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妙な王女に出会いました

「こっちへ来るな!不吉な死神め!」

暴言、暴力。

生まれた時からそれがオレの日常だった。

オレは生まれた時から孤児院にいた。

この黒髪のせいで親に捨てられたらしい。

まあそうだろうな、と思った。

この国では黒は不吉なものとされている。

オレを嫌々引き取った孤児院の大人たちも例に漏れず俺を蔑み、畏れの目を向けた。

孤児院のガキもそれに倣う。

ろくに与えられない残飯みたいな飯。

サイズがとうに合わなくなって着古した服。

目を合わせれば殴られる。

そんな日常が続き、オレは我慢の限界だった。いつも通りの暴力、暴言。ただいつもと違ったのは一つだけ。オレはなんの前触れもなく突然プツンとキレた。

その時のことはあまり覚えていない。

気がつくと辺りは焼け野原だった。

何もなかった。何が起こったのかも全く分からなかった。ただオレがやったんだろうってことは何となく分かった。

ーーオレは人を殺したんだ。

込み上げてくる吐き気を抑えられず、地面に蹲って酸っぱいものを吐く。

酷く惨めで、虚しかった。

しばらくすると、立派な甲冑を着た騎士達がやって来た。

オレを保護すると言っていたが、体のいい連行だろう。

連れてこられたのは王城。

煌びやかな建物はオレとは余りにも似合わなかった。

そんな中、オレと二人で話がしたいという物好きが現れた。

オレの前に現れたのはまだ幼いながらも美しい少女。

穢れなんて一切知らないような装いに、オレは何故だか無性に腹が立った。

少女はオレを風呂に入らせ、清潔な服と食事を与えた。

腹は減っていたが手を付ける気にもならなかった。

「………あんたも、

どうせオレが怖いんだろう。」

ぽつりと、呟いた。

今までもそうだった。

オレを蔑まない希少な奴らも、可哀想だとか

なんとか言って哀れみの目を向けてくる。

優しさなんて全て偽善だ。

オレはその目が一番嫌いだった。

「……怖い?何がかしら?」

少女は何と顔を覗き込もうとしてきた!

オレは軽くパニックになり、思い切り身体を仰け反らせて椅子から落っこちた。

「ちょっと、大丈夫!?」

「来るな!!!」

差し出された手を勢いよく振り払う。

そのまま顔を埋めた。

「いらねぇんだよ、こんなの……っ!

どうせ同情してんだろ!?

可哀想に?お気の毒に?ハッ!

お優しいこったな!お姫様は!!」

同情してない、

なんて言われたって絶対嘘だ!

しかしその答えはオレの予想とは全く正反対のものだった。

「同情してるわよ。

そんなの、当たり前じゃない」

さも当然という具合にあっさりと認めた少女を思わず見上げてしまう。

「当たり……前」

同情されるのは嫌だったはずなのに、不思議と嫌悪感は全く湧いてこない。

「あなたを見てるとあったかいお風呂に入れてあげたくなるし、綺麗な服を着せてあげたくなる。美味しいご飯も食べさせてあげたくなるわ。偽善者だって思うかな。

それでもいいわ。私の自己満足だしね」

その瞳には押し付けがましさは一切なく、ただ純粋な思いからくるものだと分かって愕然とした。

「………あんたは、オレが怖くないのか」

もう一度問う。

「どこが怖いと思うの?教えて」

少女の目をしっかりと見る。

皆嫌がった、実の親でさえ畏れた黒い、

「……オレのこの髪の色」

「綺麗な黒髪ね」

私にとっては一番馴染み深い髪色。

少女はそう答える。

そんなわけがないのに、どうしてもそれが嘘だと思えないことがどうにも不思議だった。

そう言って撫でる。

オレの頭を触る奴なんているわけがなかった。ましてや撫でるなんて。

生まれてこの方味わったことのない感触に驚く。

「黒ってね、どんな色にも負けない、一番強い色なのよ」

そんなこと言う奴なんて、この世界であんただけだ。

「他には?」

「……オレは、魔法で人を、殺した」

震える声で懺悔する。

何故震えるんだ。

オレは怖いと思っているのか、

この小さな少女に嫌われることが。

「望んでやったわけじゃないことぐらい、

どんな馬鹿だって分かるわ」

「オレは……っ!

あんたを、傷つけるかもしれない……っ!」

そうだ。この優しい穢れのない少女をオレが傷つけてしまうことが。

この少女がオレをあの目で見てくることが。

オレは今、初めて怖いと思っているんだ。

顔を見ると、意思の強い緑の瞳が真っ直ぐオレを見つめていた。

「そうならないために、今から魔法をちゃんと習うのよ。大丈夫、私が保証する。

あなたは立派な魔術師になるわ」

そんなの、何の根拠もない子どもの戯言なのに信じたくなってしまうから嫌だ。

憎まれ口を叩こうと思ったら代わりに目から水滴が出てきた。

こんなことは初めてで、止め方も知らない。

「私には、あなたが必要なの。

私に力を貸してくれる?」

それを聞いた途端、たかが外れたようにボロボロ涙が後から出てきてしまって。

オレは生まれ直したかのように、初めて赤ん坊のように声を上げて泣いた。


「……あんた、すげーお節介だな」

赤くなった鼻を啜りながら軽口を叩くオレ。

「……そうだ、名前を聞いてなかったわ。

私はクリスティーナ。あなたは?」

「………名前なんて、ない」

……名前。今までオレを呼ぶ人なんて…。

「じゃあ、今まで何て呼ばれてたの?」

「黒、とか、死神、とか、不吉、とか」

ただそれだけだった。

「……じゃあ、私が名前を考えてあげる。

リヒト。光っていう意味よ」

「リヒト……」

黒い髪を持つ奴なのに光だなんて似合わないにも程がある。

それでもその名は何故だかオレにしっくりと馴染む気がして、オレは大切に大切に、つけてもらった名前を呟いた。

あの日オレは姫様の手で生まれ変わった。


「はあっ!?

魔法を教えて欲しい!?

あんたバカなのか!?」

……姫様は想像以上に破天荒な人で、あれからオレの心労は耐えない。


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