティでもそうだったが、まったく女というヤツは小食が多いな。
食事を終えた俺達は冒険者ギルドに向かい、デモンタウラスの角及び翼を受付嬢に見せながら説明した。
その行動にギルド内部がざわめく。
「デモンタウラスだと……? あんな化け物がいるのか!」
「それを倒したアイツは一体何者だ?」
「いや、なんかもう一人いるみたいだぞ? ほら、マントの中から足が見えてる。……細いな女か?」
ちなみにリリティアはまたしても俺のマントの中に隠れているためそういう意味でも注目を集めていた。
「じょ、情報感謝します! 少々お待ちを!」
慌ててお偉いさんを呼びに走る受付嬢。
まあそうなるわな。あのレベルの化け物がいる所に新米冒険者を送る事など自殺行為だ。
それ所か、もし奴らが地上までやってくることになったなら周辺地域に甚大な被害を出す恐れもある。
しばらく待つとさっきの受付嬢が戻ってきて、奥の部屋に案内された。
その中で待っていたのは髭面のおっさん。
「ワシがこのギルドの長じゃ。初お目にかかるの、アラン殿。洞窟探査の依頼ご苦労だった、まさかあそこにデモンタウラスが生息していて、更にそれを単身で倒す程の男とは思わなかったぞ」
「流石に単身じゃあないな。……リリティア! いい加減出てこい」
俺はそう言って腕をマントの中に回し、リリティアの頭を鷲掴みにして無理やり引き出した。
「きゃーきゃー! 止めてください! アッ……アランさんのエッチ!」
引っ張り出したリリティアを隣に置き、俺は椅子に腰を掛けた。
ここにいるのは三人だけ。大人数に見られるわけではないとわかったリリティアも観念して俺の隣に座る。
「フォッフォッフォッ! なるほど魔法が得意なエルフの嬢ちゃんとのタッグじゃったか。……いや、単身でなくとも二人でも十二分凄いぞい。お主、Aランククラスの実力はあるんじゃないか? なぜその実力でいまだEランクなのだ」
「こちとら好んで日払い労働を職にする男だ。色々あったんだと察してくれ」
「フォッフォッフォッ! 余計な詮索じゃったかの! さて、本題に移ろう。話は大きく分けて四つじゃ、一つ、お主らを今日からDランクに昇格する。お主らの実力ならDランクでも物足りない事は多いじゃろうが、そこは規定じゃ。今後も頑張ってランクを伸ばしてくれ」
ふむ、順当な評価だな。飛び級でCランクまでいく事も少し期待したが、デカい魔物を一体倒しただけならまぐれだってあり得る。
「ありがとよ、それで他の三つは?」
「うむ、二つ目と三つ目は一緒に話そうかの。まずは『未知の洞窟探索依頼』に十分に貢献した点。これがこの報酬じゃ。……そしてデモンタウラスの角と翼を持ってきておったの、それをこちらに売ってもらいたい。そこで更に追加報酬にこれだけ。……どうじゃ?」
ファングフィッシュの牙もそうだったが、魔物は身体の一部が武器や道具の素材となり換金できることがある。
強い魔物ほど強靭な身体を持っていることが多く、当然素材としても有能に、つまりは高額で取引する事が出来る。
……規定の金額より少し多いな。俺達を買ってくれている証拠か。
「ああ、それでいいぜ」
デモンタウラスの事を考えていたら、あの味を思い出して腹が減ってきた。
話はテキトーに切り上げてまたあの洞窟に行きたい。いや、あの洞窟が俺を待っている。肉が俺を呼んでいる。
「おお、ありがとうよ! ……それで最後の一つじゃが、お主らの働きであの洞窟の危険度がわかった。今日よりあそこはCランク以上が入れる事とする」
「ああ、わかった。じゃあ話はそれでいいか? ちょいと急用を思い出してな、俺はそろそろ行きたいんだが」
「おおそうか、うむわかった! では行くがよい!」
やや偉そうなおっさんだが悪いヤツではなさそうだな。てか実際偉いか、ギルド長だし。
しかしそんなことはもうどうでもいい。肉だ肉! む、もしかしたらあそこにはまだまだデモンタウラス以上の肉がいるかも知れん。急がねば。
俺は早々とギルドを出るとその後ろからパタパタと走るリリティアが話しかけてくる。
「ねえねえアッシュさん」
なんだよこの忙しいときに。俺は一刻も早くあの場に戻らなければならないんだよ。歩いて丸一日以上はかかるが全力で走っていけばもうちょい早くはつく。だがその前に多少準備を必要だというのに。やれやれ空気の読めないヤツだ。
「なんだリリティア」
「さっきからアッシュさんが考えている事大体わかるんですけど」
おお肉に呼ばれるこの気持ち、わかるようになったか中々成長したな。だがわかった上で俺の足を止めるのは感心せんな。よほどの事でないならば怒るぞ。
「私達、もうあの洞窟に入れませんよね? 私達Dランクで、あそこ私達の報告のせいでCランク以上になっちゃいましたし」
……………………え?




