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その果てに見えた未来は

走る、走る、走る。

息が切れても、足がもつれても。

騎士たちが驚きに目を見張る中、私が探すのはただ一人。

騎士たちが取り囲む中心。

その人はいた。

「グレースっっ!!!!」

あらん限りの声で呼びかけても返事はない。

目は虚ろで様子がおかしい。

「あらあら、クリスティーナ王女ではありませんか。あなたのせいで随分と手こずりましたけど、もうグレースは私のものよ」

嬉しそうに歪んだ笑みを浮かべる女はヒロイン。女は滔々と語り続ける。

「来るのがすこーし遅かったわね、王女様?隷属魔法で彼は私の奴隷よ。私は彼とずーっと一緒にいるの」

隷属魔法は闇魔法でも禁忌中の禁忌とされている呪術で、術者は自分の寿命を削って対象を縛り付ける。隷属魔法をかけられた者は自我を奪われさながら奴隷のようになる。

そして何よりも厄介なのが術者が死んだら対象者も共に死んでしまうことだ。

「あら、あなた魔法をよく知ってるのね。

そうよ、私を殺したらグレースも死ぬのよ。

……そうだわ、グレース。あなたに最初の命令をしましょう。王女を殺しなさい」

瞬間、私の目の前の空気が剣で切り裂かれる。私は何とか躱し、守護魔法を更に強化し距離を取る。

……流石グレース。近距離だったら全く歯が立たない。でも遠距離だったら絶対に呪術を解くことが出来ない……。

距離を離した私に攻撃魔法が撃たれるが、それはリヒトたちが魔法を相殺し、援護してくれる。

しかしそれも長くは保たないだろう。

考えろ。どうやったら呪術を解ける?

更に精神干渉の術を行使したらグレースの精神が壊れかねない。

ポケットの中の、硬い何かの存在に気づく。

……一か八か。

「……縛!」

グレースの動きを一瞬止める。

私はその隙に天使の雫(仮)を取り出し、口に含んでグレースの元へ近づいて口付け流し込んだ。魔力を増幅させる天使の雫(仮)に状態異常解除の魔力を流した。

「目ぇ覚ましなさいっ、このバカ!!」

私は泣きながらグレースの顔を平手で引っ叩く。途端、グレースの心臓の辺りが光り出した。

え、何これ何これ!グレース遂に天に召されちゃったの!?私の平手で!?

酷く混乱したが、よく見ると、グレースの胸元には強い魔力の篭った魔石。

見覚えのある、魔石。


「あなたが立派な騎士になったら、私に返しに来るのよ!」


ふいに思い出した、幼い頃の記憶。

薄汚れた痩せっぽちの少年は、髪の色こそ違えどグレースと重なる。

「ひめ、さま」

虚ろだったグレースの瞳が私を捉えた。



暗い、暗い闇の中にいた。

自分が誰なのか、何をしているのかも分からない。ただアンジェリカ、その名前が楔のように心臓を取り巻いていた。

何かを忘れているような。

とても、とても大事なもの。

とても、とても温かいもの。

ここは酷く冷たく、寒い。

暗い、暗い闇の中にいた。

「目ぇ覚ましなさいっ、この馬鹿っ!!」

瞬間、光が差した。


ーーこの手は私を守ってくれる手よ。

穢れてるだなんて言わないで。

グレース、私を見て。

私は今、ここにいるわ。

こうして貴方の傍にいるわ。


私っ…!私はっ…!

私は貴方がとても大切なの!


……命令です。

必ず生きて帰って来なさい。


あなたが立派な騎士になったら、私に返しに来るのよ!ーー


「ひめ、さま……クリス、ティーナ、様…」

愛しい名前を呼ぶ。

「グレー……ス」

ああ、大きな美しい瞳から涙が溢れている。

泣かせていることに罪悪感を抱きながらも、自分が泣かせているのだという満足感も感じてしまう。

「貴方……グレースだったの…

貴方だったのね……」

胸元で光るネックレスを取り出す。

「……遅くなりましたが、貴女にお返し致します。我が姫君」

姫様に渡すと石が更に眩しく光を放ち、俺と姫様を包み込んだ。





「隷属魔法が……解けた?

そんな……そんなこと、ありえないわ…」

寄り添い合う二人を魔石が光で包み込む。

ずっとずっと見てきたグレース。

何巡も何巡もエンドを繰り返した。

あなたはいつも私を愛してくれた。

その髪は、目は、指は、唇は、全部、全部、

私のものだったのに……。

ねえ、私の全てを愛して、あなたの全てで私を欲してよ。

どうしてあなたは今、あの子を見ているの……?

絶望で視界が黒く染まる。

私のものにならないならいっそ……。

「全部、全部、消えてしまえ……っっ!!」

私は全ての魔力を解放した。

凄まじい威力の闇魔法が二人の元へ向かい、二人が放つ光魔法と拮抗する。

しかし二人掛かりの魔力には勝てない。

私は少しずつ押されていって、光の槍が私を貫こうとするーー。

私は覚悟を決め、この身に受けようとした。

しかし。

「かはっ……」

血を吐いたのは私ではない。

「アロガン……様?」

「怪我は……ないか?アンジェリカ……」

自分は大怪我を負いながら気丈に微笑むこの人は誰。

「どうして……」

「愛しい女を守らないわけがないだろう?」

だって私は。あなたのことなんか、グレースに会うための過程としか思ってなくて……。

煩わしいとすら思っていて。

「なんで……だって……っ!」

「分かって、いたさ。

…お前が、俺のことを……何とも、思っていないこと…ぐらい。

涙が溢れる。何故だか分からないけれど。

「それなのに……なんでっ…!」

「お前は、…お前だけは、俺の王位には、興味がなかっただろう……?

なあ、アンジェ……俺は…」

ごぽり。口から血を吐き出す。それでもアロガンは続ける。

「俺はな……欲しかったのは、王位ではなく…、どこか、小さな家でもいい…お前と、ふたりで…ずっと暮らせたなら。

それだけで……充分だったんだ……」

アロガンはそう言うと、幸せそうな、満ち足りた顔で静かに目を閉じた。

「……本当に、馬鹿な人。

こんな女を、愛するなんて……。」

あなたは馬鹿だけど、私はとても愚かだわ。

あんなに自分が求めていたものがすぐ傍にあったことに気づけなかったなんて……。

身体から力が抜ける。魔力が完全に枯渇したのだ。

ひたり、首筋に剣を当てられる。

「何か言い残すことはないか。せめてもの情けだ。聞いてやろう」

「そうね……。

早く殺してくれないかしら?

ここにはもう、私を愛してくれる人はいないから」

最期に見えたのは、それはそれは奇麗な青空だった。

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