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聖地巡礼して来ました!

私、クリスティーナはこの日を心待ちにしていた。王族は6歳で魔法を習い始めるが、街へ下りることもする。

その日がとうとう来たのだ。

この国の人々の暮らしぶりを直接肌で感じてみるという目的からだ。名目上そうなっているが、王女が街へ下ると聞いて、失礼な態度をとる人なんてそうそういないだろうから、完全にお忍びの形だ。

よって、お付きを兼ねての護衛が三人、少し離れた所に八人控えている。

更に私自身に守護魔法が幾重にも厳重にかけられている。

皆誰もが文句なしの精鋭揃いだ。

だから、チャンスは一度だけ。

私は今回の散策で行ってみたいところがあるのだ。

前世でお気に入りだった攻略対象のグレースの出身地がこの近くにあるらしいのだ。

勿論本人に会えるだなんて思っていない。

だがグレースが踏んだ地面を踏みしめ、グレースが吸った空気をすい、グレースが見た景色を眺め、グレースが生活していた場所を感じてみたかったのだ。

この日のために私はこっそりと魔法を練習していた。

私クリスティーナは作中でも強力な悪役だったので、潜在能力は高い。

後は私が努力して原作通りに能力を高めなければならない。

こっそりと練習することは案外難しく、魔法を勉強するにも、本などを使えばすぐに分かってしまう。

まだ六歳という幼さから、攻撃力のある危険な魔法の行使は禁止されている。

故に、私はリヒトにも協力をしてもらい、また前世でのゲームで培ったバトルゲームのイメージを集約させて遂に護衛を撒く魔法を習得した。

喉が渇いたと言って一人お付きの人に飲み物を買ってもらいに行かせた時。

私は最大限の無邪気さを装って実に個性的な手法を使った。

「あっあれ見て!」

私が指差した先を護衛は見つめる。

ーー今だ!

「風よ、クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティンの名において命ず。

旋風よ、我が元へ渦巻け!」

叫んだ途端。

凄まじい竜巻が巻き起こり、私を包み込む。

宙に浮いた私を呆気にとられた顔で護衛達は見上げる。

厨二くさい拗らせた呪文は私のオリジナルだ。しかし、この世界において、魔法を行使する際にはもっと長ったらしい詠唱をしなければならないことからすれば実に画期的な魔法の使い方だと思われる。

….…ポイントは、羞恥心を捨てることだ。



そんなこんなで降り立った土地。

華やかな王都の街からは少し離れた所。

古びた建物、舗装のされてない道路、心なしか淀んだ空気。

前世でいう、スラムにも似た雰囲気だ。

グレースの出自は土地の名前だけ記載されていて、実際に出てこなかったから、正直衝撃だった。

グレースはこんな環境で、騎士になるまで育ったのか。

追手の動きを把握するため、自分の身を守るために施していた感知魔法が反応を示した。そちらの方を勢いよく振り向くと。

ーー天使がいた。

年の頃は12,3歳ほどだろうか。

灰色の髪に青い瞳。

これで銀髪だったら完璧なのに、と思いながらも中性的な甘いマスクはどストライクだ。

私がずっと見つめていたからだろうか、彼が近づいてきた。

「こんにちは、可愛いお嬢ちゃん。

こんな所でどうしたの?」

まだ少し幼さの残る声で問われる。

近くで見れば見るほどよく似ている。

「ええと、街を見てみたくて!」

私は頑張って無邪気さいっぱいの子供を装う。すると少年は苦く笑いながら

「それでもこんな所に来たら危ないよ?

ーーこんなことをされるかもしれない」

首元にナイフを当てられる。

一瞬、頭が真っ白になりかけた。

落ち着け。焦ったら終わりだ。

私にかけられた守護魔法は殺意を感知して働く。それが発動してないってことはわたしを殺す気はないってことだ。

それに何より、確信がある。

このエピソードは原作では出てきていない。

つまりここて未来に影響を及ぼすようなことはない。

私はグレースに似た目の前の少年をじっと見つめる。

手元のナイフが微かに震えている。

その手は黒く汚れている。着ているものもサイズはとうに合わなくなって、所々破れている。綺麗な顔は汚れている。

……必死なんだ。毎日を生き延びるのに。

愛しい瞳によく似た青は酷く揺らいでいる。

「あなた、私の騎士になって下さる?」

口をついて出たのはそんな言葉。

「お嬢ちゃん、俺が怖くないの?

首元のこれはちゃんと見えてる?」

ナイフを突き出している少年の方が余計に怯えているように見える。

そんな彼に私はこう言った。

「だってあなた、とっても綺麗な瞳をしているんですもの」

彼は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「それに、私を殺すつもりならとっくに殺しているでしょう?」

項垂れた彼の瞳は仄暗い。

「……ねえ、あなた、名前は?

ご両親は?」

彼は黙って首を横に振った。

「……そう。

それなら私が名前を付けてあげる。

……グレースっていうのはどう?」

そう付けたのは瞳が彼を映していたから。

私は徐にネックレスを取り出した。

今彼にあげられるような手持ちの物はこれぐらいしかなかったのだ。

私は驚く彼に微笑む。

「あなたが立派な騎士になったら、私に返しに来るのよ!」

勿論、この子はあのグレースじゃない。

騎士になれる可能性なんてとても低いだろう。ましてやすぐにでもお金が欲しいだろう相手に渡したネックレスが帰ってくることなんて無いに等しいだろう。

それでもこの綺麗な瞳がこのまま澱んでいくのは許せなかったのだ。

少しでも前向きに生きるきっかけになってくれたら嬉しい。

そんな想いを抱いて私は帰ったのだが……。

こっぴどく叱られて、暫く城から出してもらえなかったのは言うまでもない。

「あーあー、

だからやめておけって言ったのに」

溜息をつくリヒトに私は親指を立てて

「反省はしているが後悔はしていない!」

脳天をチョップされた。

頭がかち割れるかと思った。


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