表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

ifルート リヒト 前編

リヒトのifバージョンです。

相手がグレースじゃないと嫌!という人はお控えください。

本文は、「オレにとっての光はあんただった」からの分岐です。


「………で?

今度はどうしたんだ?」

駆け込み寺に来ております。

リヒトさんいつもごめんね。

私は事の顛末を話すと、

「はあっ……!?き、き、キ……」

真っ赤になって仰け反ってしまいました。

リヒトさん、意外と初心なんですね。

「……それで?結局今まで以上に気まずくなってんのかよ?」

う……はい。そうなのです。

しかし今度は私の方が避けてしまっているのです。

「あー……で?

あんたはどう思ったんだよ。

そもそもあんたの気持ちはどうなんだよ」

「どうって……」

思い出すと赤くなってしまう。

「あーーーー、もう!

赤くなるな!

だから、嫌だったのか嫌じゃなかったのかって話だよ!」

「嫌、じゃない。

でも、なんか、そんなんじゃなくて…」

嫌なわけがない。

だってグレースは私の推しなのだから。

推しだからこそ、なんていうか、そんな簡単に私が触れてはいけないっていうか。

推しとは黙って合掌して尊ぶものなのだ。

「……いいか、嫌だったら拒否しろよ」

そう言って近づくリヒト。

その唇が重なりそうになる。

え、え、待って今これどんな状況!?

リヒト?リヒト!?

「….……これで分かっただろ」

私は咄嗟に手で私の口を塞いでいた。

リヒトは溜息をついて私の頭をグシャグシャと乱暴にかき乱す。

リヒトは大きく溜息をついた。

私は真っ赤になったまま固まった。

心臓がドコドコ鳴っている。

分からない。全くもって分からない。

「……ほら、早くあいつの所へ行ってこい」

どうしてリヒトがこんなことをしたのか。

どうしてそんなに泣きそうな目で私を見るのか。全く分からない。

尋常じゃない速さで脈をうつ私の鼓動が嫌に響いていた。




あれからリヒトの顔が頭から離れない。

何故あの時咄嗟にあんな行動を取ったのか。

決して嫌ではなかった。それでも何だかいっぱいいっぱいになってしまったのだ。

リヒトともグレースとも微妙な距離を保ったまま、私は宙ぶらりんな気持ちだった。


「ティーナ?」

高く柔らかい声で私を呼んだのはお母様。

気がつけばお母様が趣味で育てている薔薇園まで来てしまっていたみたいだ。

「あなたがここに来るなんて珍しいわね。

何かあったのかしら?」

優しい笑顔に張り詰めていた緊張が解けて情けないことに涙腺が緩んでしまった。


「……そう、あなたはもうそんな歳になったのね」

全てを曝け出して私が泣き止むとお母様はしみじみと呟いた。

「あなたは小さい頃から大人びていたから、物事を難しく考えがちなのよね。もっと単純に考えてみなさいな」

そう言ってお母様は私の頭を優しく撫でる。

「単純に……?」

「そう。例えばグレースが誰かと結婚することになったらティーナはどんな気持ち?」

グレースが……結婚。

真っ先に思い浮かぶのはヒロイン。

少し寂しい気もするけど、それでもグレースには幸せになって欲しいと思う。

なんたって尊い私の推しなんだからね!

そんじょそこらの女じゃだめだ。きちんとグレースのことを理解して、傍で支えてあげられる人。

「じゃあ、リヒトの場合だったらどう?」

リヒト。

リヒトが誰かと出会って、誰かに笑いかけて、誰かに愛を告げて、誰かと共に生きていく。想像した途端、胸がぎゅうっと苦しくなった。リヒト、リヒト。力のない私に魔法を教えてくれた。私が巻き込んでも、しょうがないなって言いながらも付き合ってくれる。

呆れたような顔、心配してくれる顔、研究に没頭するときの活き活きとした顔。

それが全部誰かのものになるだなんて。

「いや……」

お母様はにっこり笑って

「いってらっしゃい」



私は走っていた。

「姫様?」

私を呼ぶ声に振り返る。

そこにいたのは銀髪と青い目。

「グレース……あなたに話があるの」

私の様子に何かを察したのか、グレースは跪いて頭を垂れた。

「私、グレースのことが大切よ。

ずっと私を傍で守っていてくれてありがとう。あなたにはちゃんとあなたを幸せにしてくれる人と共に幸せになって欲しいの」

その言葉でグレースは察したように頭を下げる。

「……この前はとんだご無礼を致しました。

姫様の有難きお言葉、身に余る光栄に御座います」

グレースからキスをされたとき、感じたのは歓喜よりも何よりも違和感だった。

私にとってグレースはそういう意味で触れてはならない神聖な存在だった。

神様に恋心なんて邪な気持ちは抱かないのと一緒だ。私なんかより良く出来た素晴らしい人と一緒になって幸せになって欲しい。

「私はこの度、ノヴァルディ討伐隊長に選抜されました。……最後に一つ発言しても良いですか」

「……ええ」

グレースはゆっくりと私を見上げ、泣き出しそうな顔で言った。

「……お慕いしておりました、クリスティーナ様。どうか貴女のこれからの未来が優しい世界であることを」

この人はきっと今自分の命を顧みていない。

泣くな。推しにこんな顔をさせているのは私だ。私にそんな資格はない。

「……グレース、命令です。

幸せになりなさい」

何て自分勝手な命令。それでも言わずにはいられない愚かな私をどうか許さないでいて。

「……姫様も、どうか、お幸せに」



「はあ……」

何度目かもわからない深い溜息をつく。

なぜあんなことをしてしまったのか。

阻まれた手が何よりも厚い壁となってオレを拒絶する。

あれから気まずくなってしまい、姫様と話せていない。

嫌われたか……。

感傷に浸っていると、足音がして、バンッといきなりオレの部屋のドアが開いた。

「リヒト!!!」

「うおっ!?……ノックもなしに慌ててどうしたんだ?」

走って来たのか息切れして髪も乱れている。

こんな王女探したってそういないだろう。

「はなっ……はなし、が、あって……!」

「まあ落ち着け。待ってやるから」

とりあえず部屋に入れて座らせる。

姫様の話は十中八九あの時の話だろう。

オレは覚悟を決めて姫様の言葉を待つ。

「……私、私ね、やっと気付いたの。

私、私は……」

むぎゅ。

「はにふるのっ!」

オレは無意識のうちに姫様の口を手で塞いでいた。不満げな顔をしたので慌てて離す。

「……もうっ!リヒトのバカ!ちゃんと聞いてよ!」

「……悪い」

口を尖らせた顔が異常に可愛いと思うオレはもう末期だ。

「私は、リヒトが好きなのっ!」

……………。

間、たっぷり5秒。

今、姫様はなんて言った?

私は、リヒトが、好き?

姫様が?オレを?

「…………はあ!?そんなわけないだろ!?」

思いっきり否定する。

なんだ今のは。

オレの願望が作り出した幻術か?

姫様は膨れっ面で抗議する。

「嘘じゃないもの……」

「だってあんた、あいつのことは…」

オレが尋ねると姫様はオレのことを真っ直ぐに見つめる。

「勿論グレースのことは大切な騎士だと思ってるわ。

でも、貴方が笑いかけるのも、愛を告げるのも、共に生きていくのも。全部私がいいの」

姫様がそんか小っ恥ずかしいことを言うものだからとりあえずオレはその唇を唇でふさいだのだった。

「分かったよ…」

そっぽを向いて照れを隠す。

……赤くなった自分の耳は姫様にはバレてるだろうけど。

それでもこの時は、幸せはいつまでも続くんだと愚かにもオレは思っていた。


また明日、続きを投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ