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境界線のダンサー

所要時間:??


人数:♂3 ♀1 不問2


《悪とはなにか、正義とはなにか》


世界の犯罪率が現在より格段に上昇し、警官のほとんどは汚職に塗れた近未来。世界各国の政府は、それぞれ自分達の国を案じ団結し、極秘裏にある計画を進めた。


"UNDEAD"

政府のブラックリストに載った犯罪者及び犯罪組織を法に関わらず、この世から抹消する権限を持つ人間の名称である。






登場人物


"ジャック" ♂ 34歳

UNDEADの一人であり、凄腕の殺し屋。

近接格闘(CQC)に置いては中でもトップクラス。

元々、法で罰が下されなかった悪人に天誅を下していたが、一度表舞台から消えていた。ネットでは"ジャスティス・リッパー"と神格化されていた。クールで自分から周りと関係を築こうとしない。



"ルイス" ♂ 23歳

UNDEADの一人。狙撃に特化している。

銃火器、メカニックの知識も誰にも負けない。陽気な性格で、いつも明るい。



"シャドウ"不問 ??歳(ナレ兼役)

突如UNDEAD達の前に現れる謎の存在。

真っ黒のローブと突如現れ消えていく事から"シャドウ"と呼ばれている。



"アリス"♀20歳

町外れの小さなバーで働く女性。

ある日突然事件に巻き込まれ、両親を殺される。



N(ナレーション)不問



"ハッピー"♂??歳

人を殺す事を嬉々として実行する殺人鬼。





N:某日、時計の針は夜11時を指していた。


アリス:あら!いらっしゃい!いつものでいい?


N:鈴の音が鳴り、馴染みの客が続々と入ってくる。だが一人、見知らぬ顔がそこにはいた。


アリス:いらっしゃいませっここは初めて?ぁ...もしかして親の時に来てくれてた方かしら...!


ハッピー:まぁ.........そんなとこだ。


アリス:やっぱり...!ごめんなさい失礼な事を......あの...なにかご注文は?


ハッピー:............


N:沈黙を貫くその客に、アリスはいくつか異変を感じた。充血し泳いだ目、小刻みに震える身体。


ハッピー:フぅ......フぅ......


アリス:あの、だ、大丈夫ですか?


ハッピー:(被せ気味で)......血だ。


アリス:は......?


アリス:ぇ......な、何を言って...


N:それはあまりにも突然で、そしてあまりにも、凄惨だった。

幸いアリスの命に別条は無かったが、男の魔の手は、バーに隣接していたアリスの家にまで及んだ。


ハッピー:イヒっ......ヒっ...血だよっ...!!!血をくれぇ!!!


N:小さな片田舎のバーで、銃声が何発も轟く。死者6人、アリスの両親も魔の手の餌食となった。


アリス:い、いや......だ............


アリス:しんじ...ない...!!


アリス:かあ...さん?父さん?ねぇ、嫌だよ!目を醒ましてよぉっ!!!!!!


アリス:目を.........醒まして......!


N:その日、一人の少女の平和な日常が音を立てて、崩れ去った。





シャドウ: 世界の犯罪率が現在より格段に上昇し、警官のほとんどは汚職に塗れた近未来。世界各国の政府は、それぞれ自分達の国を案じ団結し、極秘裏にある計画を進めた。


"UNDEAD"それは、政府のブラックリストに載った犯罪者及び犯罪組織を、法に関わらずこの世から抹消するシステム、またはその権限を持つ人間の名称である。


シャドウ:UNDEAD三条。


シャドウ:一.法に触れていない人間、団体の排除をしてはならない。


シャドウ:二.ターゲットとは、如何なる関係も築いてはならない。


シャドウ:三.ターゲットに、慈悲をかけてはならない。


シャドウ:以上を破った者には同志からの処刑が待っている。


シャドウ:我らはUNDEAD。正義を司る番人なり......





N:湾岸に建つ大きな倉庫。そこで今まさに、麻薬取引が行われようとしていた。


ジャック:......配置に着いたか?通信状況、距離、射線確認を求む。


ルイス:あぁ......ジャミング無し感度良好...ターゲットとの距離は......約2km、射線に障害物はない...いつでも敵に風穴を空けられる...


ジャック:よし...開閉式の屋根を開いたら、作戦行動を開始する。


N:次の瞬間、倉庫の屋根が開くと同時に倉庫内にフラッシュグレネードが展開された。取引をしていた人間達は瞬く間にスナイパーと暗殺者によって命を落とす。


N:それは僅か、十数秒の出来事であった。


ジャック:......あんたで最後か...すまんな、”仕事”なんだ。


ジャック:いつか向こうで会おう、きっとお互い地獄行きだろうからな。


N:血飛沫が宙を舞い踊り、一つの命の終わりを告げる。


ジャック:終わった...ルイス、お前何人殺した?


ルイス:あー、五人...かな。


ジャック:俺は七人殺した。約束、忘れたとは言わせないぞ?


ルイス:ああもう!分かってるよ!分け前の八割はそっちの物さ!


ジャック:いつものお前ならその距離からでも七人はやれるだろ、なにかあったか。


ルイス:...別に...どうでもいいだろ。


ジャック:......そうか。





N:ある小さな武器屋の地下で、彼等は居を構えている。


ルイス:たっだいまぁ!!って、誰も居ないか...今何時?


N:裏口から入り、射撃場の奥にある隠しエレベーターを開き、地下の隠れ家へと進む。


ジャック:もう午前三時だ、営業時間はとっくに終わってる。


ルイス:随分遅くなっちゃったな......


ジャック:お前今日変だぞ。


ルイス:へっ!?...き、気の所為じゃない?


ジャック:...あぁ、女か。


ルイス:はぁ!?なんっ...で...!


ジャック:当てずっぽうだったが...図星のようだな。


ルイス:ジャック!からかうのはやめてくれ!それに僕に女が出来たって別にあんたに関係ないじゃないか...


ジャック:あぁ俺には関係ない、だが、仕事には支障が出てる。


N:表情筋を一切動かさず、真っ直ぐ見つめるジャックの眼はまるでナイフのように、ルイスの目を貫く。


ルイス:そ、それは、ごめん...


ジャック:まあ、いいんじゃないか?その女の事を想いながら、蜂の巣になって目も向けられないような姿でその女に会いに行けばいい。その時お前が死んでいるか、生きているかは知らんがな。


ルイス:ははは...笑える......ふぅ...悪かった、仕事にはしっかり集中するよ。


ジャック:それでいい。それで?その女とは上手くいってるのか?


ルイス:いや!あの...


ジャック:ん?


N:数秒間の沈黙を経て、ルイスがやっと口を開いた。


ルイス:まだ......喋った事ない。


ジャック:......は?


N:より一層研がれたジャックの視線の刃が、ルイスの顔を滅多刺しにする。


ルイス:い、行きつけのバーに務めてる子で、その子を見ると見惚れるだけで何も言葉が出てこないんだ...!


ジャック:お前何歳だよ。


ルイス:......23。


ジャック:はぁ...お前顔は悪くないんだから、もっと攻めてみろ...待ってても向こうからはそう簡単に来ないぞ。


ルイス:だから...!二週間近く行けてないし、今日早くこの仕事が終わったら行こうと思って...たんだけど...この時間もうあの店閉まってるんだよ...


ジャック:だから時間を気にしてたのか...ふむ...


N:目線の刃を瞼の奥にしまい、熟考したのち、ジャックは口を開いた。


ジャック:なら、次の仕事は俺が全てやる。


ルイス:え、でもそれじゃあ分け前は全部あんたのもんじゃ...


ジャック:(被せ気味)分け前はいらん、終われば全てお前にやる。だからお前は俺が仕事をこなしてる間にそのバーに行ってこい。

で、終わったらその金でその女に良いもん食わせてやれ。


ルイス:いいのか!?


ジャック:構わない。それに...


ルイス:それに...?


ジャック:仕事にまた支障を出されたら困る。


ルイス:はっはは、やっぱそうだよな...頑張ってくるよ。


N:二人の何気ない会話に割り込むように機械音が鳴り響く。


ルイス:お、端末に通知だ。最近多いな。


N:UNDEADには、専用端末が配られている。ターゲットの更新や、報酬金の振込確認などの必要な項目が通知される。


ジャック:ターゲットの通知のようだな、大物が二人...


ルイス:へぇ、次はあんた一人でやるって意気込んだとこだったけど...大丈夫か?


ジャック:まだ現役だ、舐めるな。さて、どちらを先に片付けるか...


ルイス:......!!


ジャック:どうした。


ルイス:このハッピーって男が起こした事件...!


ジャック:...?


ルイス:さっき言ってたあの子の務めてるバーで起こってる...!





N:後日、昼方。某国の片田舎。果てなく続く道をジャックを乗せバイクが進む。


ルイス:彼女の名はアリス。

事件はちょうど一週間前の夜11時、彼女の務めるバーで起こった。客に紛れ店内に侵入したハッピーは、所持していたリボルバーで瞬く間に店内の客を惨殺し、さらには隣接していたアリスの家にいるアリスの両親まで容赦なく殺した。

生き残っていたのは隠れていたアリスと、死んだフリをしてやり過ごした客2名のみ。

今回のターゲットは、未だ逃亡中のハッピーのみ。見た目の情報は一切ない。あとやつはかなり...


ジャック:手強いんだろ?


ルイス:まあ、そんなとこだよ!だけどこいつは舐めない方がいい。記されてる奴の関わってきた事件を見る限り、あいつの腕は相当のもんだ。


ジャック:そこにはきっと記されてないだろうが、俺はやつのやろうとした事を何回も未然に防いでる。


ルイス:さっすが"ジャスティス・リッパー"さん!


ジャック:次にその名で俺を呼んだらお前の眼球を抉りとる。いいな?


ルイス:ウィッス、サーセンシタ...


ジャック:とにかく、あいつの手段なんて高が知れてる。


ジャック:今回は任せろ。


ルイス:助かるよ!思い切って話し掛けてみる!


ジャック:そうするといい。俺は仕事に取り掛かる前に、寄りたい場所がある...





N:ルイスとの無線を切って数分。

某国、片田舎の道すがらにそのバーはあった。


アリス:......お客...さん...?


アリス:はぁ......記者?それとも刑事さん?それともただただ傷口に塩を塗りに来たお節介さん?


ジャック:ただの客だよ。


アリス:へぇ...こんな辺境にわざわざ、物好きなのね。


ジャック:友人のクレヴィンからここの話を聞いてね、美人の店主がいるって。


アリス:あぁ、あの方の...


N:"クレヴィン"とは、日常生活においてのルイスの名前、偽名である。


ジャック:...いい店だ。


アリス:ありがとう。おじいちゃんの世代より前から続いてて愛されてる店でね...いいえ、今は"愛されてた"の方が正しいわね。


ジャック:ニュース、見たよ。気の毒に...


アリス:やめてちょうだい、忘れたいのよ。全部。


ジャック:忘れたい...か


アリス:なによ。


ジャック:本当に忘れたいなら、もうこの店には居ないはずだ。


アリス:......忘れたいのはほんとよ...だけど、ここから離れることは出来ない。


ジャック:何故。


アリス:もう誰も来ないとしても、ずっと継がれてきたこの店を護らなきゃいけないの。


ジャック:ほう...まるで籠の中の鳥だな。


アリス:...貴方に何が分かるのよ。


ジャック:分からないね、なにも。縛られて生きていく人生を理解なんて出来ない。


アリス:......


ジャック:......


アリス:......っ注文は...?


ジャック:この店で一番高い酒を頼む。


アリス:それは度数が?それとも値段が?


ジャック:度数だ。


アリス:相当高いけど...大丈夫?


ジャック:それぐらいないと物足りない。


アリス:そう...すごい人がいるものね...


N:グラスに酒を注いですぐ、そのグラスは空となった。


アリス:え、嘘でしょ...?


ジャック:...美味いな、いい酒だ。気に入った。


アリス:そ、そう。なら良かったわ...


ジャック:なあ君は...


アリス:え?


ジャック:君がもし、自分が今一番恨んでいる人間が誰かの手によって瀕死の状態にされ、とどめを刺せば息の根を止められるという事を知らされるとする。

その誰かに手を下させるか、自分で手を下すか、どっちだ。


アリス:なに突然。


ジャック:答えろ、もしもの話だ。直感でいい。


アリス:......自分で手を下すわ。


アリス:あの...あのイカレ野郎がそんな状況に陥ったとしたら、真っ先に私が殺しに行ってやるっ!!


アリス:なにがなんでも...!殺すわ...!


ジャック:そうか。


N:いつの間にか酒瓶は空になり、机に置かれた金を背に、ジャックはバーから出て行こうとする。


アリス:ねぇ待って!!貴方何者...?


ジャック:良いバーに来た、ただの客さ。


ジャック:あ、それと、後でクレヴィンがこの店に来る筈だ...あいつの分のお代も置いとくよ。伝えといてくれ。


ジャック:ではまたな、アリス。


アリス:なんで私の名前を...


N:バーに謎と金を残し、その客は立ち去った。





N:街外れにある寂れた教会にて。


ハッピー:......


ジャック:(溜息)俺の事を覚えてるか?ハッピー。


ハッピー:尾けてきたのか...噂じゃ死んだって聞いてたが?...ジャック。


ハッピー:オレに裁きを下しに来たのか?"ジャスティスリッパー"


ジャック:お前の前に立ちはだかっていた時のジャックも、ジャスティスリッパーも、もう死んだ。


ハッピー:ほう、じゃああんたはなんなんだ。


ジャック:ただの屍だよ、生きる屍。


ハッピー:へぇ...UNDEAD...だっけか、ついにあんたも国の犬に成り下がったかぁジャックゥ...


ジャック:犬よりも気性は荒い、強いて言うなら狼だな。


ハッピー:あんたがついに一人を辞めたか...また法で裁かれない悪人だけを処刑する、正義のヒーローの真似事か?


ジャック:誰が正しいなんて今の世の中じゃどうでもいい。この腐り切った世の中じゃ、その真似事が一番ましだ。


ハッピー:変わらないなぁジャック...変わったのは、孤狼が群れをなしたって事ぐらいかぁ...!!


N:ハッピーが鞄から取り出したリボルバーの銃口をジャックの頭に突きつけたと同時に、ハッピーの心臓を今にも貫かんとジャックのナイフが牙を剥く。


ジャック:このナイフは神経毒を塗ってある、刺された人間の神経は2秒で麻痺する。

お前は一瞬で身体の自由を失うぞ。


ハッピー:馬鹿言えこっちは引き金を引けばいいだけだ、麻痺する前にお前のその顰めっ面に綺麗な穴が空くさァ...ィヒッ血だ......血だァ...





ルイス:......ひ、久しぶり。


N:ジャックとハッピーが相対している時と同時刻、ルイスはお気に入りのバーにいた。


アリス:あら、クレヴィンさん。久しぶり。


ルイス:あぁ、え...と...元気だっ...た訳ないか。


アリス:ええ、まあそれなりよ。


ルイス:事件の事聞いたよ...気の毒に...


アリス:同情なんてもううんざり...散々貰った...!


N:そのナイフのような視線の刃は、どこか一人の殺し屋に似ていた。


ルイス:悪かった...


アリス:......


ルイス:......


ルイス:いつもの頼む。


アリス:(溜息)えぇ。


ルイス:ずっと、君と話したかったんだ。


ルイス:君に会いたいが為にここに来てた。だけど毎回話せずじまい、勇気が出なかった...!


ルイス:だからこれからは...その...もっと話したいし、時間作ってこの店くるから、改めてよろしく...


アリス:......


ルイス:ん?どしたの。


アリス:...そう思ってくれてたのは嬉しい。ありがとう。ただ...


ルイス:ただ...?


アリス:...私は今日でこの店をしまいます。


ルイス:.........ん?...え...は?...


N:ルイスの脳は、思考を止め困惑した。


アリス:さっき決めたわ、貴方の友人の言葉で目が覚めた。


ルイス:友人?あ〜そいつの名前は...?


アリス:さっきここに来たのよ、そう言えば名前名乗ってなかったわね。


ルイス:くっそ、そいつの検討はついた...え、というかほんとに店仕舞い!?


アリス:そうよ、籠の中の鳥で居るのはやめたの!


ルイス:え、えぇ...なにしてくれてんのあの人...!


アリス:良い友人を持ってるのね、彼のおかげで目が覚めたわ。私は自由に生きる!!


ルイス:そ、そうかぁ...ははっはっ...はぁ...


アリス:あと彼、貴方の分のお代も払っていったわよ。


ルイス:えっ


アリス:本当に良いご友人を持っているのね...!


ルイス:あの人はもう......あっあのっ店をしまったらその後はどうするつもり?


アリス:さあ...まだ考えてないわ...


ルイス:......他に彼は何か言ってた?


アリス:問われたわ。「自分が今一番恨んでいる人間が誰かの手によって瀕死の状態にされ、とどめを刺せば息の根を止められるという事を知らされるとする。

その誰かに手を下させるか、自分で手を下すか、どっちだ。」って。


ルイス:...その質問、懐かしい。


アリス:え?


ルイス:なんでもないさ、なら多分もうすぐだ。


アリス:なにが...?


N:ルイスは顔を顰めてアリスの目を真っ直ぐ見つめた。


ルイス:君が本当に選択を強いられるまで、もうすぐだ...





ジャック:お前のそのイカレ具合は変わってないみたいで安心したよ。


ハッピー:ほざいてろ...


N:お互い武器を突きつけたまま動きをみせずに、睨み合いを繰り広げていた。


ハッピー:俺は銃、あんたはナイフ、俺にはあんたの額に綺麗な風穴が出来るビジョンが見えてるぞジャック...!


ジャック:俺にはあんたが数秒後身体の自由が利かなくなり死を待つだけになるビジョンが見えてるぞ。俺のビジョンは実現される、今のうちに撃つなら撃っておけ。


ハッピー:随分と余裕じゃな...ん...なん...だ...?


ジャック:俺は言ったぞ、「撃つなら撃っておけ」と。


ハッピー:だ、だが...まだ...刺さっ...て...


ジャック:実は最初にここに座った時にお前の背中に針を刺していた。このナイフと同じ神経毒を塗ったが、針に塗った方は毒が回る迄時間がかかる。


ハッピー:馬鹿...な...っ!!


ジャック:マジックと一緒、殺しも相手の視線を逸らす事が大事なんだよ。


ジャック:早く撃っておけば良かったものを。


ハッピー:お、俺...を...っ殺す...のか...!!あぁ!?


ジャック:いいや?お前を殺すのはきっと俺じゃない。


ハッピー:なに...?


ジャック:お前を殺すのは、お前の狂気が産んでしまった、"純粋な殺意"だ。


ハッピー:...あぁ?


ジャック:そろそろ鳥が籠から翔び出す。





アリス:...どういう事...?


ルイス:(独白)なんでアリスまで巻き込むんだあの人は...


ルイス:(独白)あの選択をさせるのは俺だけで充分だろう...


ルイス:(独白)......何故だ...!!


N:ルイスがポケットに入れていた端末が突然震え始める。


アリス:ねぇ...彼は何者なの。友達なんでしょ!教えて!


ルイス:っ...!!...もしもし!


N:ジャックからの電話であった。


ジャック:ルイス、もう言わずとも分かってるだろうが...


ルイス:嫌だ...何故彼女を巻き込む。


ジャック:巻き込んでいるんじゃない、彼女の意思だ。お前の時だってそうだったろ。


ルイス:ジャック頼む彼女だけは...!


アリス:っ!!代わって......!


ルイス:あっ!おい!


N:アリスはルイスから持っていた端末を奪い取りナイフのようなその鋭い眼差しを画面に向け、言った。


アリス:貴方、ジャックって名前だったのね、知れてよかった。


ジャック:...アリスか。


アリス:貴方何者なの、なんで私にあんな事を聞いたの...!


ジャック:......君に提示したあの選択肢、今も答えは揺ぎ無いか?


アリス:ええ、答えは変わらないわ。


ジャック:そうか、なら君に改めて選択をする機会をやる。


アリス:え...機会って...


ジャック:ルイス...!


N:ルイスの握りしめた拳は、迷いを捨て開け放たれた。


ルイス:分かったよ......っアリス!


アリス:なに...?


ルイス:付いてきてくれ。





N:寂れた教会の裏、夜、月明かりのスポットライトに照らされ崖際に立つ一人の男。


ルイス:連れてきた。


ジャック:...アリス。


アリス:なに。


N:アリスの許へ歩み寄る男の手には、ハッピーが握っていたリボルバーが握られてあった。


ジャック:これを持て、君が恨んでいる人間がそこに居る。


アリス:え...?


ジャック:奴は麻痺により四肢は一切動かず、動かせるのは口と舌だけ。


アリス:嘘でしょ...そんな、ほんとに...


ジャック:恨む人間が目の前で瀕死の状態でいる、あとは止めをさせば奴は地獄に行く。


ジャック:改めて問おう...!他の人間に手を下させるか、自分で手を下すか!


アリス:......


ジャック:答えは銃弾に込めろ。


N:少女はリボルバーを手に取り、無言で満身創痍の男の許へと向かう。


ハッピー:なんだお前は。


アリス:......


ハッピー:お前が俺を殺すのかぁ?銃の撃ち方も知らんような女が俺を殺せるのか!?ああ!?


アリス:黙れ黙れ黙れ!!!


ハッピー:誰なんだお前。


アリス:ふざけるな...ふざけるなぁ!!お前が殺した夫婦の!!娘だ!!


N:ハッピーは笑みを浮かべた。


ハッピー:ああ、ははっ!!あのバーに居た夫婦か!!思い出したぞォ?アリス...アリスゥって言いながら死んでいったなぁ...あいつらの血は美味かったよ??ア・リ・ス・ちゃん。


アリス:死ぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!


N:叫びと共に問いの答えが込められた銃声が鳴り響く。





ジャック:終わったようだな...


ルイス:...彼女まで善悪の境界線ボーダーラインを超える必要はなかった筈だ。


ジャック:彼女が望んで、彼女が決断した事だ。彼女は、籠から飛び立ったんだ。


ルイス:っっ!!


N:真っ直ぐジャックの胸ぐらを掴んだその手から、深い悲しみと罪悪感が零れた。


ルイス:促したのは!!あんただろう!!


ジャック:お前と同じ、決めたのはあの子だ...!


ジャック:いいかよく聞け、善悪の境界線ボーダーラインなんてものは、この腐った世の中では最初(ハナ)からないも同然なんだ。


ジャック:警察は汚職に塗れ、犯罪塗れのこの世界。


ジャック:溝鼠みたいな人間でも、例えそれが傍から見てヒーローの真似事だったとしても、ただの悪人だったとしても、自分達のボーダーラインを作ってその上で足掻くしかないんだよ。


ジャック:俺は俺の、彼女は彼女の正義に従った。ただそれだけだ。


ジャック:純粋な悪には...純粋な正義で勝てない。


ルイス:はぁ...クソッタレ。





アリス:はぁ、はぁ、はぁ。


N:返り血を浴び、過呼吸気味のその少女の目にはもう鋭さは無く、錆びたナイフのように光を失っていた。


ジャック:答えは変わらなかったか。


アリス:人を、殺した。


ジャック:どうだった、何が残った。


アリス:......虚無。かな。


ジャック:人を一度殺せば、その感情は常に自分に付き纏う。死ぬまで、永遠にだ。


N:ジャックの視線の刃は、錆びたアリスの刃を砕き、()き止めていた涙を溢れさせた。


アリス:そん...な...ちっとも達成感もない。喜びもない。復讐を達成しても、なにも、なにもない...っ!!


ジャック:君が成し遂げたかった"復讐"は、いいものではなかっただろう。言葉じゃその無様な感情は言い表せない。


ジャック:だから君の本能に問いかけて、君は選んだ。そして学んだんだ、その感情を。


ジャック:俺の"正義"は、歪んでいて、醜い。だがそれでも、正義だ。


アリス:私はこれからどうすれば...?


ジャック:君は籠から翔んだ、あとは自由だ。


アリス:自由...


ジャック:君の指紋が付いた奴のリボルバーと奴の死体はこちらで処分する。


ジャック:俺が、殺した。君は何も見ていない、今日我々と会ったことは全て忘れるんだ。いいな?


アリス:......


ジャック:ほら、金だ、これだけあれば当分やっていける筈。


アリス:......


ジャック:ここには俺も......クレヴィンも、ハッピーも居なかった。元気で...


アリス:待って!!


ジャック:......


ルイス:アリス...忘れてくれ...


アリス:(被せ気味)貴方達の正義を!私に教えて...!!


N:輝きを取り戻した眼差しからは、揺るぎない決意が感じられた。


ルイス:......


アリス:悪を!死を!教えて!!


アリス:生きる道を...!!!私にください...!!!


ジャック:......


ルイス:ジャック、彼女は一般人だぞ分かってるな...?


ジャック:......亡霊になる勇気があるなら、来ればいい。


ルイス:やっぱりか...ったく...!あんたは本当に!...変わらないな。


ジャック:俺は変わらないさ、いつまでも、ただの腐った世界の、一人の亡霊だよ。


N:これは、正義と悪の境界線(ボーダーライン)で踊る、歪んだヒーローの物語。









































































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