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完璧な女の子に出会いました

「シェリエ。

信じられる人を見つけなさい」

それが母の最期の言葉だった。

僕はアミュール王国の王子として生まれた。

母はとても綺麗な人だったが身体が弱く、僕を生んでからは特に寝込むことが多くなった。そのまま衰弱して僕が6歳の時に儚くなった。

それから4年後、いつまでも王妃の座が空席なのはいけないと周りの家臣たちから言われ、父は新たに王妃を娶った。

父を見る目がなんだか粘着質で、僕は始めからその女のことは大嫌いだった。

父は母を愛していたため、その女は全く相手にされなかった。

するとその女は何を血迷ったか、僕の寝所に忍び込んだのだ。

忘れもしない、僕が11歳の頃。

「殿下……。私と一緒に遊びましょう……?」

そう言ってのしかかってくる女を僕は思いっきり突き飛ばした。

それからその女は幽閉されたが、僕はそれから女というものに嫌悪を抱くようになった。

僕はどうやら容姿に恵まれていたようで、黙っていても女たちが寄って来た。

甘い顔で微笑み、美辞麗句を並び立てれば女は皆同じ顔をする。

皆一様に頬を染めるのが酷く馬鹿らしく、滑稽だ。

「シェリエ。

信じられる人を見つけなさい」

母様、ごめんね。

僕にはそんな人、きっと見つけられない。



ヴァレンティン王国を訪問することが決まった。ヴァレンティン王国は魔法が盛んな国で、優秀な魔術師を数多く輩出している。

僕と同じ歳の王子と、2つ下の年齢の王女がいる。王子は魔法を使った剣術が得意らしく、その腕前は我が国にも轟く程。

王女はまだ幼いながらもその美しさは有名で、明るく、賢い姫だと評判だ。

僕の婚約者候補筆頭らしい。

僕個人としては結婚なんてどんな女でもごめんだが、国としては魔法が盛んなヴァレンティン王国と縁続きになることは強みになるということだろう。

さて、賢姫の評判がどれほどのものか見極めてやろう。


そう思って訪れたヴァレンティン王国。

「アルベイン・ヤン・ヴァレンティンです。

大国のアミュールからしたら我が国は魔法ぐらいしか取り柄がありませんが、どうか楽しんでいって下さい」

アルベイン王子は魔法ぐらいしか取り柄がないといったがそれがどれほどの強みだろうか。人好きする笑みで微笑まれたが、きっと一筋縄ではいかない類の人間だろう。

クリスティーナ姫は確かに噂と違わぬ、いや噂以上の美姫だった。

しかし僕が驚いたのはそんなことではなく。

「クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティンです。

どうぞ宜しくお願い致します」

完璧な礼、完璧な笑顔。

それは今まで見てきた女達のような目ではなく、頰を染めてもいない。

全く隙がないのだ。

それはつまり僕に対して何も心を動かされてはいないこと。

僕は生まれて初めてこんなに無感情で完璧な歓迎を受けた。


暫くすると、王子は席を外し、僕は王女と二人きりになった。

僕は王女を見極めたくて、じっと王女を見つめる。

やはり、彼女は微動だにせずずっと微笑んでいる。

「君は、僕に見惚れないの?」

率直な疑問をぶつけてみる。

目の前の完璧な笑顔が少し崩れた気がした。

僕は面白くなってきて続ける。

「女の子は大体皆僕を見ると目をうっとりさせて擦り寄ってくるんだ。

それで運命の人、とか言っちゃって。

僕のこと、なーんにも知らないくせにね」

それなのに。

「君は違うよね。

ねえ、どうして?」

少し間をあけて、クリスティーナ姫はこう言った。

「……少し、意外ですね。

シェリエール様はそのような事、わざわざ他人に仰ったりはしないかと思っておりました」

そう言われて初めて気づいた。

僕は普段こんなに率直に自分の気持ちを見せることはない。

自分の気持ちを見せることは弱みだと思っているし、まあ自分の気持ちなんてどうせ誰も理解できないだろうと思っていた。

それなのに、何故だろう。

僕は初対面のこの少女にベラベラと自分のことを喋り、この少女を試すような真似をしている。

まさか、僕はこの少女に自分のことを知ってもらいたかったのか?

好意も、欲も、熱情も何もないこの静かに凪いだような瞳に。

この少女を、信じたいと思っているのか。

僕にとっては会ったばかりの人物をすぐに信じるなんてこと到底正気とは思えないのだけど、何故かそうしたいと思ってしまう。

「……本当だ。

……でも、そうか、うん」

認めてしまうのは癪だけど、きっとこの子は何事にも囚われない、良い目を持っている。

美しく、賢い姫という評判は嘘ではなかったのだ。

「これからよろしくね、ティーナ」

理屈なんてない。

それでも僕は駆け引きなしに、打算なしに初めて純粋にこの子と話がしたいと思った。



「私の妹はどうでしたか?」

アルベイン王子だ。

上品に微笑んでいるが、目には隠しきれない好奇の色が見え隠れしている。

「君の妹、すごく面白いね。

……でも君も、なかなか面白そうだよね」

そう言うと、彼は溜息をついて肩を竦めた。

「……この国がだいぶお気に召したようで」

……この国に来て良かった。

僕は初めて抱く感情を持て余しながらくすぐったくも感じながらくすくす笑った。

「これからよろしくね、アルベイン」

アルベインは少し目を見張ると、ニヤリと笑って僕達はかたく握手を交わした。

補足というか裏話。

シェリエールは火属性の持ち主で、アルベイン、クリスティーナは風属性の持ち主です。

風は火を強めるため相性が良いといえます。

シェリエールが心を許した(チョロい)のはそういった属性の関係もあります。(勿論属性の相性の影響は個人差があります)

また、雷は水と相性が良かったり、火と水という相反する属性を持っていたら精神が不安定になりやすいこともあります。

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