11話 物理
「リリティア、この辺は地形が悪い。足元には気をつけろ」
「あ、はい」
ジャイアントバットから入手した『超音波』のスキルを使う事で薄暗い洞窟内を問題なく進む俺達。
なんせこのスキルを使う事で、俺には足元の小石一つまで正確に察知し、数十メートル先の地形や生き物の存在にも大まかに把握できるのだ。
ただこのスキル、燃費はあまりよろしくない。使い続けていればすぐに喉が渇くし腹も減る。手持ちの水や先ほど取った焼き蝙蝠で俺は腹を満たしつつ進んでいた。
その間に他の魔物とも遭遇する。デカい蜥蜴やデカい鼠。……大体デカい動物が魔物だ。
薄暗い上危険地帯の為ゆっくり調理している余裕はないが、それらを仕留めては焼いて食うを繰り返している内に、大きな部屋に辿り着く。
ここでも『超音波』を活用して周囲の様子を確認するが、生物の存在は見受けられない。
しかし、岩の形が何やら独特な形をしている気がする。
「リリティア、魔法でこの部屋を照らせるか?」
「出来ますよー! 【ライト】!」
リリティアは右手を広げて大きく上に上げた。
そして言葉と共に眩い光が辺りを照らす。先ほどの【トーチ】の上位魔法だろうか。
急な眩しさに俺は反射的にマントで目を覆う。
「あははっ! アッシュさん中身も蝙蝠になっちゃったんですか?」
うっさい。至近距離でこんな光が出てくれば誰でもこうなるわ。
照らされた部屋の正面を見て、先ほど感じた『独特な形の岩』が何なのか明らかになる。
石像だ。それもデカい。座っているというのに高さ5メートルほどあろう巨人。これが立ち上がったとするならば二階建ての家より大きな高さになるだろう。
「うわー! おっきい像ですねー!」
リリティアはピョンピョンと跳ねながら嬉しそうに像のほうへ近づいていく。
そんなリリティアに俺は声を投げかけた。
「気をつけろリリティア」
「え?」
その言葉にリリティアが振り向く。
俺は頭をかきながら忠告をした。
「洞窟の深部にある石像、そんなものはな……」
その時、小さな地響きが起こった。
「わわっ」を足をもつれさせつつもバランスを維持するリリティア。
そんな様子はお構いなしに俺は言葉を続ける。
「石の魔物だろうと相場は決まっているからな」
その言葉に、リリティアは前に振り向き直した。
先ほど座っていた巨体が、予想通り家より大きな高さで起き上がっている。
「そう言う事は早く言ってください~!!」
叫びと共にリリティアの方へゴーレムの剛腕が振り下ろされる。
リリティアの俊敏さならその一撃は回避できるだろうが、俺は一応素早くリリティアの下へ駆け寄り手を引っ張り回避行動をフォローした。
「きゃんっ!」
リリティアは引っ張った先で盛大に転ぶ。
訂正。俺のフォローは多分余計なお世話だった。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとどうするんですかアッシュさーん! こんな大きいの私の魔法じゃ無理ですよー!」
立ち上がりながら涙目になりつつ俺に向かって叫ぶリリティア。
そう、ゴーレムという存在はそれが厄介である。
動物型の魔物と比べ非常に硬く痛覚も無い、もしくは鈍い。
並みの炎や刃ではまるで通用しないことがほとんどである。
では俺のスキルではどうか。
『雷撃』はこの相手にはあまり効果は望めないし、生物でないため『神経毒』も効かない。
『液体操作』はそもそも操作するものが碌になく、『超音波』もコイツとの殴り合いには関係ないだろう。
「何突っ立ってるんですかあ!? アッシュさんのせいですからね! アッシュさん何とかしてください!!」
「わかった」
そう言って俺はゴーレムのほうへ飛び掛かった。
「え? あ、ちょっと……」
固くて強いゴーレム。刃や魔法が効かないからと行って、考え無しの接近戦は通常自殺行為。
鈍重な動きを上手くかき回し、低い知能を利用して上手く地形の窪みにでもハメ、鈍器で叩き潰すなり崖から落とすなりするのが基本の強敵。
だが、それも通常のパーティの場合。
世界に二組しか存在しないSランクパーティの一員だった俺は、何度も見てきた。
超高威力魔法でこの巨体を吹っ飛ばす様を。
そして、肉体の力だけでこの巨体を粉砕する様を!
「オラァッ!!」
一度の跳躍でゴーレムの眼前まで迫った俺は、拳で思いっきりこの石顔を殴り付けた。
それにより巨体がよろめき、音を立てて後ろに倒れた。
「……え?」
後ろのリリティアから間の抜けた声が上がる。
俺はそのまま倒れたゴーレムの顔面に降り立ち、
「ハアァッ!」
先程殴った場所に更に拳を降り下ろす。
ピシッ、という音と共にゴーレムの顔にヒビが入った。
「もういっちょおおぉッ!」
俺は三度ゴーレムを殴り付けた。
それによりゴーレムの顔面はクッキーのように破壊され、その巨体は動くのをやめた。
剣が効かない。魔法が効かない。スキルが効かない。
それならば力任せに物理で倒す。
断っておくと、前パーティにいた時の俺にはこんな真似は逆立ちしても出来ない。
後ろのリリティアのように、その圧倒的強さを誇る勇者や戦士を呆然と眺める事しか出来ていなかった。
しかしリリティアと出会い【暴食】の声の赴くままに魔物を食った俺の力は驚くほど増している。
今日今まで多種に渡る魔物を食い続けた俺は、魔物のスキルだけでなく自分の中で増し続ける力を確かに感じ取っていたのだ。
「……まだユナイトやオリアのように一撃でとはいかない、か」
ゴーレムの破壊がスイッチになったのだろうか。
ゴーレムが座っていた背後の壁が、ゴゴゴ……と音を立てて扉のように開き始めたではないか。
そしてその奥に、この未開洞窟の隠し扉の向こうに人影がみえる。
「あら? 貴方達は……」
その人物は、青い長髪をたなびかせ純白のドレスに身を包んだ綺麗な女性。言うまでもなく洞窟探索には向かない格好。
俺はこの相手と過去に出会った事があった。
いや、この大陸に住む人間ならば殆どがその存在を知っている。
「聖女、様……? なんでこんな所に?」
俺の背後でリリティアが声をあげた。




