そして彼は……
すみません、明日は時間がとれそうにないので
21:00ごろにまとめて4話投稿致します
明日、完結します!
「リヒト様。結界隊、攻撃隊、守備隊、全ての隊で用意が整いました!」
「ご苦労。グレースの指示があるまで全隊待機しろ」
「はっ!」
オレの師である筆頭魔術師の爺さんは、老いぼれには荷が重いとか言ってオレに魔術隊長という大層な役柄を押し付けて今回はアミュール国で殿下や姫様たちをお守りしている。
オレに課されたのはヴァレンティン王国中に張り巡らせている魔法装置を発動させることと。魔法装置は所謂罠のようなもので、今回の作戦では要となる役割を果たす。
ノヴァルディ軍をヴァレンティン王国へと誘導し、結界隊が結界を張りノヴァルディ軍を結界内に閉じ込める。同時に守備隊がヴァレンティン軍と結界に守護魔法をかける。攻撃班が結界内に攻撃魔法を放つ。グレースからの伝達魔法からの連絡が来るまではいつでも魔法を発動できるように万全の状態を整えておかねばならない。
グレースは上手くやっているだろうか。
「……もうすぐ着きますね」
そういった途端、目眩がして思わず倒れ込みそうになったところをアロガンが支える。
「アンジェリカ!……やはり君は休むべきだ!倒れてしまっては元も子もない!」
私を心配しての言葉だとは分かっているが、ここに来て甘ったれたことを言うアホガンに苛立ちが募る。
「私には時間がないんです!
……とにかく、大丈夫です」
差し出された手を振り払う。
もうすぐ、もうすぐ会えるのだ。
愛しいグレースに。
「……今からアンジェリカがそなたらに補助魔法をかける。一気に攻め込むぞ。
皆の者、ついてこい!」
アロガンの掛け声でノヴァルディ軍は一斉にヴァレンティン軍へと攻め込む。
しかし、目の前の景色がいきなり変化した。
と同時に見えないバリアに阻まれて一切の攻撃が繰り出せなくなる。
「これは……」
まさか、幻術?
幻術によって、ヴァレンティン国境外にいると思っていた私達はいつの間にか既に国境内に入っていたということ?
こんな見事な幻術を使えるのは精神魔法に精通している一人だけ。
「くそっ!何なんだこれは!!」
焦るアロガンにゆっくりと近づいてくる人物
「お久しぶりですね、兄上」
絹のような銀の髪、顔の作りは恐ろしく整っていて作り物めいている。抜けるような青の瞳はこちらがぞっとするほど冷たい。
「私の幻術はお楽しみ頂けましたか?」
「デリット……お前はいつも俺を阻む。
俺はずっとお前を殺したかった……!」
憎しみのこもった目で睨みつけるアロガンだが、グレースは意に介さない様子で飄々としている。
「残念ながら死ぬのは私ではありませんよ」
グレースがそう言って手を天にかざした途端、私たちめがけて攻撃魔法が炸裂する。
私は咄嗟に私とアロガンに守護魔法を張ったが攻撃の威力が強すぎて防げずアロガンは気を失っていて、私は全身に裂傷を負った。
「おや、先程の攻撃でまだ生きているとは害虫並の生命力ですね」
私はこっそりと先程の傷から出来た血で陣を描き始める。
笑ってる姿も素敵だけれどね、グレース。
あなたが私の奴隷になったらどんなに素敵かしら。感情は残しておきましょうね、人形みたいなあなたも一興だけれどもそれじゃあつまらないわね。屈辱に震えるあなたの顔を見れたならそれ以上に素晴らしいことはない。
今、私のものにしてあげるわーー。
ノヴァルディ軍を誘導しながら気付かれないように少しずつ幻術を展開していく。
非常に繊細で神経を使う魔法だが今回の作戦には欠かせないものだ。
ヴァレンティンに入ったらリヒトを率いる魔術部隊が任務を遂行してくれる。
「くそっ!何なんだこれは!!」
久しぶりに会った肉親に自分でも驚くほど何の感慨も湧かなかった。
大人しくノヴァルディにいれば殺さずにすんだものを。正直この男の存在は生きていようがいまいが心底どうでもいいがただ思うのは、目の前の男は愛しい姫さまの安寧を乱す害虫だということだけ。
「残念ながら死ぬのは私ではありませんよ」
俺は手を天にかざしてリヒトに合図を送る。
強烈な攻撃魔法が放たれ、呆気なく決着はついたかと思われた。
しかし土埃が舞う中、その中心にいたのはアロガンと一人の女。
「おや、先程の攻撃でまだ生きているとは害虫並の生命力ですね」
まずい。詠唱が完成するまで暫くは魔法の行使は出来ない。その上先程の攻撃はほぼ全力だった。もう皆の魔力残量は余り無い。
内心の動揺を悟られないように平然を装いながらも思考を続ける。
あの攻撃を受けて尚生きているなんて並の魔術師じゃない。一体何者だ?
フードから見えたピンクの髪。
それと赤い瞳。
「あ……申し訳ございません。
私……。ご無礼を」
脳裏によぎった姿と重なる。
髪の色こそ違えど、あの瞳はーー!
赤が笑う。酷く歪な笑みで嗤う。
「しまっ……!」
「我がアンジェリカの名において命ず。
デリット・イェン・ノヴァルディ。
その身に滴る血肉、その身に宿る魔力、その全ては我が物となる。
隷属せよ」
その瞬間、女から黒い影が飛び出し俺にまとわりつく。
薄れゆく視界の中浮かんだのはーー。
「……姫、さ、ま」




