10話 ダンジョン侵入
俺達はギルドの依頼『未開洞窟の探索』の為の洞窟入り口に到着していた。
この依頼がギルドに発表されてからすでに数日、入り口の前には他の冒険者達の姿もチラホラみられる。
「他の冒険者さん達も来てますねー」
「まずは情報から集めようか」
そう言いながら俺は革の鎧を纏った近くの冒険者集団に話しかける。
「やあ、調子はどうだい」
気軽に手を上げ挨拶をする俺に、冒険者数人がこちらに目を向ける。
「ああこんにちは、俺達も今から……」
そこでこの男共の視線がリリティアの方へ向く。
リリティアの格好は先日買った踊り子の服のままだ。あれから数日、いい加減人目を歩くのは多少慣れたようだが、この格好で他人と会話をするのは無理なようだである。
すぐに俺の後ろに隠れ、その影から赤らめた顔だけをひょっこりと出す。
リリティアの整っており格好も目立つからと言って、この洞窟入り口まで来て男連れの女を口説くヤツは流石に余りいない。
また、洞窟探索でこのような服装は通常向きそうもないものではあるが、この手の服には特別な魔力がこもった物も多い。
相手の男たちもそういう物なのだろうと納得したようで俺へ視線を戻した。
「可愛らしいメンバーを連れてるね、エルフだなんて羨ましい限りだ。それで、俺達も今から入る所さ……ただ、話を聞く限り一筋縄では行かないダンジョンらしい」
「ほう?」
「さっき出てきた他のパーティの話を聞いたんだけど、中は天然の大迷宮になっていて魔物の数も多い。手ごわい魔物も多いみたいだ」
「なるほど、厄介そうだな」
「で、そのパーティも結構奥まで行ったんだけど最後になにか強力な波動を感じて、パーティ全体の消耗具合も考慮して引き返してきたらしい」
「ふむ、協力感謝する」
「アンタ強そうだな。そっちの子もエルフだろう? 魔法が得意な種族だっていうし……こう言っちゃなんだが俺達もそこそこやるパーティのつもりだ、良かったら手を組まないか?」
そこで俺はリリティアの方へ目をやった。
リリティアは俺の後ろに隠れたままふるふると首を横に振る。前の衣装のままならここまで消極的ではなかったのだがな。これはもうしばらく難儀しそうだ。
そんなリリティアの方へ親指を向けながら、冒険者の男の方へ視線を戻した。
「願ってもない話だが、ウチのお姫様がこの様子だ。済まないが遠慮させてもらう」
「ははっ! そうかい、残念だ。俺の名はイオス、またどこかで縁があったら考えといてくれ」
「俺はア……アランだ、こちらこそその時は頼む」
アッシュとはありふれた名前だが、それでも無理に名乗る必要もあるまい。俺はギルドに登録しておいた偽名を名乗る。
リリティアはそのまま俺を本名で呼ぶが、言っても直らないので諦めた。勇者パーティにばれたらばれたでその時考える事にする。
こうしてイオス達と別れ、俺はリリティアと二人で洞窟へ入っていった。
◇
イオスが言った通り中は天然の迷宮だった。普通に入っていっては帰れなくなってしまうかもしれない。
ソレを察してか、リリティアが両手を何かを包むような形にし、唱えた。
「【トーチ】」
言葉と共に、リリティアの手の中に淡い光の玉が現れる。
リリティアはその球を壁に擦り付けるようにすると、光の玉は壁にくっ付いた。
「アッシュさん、これを一定間隔に置きながら進んでいきましょう」
「……器用なヤツだな、リリティア。ここまで多くの種類の魔法が使えるとは」
素直にほめるとリリティアは「えへへ」とはにかみながら頭をかいた。単純な奴め。
その後しばらくは変わった事もなく雑談をしながら進んでいると、前方からキーキーと生き物の声が聞こえてくる。
「この声は……蝙蝠でしょうか?」
「ああ……だが、ただの蝙蝠じゃなさそうだな」
声の主たちの影が現れる。確かにそれは蝙蝠のシルエット。だが、異様にデカい。
「一体一体が1メートル弱……ジャイアントバットか!」
相手も俺達に気づいた、いや、とっくに気づいてはいただろうが奴らの迎撃範囲内に入ったのだろう。
一斉に俺達に飛び掛かってくる。
「はあッ!」
「【ハイウインド】!」
俺はサンダースネークの雷撃で、リリティアは風の魔法でそれぞれ攻撃する。
リリティアの判断は正しい。蝙蝠は超音波を使ってモノの形や動きを正確に把握し、攻撃を回避する。
しかし物質ではない風の魔法ならばそれも読みにくく、また高速広範囲で展開される【ハイウインド】は感知できても回避は困難。俺の雷撃は尚の事である。
飛び掛かるつもりが標的に近づく事すら出来ないジャイアントバット達。
それでも果敢に突進を続けてきたが、仲間が十数体落ちる頃には戦意を無くしたのか散り散りに逃げ去っていった。
「やったあ! アッシュさん! 撃退です!」
「ふむ、こんなモノだろう」
────そこで、またもや俺の中から声が聞こえる。『コイツらを食え』、と。
いい加減慣れてきたよ。しかしこんなくらい洞窟で調理ってのもなあ。……いや、さっき雷撃で倒したから半数は焼けているか。
そう言いながら俺は落ちたジャイアントバットを手で取り、
「え? アッシュさんまさかそのまま……」
食った。
うむ、見た目はグロいが悪くはない。ようは焼き鳥だな。見た目はグロいが。
……アレを使うか? いや、コイツには合わなさそうだ。別の肉を見つけたらにしよう。
「ああぁ~やっぱり。……美味しいですか? それ」
「まずまずだな。キチンと調理すればもっといけるだろう。数体持って帰ろう」
「ええ~袋グッチャグチャになりません?」
「構わん、美味いし」
ムッシャムッシャとグロい焼き鳥を食う俺を半眼でみるリリティア。少し遠い目をしながら呟いてくる。
「アッシュさん、今度は蝙蝠の羽でも生えるんですかね?」
つまりは悪魔の翼か。それはカッコよさそうだな。
だが、牙や爪のある魔物を食べても俺自身の見た目が変わったことはない。残念ながら流石にそれはないだろう。
一匹食い終わった俺は水を飲み、プハーっと息を吐いた。
そこである事に気が付く。非常に小さな音が反響しているような感覚。
「……」
「どうしました? アッシュさん」
「ジャイアントバットの超音波スキルが身に付いたようだ。これで洞窟内広範囲の構造が良くわかる」
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アッシュ・テンバー
『スキル一覧』
・【暴食】
・雷撃
・神経毒
・液体操作
・超音波
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