ツンデレ魔術師に師事します!
私、
クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティン。
4歳になりました。
お兄様は以前の怠惰な授業態度が嘘のように積極的に学ぶようになりました。
教師が滂沱の涙を流していた。
……あなた日に日に頭が薄くなっていたものね。これでハゲに歯止めがかかればいいね。
そんなお兄様も6歳。
この国の王族は、6歳になると魔法を習う。
魔法には主に水 、火 、風 、土 、雷の5属性があり、光と闇の魔法を扱えるのは極少数。
光には癒しの力があり、闇魔法はその破壊力から禁術とされている。
魔法を使える人は多くはないようで、使えても強力な魔法を使えるのは更に限られる。
魔法は大きなアドバンテージとなるのだ。
お兄様にはどうやら風と雷の属性があったらしい。
適正属性がやはり本人にとっては一番扱いやすいが、他の属性も訓練によっては使えるようになる。
お兄様の魔力量はまあ王族としては普通らしい。可もなく不可もなくといったところ。
私が何故まだ4歳にもかかわらずこんなに魔法に詳しいのかというと、端的に言うと興味があるからだ。
いや、だって魔法ですよ!
ファンタジーですよ!
剣と魔法の世界ですよ!!
といってもこの世界は割と平和で、魔王も勇者もいないんですけどねー。
それでも将来危機が何かと多い私の窮地を救ってくれる助けになるだろう。
しかし私はまだ4歳。
魔法を習えるようになるまで後2年もある。
こっそり一人で練習はしているのだが、やはり独学では限界がある。
だから私は探しているのだ、4歳の私に魔法を教えてくれる師匠を。
アテならまあなくはない。
ツンデレ魔術師だ。
そう、ゲームの攻略対象のツンデレ魔術師。
名をリヒト。
黒髪に綺麗な黄昏色のイケメンだ。
強大な魔力の持ち主に表れる黒髪はこの世界では闇魔法を彷彿とさせるため禁忌とされている。
なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。
魔法至上主義のくせに、コントロールできないほどの力は恐れて排除しようとする。
リヒトはその黒髪故に親から捨てられ、孤児院でも疎まれていたという何とも可哀想な子だ。孤児院の院長からも殴られたり蹴られたりと酷い仕打ちを受けていて、その怒りが頂点に達したとき魔法が暴発してしまい大爆発を起こしてしまう。
そして騎士団に連れられ、その実力を買われて王宮魔術師になるのだ。
辛い過去の経験からリヒトは他人との接触を酷く嫌い、他人を遠ざける。
そんな中、ヒロインだけはリヒトに近づき、
「同情なんてしないわ。私は一緒にいたいから一緒にいる、ただそれだけよ」
そう言われて、初めて自分が必要とされてヒロインに心を許すのだ。
しかし声を大にして言わせてもらおう。
いるから!ここに!全力で君を必要としてる人、いるから!!!
そんなリヒトがここに連れて来られるのは彼が7歳の時。
リヒトはヒロインより3歳年上。
そしてヒロインと王女は同い年だったため、私が4歳であるこの年に彼がやってくるはずなのだ。
ということで最近の私の日課は騎士団を見学しに行くことだ。
まあ私の推しであるグレースがいないかこっそり探すことも目的だけれども。
グレースの過去は、平民出身ということと、その出身地しかわかっていなくて、謎に包まれている。
いつ騎士団に入るのかも分かっていない。
……グレースから殺されてしまうかもしれない私だけど、もしグレースに出会ったらどんな反応をするか自分でも想像がつかない。
避けるのが良いのかもしれないけど、推しを前にして果たして捨て置けるのか……。
悩ましい問題だ。
まあ、それはその時が来たら考えることにして。考え事をしている間に騎士団の訓練場に着いた。
「おや、いらっしゃい、姫さま!」
元気よく声をかけてくれたのはガナル・マクダガル。ゲーム攻略者、後の騎士団長だ。
ムキムキの筋肉は全くもって私のタイプではないが良い人で頼れるお兄さん的な存在だ。
彼はまだ今はゲーム時よりも若い新人だ。
初々しさが微笑ましい。
まあ私もピチピチの4歳児だけどね!
「こんにちは、ガナル。
今日は何だか人が少ないわね?」
そう。いつもならもっと人が居るはずなのに今日は訓練があってない。
これはもしかしてと思いながらガナルに聞くと、ガナルは頭を掻きながら答えてくれた。
「あー……。
なんか、街のはずれの孤児院で魔力の暴走が起こったらしいんですよね……。」
ビンゴ!私は思わず前のめりになる。
「騎士たちはいつ頃帰ってくるの!?」
「え?……えーっと……。
結構前に出発したので、もうすぐ帰ってくるとは思いますけど」
それから半刻ほど待つと(一時間ぐらい)、お目当てが帰ってきた。
その子は俯いていて表情は分からないがその黒い髪はやはりこの世界では目立った。
「私、この子とお話がしたいわ」
「それは危険すぎます、王女様」
現騎士団長が反対する。
しかし私はどうしてもこの子と二人きりで話がしたいのだ!!
「大丈夫よ。王族には強力な守護魔法がかけられているし。そもそもこの子、さっき暴発したんなら今は魔力は枯渇しているでしょう?」
押し問答の末、魔法を無効化する腕輪を装着した状態でなら許可が出た。
俯いている少年を見る。
珍しい黒髪が目立つが、よく見ると肌も汚れていて、服もボロボロだ。
「まずは、身だしなみを整えてからね」
お風呂に入って、綺麗な服を着た彼はとっても可愛かった。
発育不良なのか年の割には小柄で相変わらず俯いているが。
「……食べないの?
別に毒なんか入ってないわよ?」
お腹が空いているかと思ってパン、スープ、サラダなどの軽食も出してみたが一向に手をつけない。
「………あんたも、
どうせオレが怖いんだろう。」
ぽつりと、呟いた。
「……怖い?何がかしら?」
顔を覗き込もうとすると、思い切り身体を仰け反らせて椅子から落っこちてしまった。
「ちょっと、大丈夫!?」
「来るな!!!」
慌てて駆け寄ると凄い勢いで手を振り払われた。そのまま体育座りをして顔を埋めてしまう。
「いらねぇんだよ、こんなの……っ!
どうせ同情してんだろ!?
可哀想に?お気の毒に?ハッ!
お優しいこったな!お姫様は!!」
おお、野良猫みたいに威嚇している。
ヒロインは同情なんかしないって言ってたけど私なら……。
「同情してるわよ。
そんなの、当たり前じゃない」
少年は勢いよく顔を上げる。
「当たり……前」
逆上させるかもしれないと思ったが
ひどく驚いた顔をしている。
「あなたを見てるとあったかいお風呂に入れてあげたくなるし、綺麗な服を着せてあげたくなる。美味しいご飯も食べさせてあげたくなるわ。偽善者だって思うかな。
それでもいいわ。私の自己満足だしね」
「………あんたは、オレが怖くないのか」
もう一度問われる。
「どこが怖いと思うの?教えて」
もう一度問いかける。
今度はしっかりと目を見ながら。
「……オレのこの髪の色」
「綺麗な黒髪ね」
私にとっては一番馴染み深い髪色。
そう言って撫でると彼は一瞬ビクッと身体を震わせる。
「黒ってね、どんな色にも負けない、一番強い色なのよ」
嫌がるかと思ったが黙って頭を撫でられている。
「他には?」
「……オレは、魔法で人を、殺した」
震える声で懺悔する。
「望んでやったわけじゃないことぐらい、
どんな馬鹿だって分かるわ」
「オレは……っ!
あんたを、傷つけるかもしれない……っ!」
これは少し予想外の言葉。
顔を見ると、綺麗な黄昏色の瞳が酷く揺れていた。
「そうならないために、今から魔法をちゃんと習うのよ。大丈夫、私が保証する。
あなたは立派な魔術師になるわ」
よしよしと頭を撫でると、遂には彼は泣いてしまった。
「私には、あなたが必要なの。
私に力を貸してくれる?」
それから彼は暫く泣いていて、
泣き止んだ頃。
「……あんた、すげーお節介だな」
赤くなった鼻を啜りながら軽口を叩く彼に笑ってしまう。
「……そうだ、名前を聞いてなかったわ。
私はクリスティーナ。あなたは?」
「………名前なんて、ない」
言われて驚いた。
え、リヒトって名前があるんじゃないの!?
「じゃあ、今まで何て呼ばれてたの?」
「黒、とか、死神、とか、不吉、とか」
その余りな呼び名に胸が痛む。
「……じゃあ、私が名前を考えてあげる」
……なんて、本当はもう前から決まっているけれど。
「……リヒト。光っていう意味よ」
「リヒト……」
リヒトは噛みしめるように呟く。
リヒト。私の道を照らす光。
これからどうか、私を導いて。