推しから殺されそうです!
すみません。誤って話が途中で終わってしまっていたので付け足しました。
目が覚めた。
あれから私はどうやら魔力が枯渇して気を失ってしまったらしい。
しかし見慣れた私の部屋ではない。
目に入るのはたっかい天井。そういえば私が今寝てるベッドふっかふかー。
ベッドのスプリングを感じようと全身でバインバイン運動をしていたら丁度扉が開き、人が入ってきた。
….……見られてないよね?
恐る恐る振り向くとそこにいたのは。
見慣れた銀色の髪に青い瞳。
「新たに部屋を用意させました。
私と貴女の部屋です。お気に召しましたか?」
いつも通りの優しい声で話しかけてくれる。
慣れないのは目の前の人物が立派な正装をしていることだ。その紋章は隣国のもの。
ーーああ、そうか。
グレースは、ノヴァルディ王国の王子だったのか。
私の国では珍しい髪と瞳の色も、ノヴァルディではそう珍しくない。その整った顔立ちは類稀なるものであるけれども。
正装姿に内心鼻血が出そうになるのを気合いで堪える。頑張れ私の毛細血管!
私はベッドから降り、頭を垂れる。
「…知らなかったとはいえ、一国の王子に対して数々の無礼、大変申し訳ございませんでした」
「やめて下さい!」
グレースは慌てて私の方へ駆け寄り、またベッドへと座らせる。
「謝らなければならないのは私の方です。
今まで姫様を騙していました。私はノヴァルディの第二王子で、兄である第一王子から命を狙われ亡命していました。汚い所で薄汚れていた、酷い生き方をしていた私に貴女は生きる目標を与えて下さった」
そう言ってグレースは私の髪を愛おしげに撫でる。
「貴女に再会した時、このまま貴女を近くで見守っていけたらと思っていたのですが。
やはりダメですね。欲が出てしまう」
涼しげな容姿とは正反対に、瞳は燃えるように熱い。私は推しから真摯に見つめられ、顔を赤くして目をそらす。
「今回の武功で漸く貴女に愛を乞うことが出来る。貴女を愛しています。
喜びを共に分かち合いたいです。
哀しみは俺に分けて頂きたい。
夜は同じ枕で眠り、朝は同じ朝日で迎えましょう。
どうか俺と共に、生きて下さい」
どっどっどっ。心臓が全力疾走した後みたいに動いている。
私はもういっぱいいっぱいでまたもや目を回して倒れた。
緊急事態、エマージャンシー。
心臓がドクドクいって止まらない。
推しから殺されそうです!
「お帰りなさい」
夜遅く。
疲れた顔をして帰ってくる愛しい人を出迎える。
「クリスティーナ。こんなに遅くまで起きていてくれたのですか?」
「愛しい夫を出迎えるのは妻の役目ですからね!」
私がそう言うと、グレースはぎゅうううっと私を抱き締める。
ああ、グレースの匂い、最高。
まだ結婚式は挙げてないんだけどね。
あれから私のお兄様、アルベインは武功を立てたグレースに公爵位とノヴァルディ領を与えた。そして私との結婚も許してくれた。
しかし忙しい。とにかく忙しい。
この度の戦いでノヴァルディはヴァレンティンの領地になった。
様々な取り決め、手続きに追われていてグレースはまるで企業戦士のようだ。
籍だけは入れているが、式はグレースの仕事が終わるまで当分お預けだろう。
そこにお兄様のちょっとした意趣返しを感じないわけでもないけれど。
それでも転移ゲートのおかげで毎日会えているのだから幸せだ。
私は私で主に魔法関連で忙しい。
今は生活魔法を普及させようと奮闘している。
「今日はクリスティーナは何をしていたんですか?」
「今日はリヒトと魔法の研究よ」
そう答えるとグレースは
「リヒト、ですか。
俺が貴女に会えない時間、他の男と会っているだなんて妬けますね」
こうやって嫉妬してくれるのが可愛い。
余裕ぶって笑っていると目を光らせたグレースが、
「随分と余裕ですね。
俺の愛がどれ程のものか分からせてあげましょう」
そう言って、私を萌え殺しにかかる。
私には前世の記憶がある。
生まれた当初は絶望したものだが、あの頃の自分に会えるなら自信を持って言いたいことがある。
「私は毎日推しから殺されそうよ。
でもね、とっても幸せなの!」
これにて完結です。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
不定期に番外編を更新予定です!




