私が出来ることをやります
「アルベイン殿下。
妙な魔力反応を感じ、魔力を辿ってみたらどうやら遠視の魔法を使われていたみたいです。すぐにその魔力を打ち切り、防御魔法を施しました」
リヒトから告げられた報告。
「どんなやつが使ったのかは分かったか?」
「申し訳ありません、そこまでは……。
ただ、遠視の魔法が使えるなんて、ノヴァルディには相当な魔法の使い手がいると思われます」
厄介だな。
「シェリエール。ノヴァルディの貿易の様子はどうなっている?」
「他の国にさり気なく圧をかけてノヴァルディへの食糧、武器の輸出は減らした。
物資の確保は絶望的と言ってもいい筈だよ。
グレースからの報告はどうなってるの?」
……そう。
向こうの物資は乏しい筈なのだ。
しかしノヴァルディ軍は予想以上に強く、我が国は苦戦を強いられている。
「……状況は良くない。
ノヴァルディ軍は我が国の国境近くまで迫ってきているそうだ」
「…グレースは何をやってるんだ。
アミュールからも軍を送ろう」
シェリエールが提案してくれるが、それに頷くわけにはいかない。
「いや、アミュールには最後の砦として我が国を匿ってもらいたい」
俺の案にシェリエールは目を丸くする。
「それって……ヴァレンティン国民をアミュールで匿うってこと?
確かに土地的には問題ないけど……それだと食糧が賄えない」
「その点に関しては問題ありません」
口を出したのはリヒト。
リヒトはその実力を遺憾無く発揮し、ヴァレンティン、アミュールの二国に対して強固な防御魔法を担ってくれている。
恐らくこの世界で、他の侵略を防ぐという点では一番安全だと言っても過言ではない。
「クリスティーナ殿下が開発された成長魔術がございます。
植物、穀物を始めとした食糧の成長を著しく促進させるメカニズムが整っています。
味は落ちてはしまいますが、量の方は切り詰めれば賄っていけると思われます」
「ティーナは……大丈夫かい?」
俺は深い溜息をついた。
「クリスティーナはずっと籠っている」
ここは魔法棟の一室。
魔法国であるヴァレンティンが誇る膨大な数と種類の魔法書を内蔵している。
私はここに篭っていた。
目的は魔法錬金術。
ゲームには、攻略者を攻略するメインクエストの他に魔法錬金といって、この世界にある素材を組み合わせて新たなアイテムを作り出すサブクエストがあった。
作られたアイテムはキャラを攻略するのに便利なものもあった。
その中で私が今探しているのは天使の雫。
天使の雫とは端的に言うと、すっごく良く効くエナジードリンクだ。
あな夢は攻略対象に話しかけて相手の親密度を上げていくのだが、その際に必要となるのが体力ゲージ。
天使の雫はその体力ゲージを飛躍的に高めてくれるのだ。
それを回復薬として使えば少しはこの戦いの足しになるのではと思った。
私は前世魔法錬金のガチ勢で、友人にも引かれたほどだ。
だから私の頭の中にはありとあらゆる素材の組み合わせパターンが入っている。
前世の知識を駆使して植物の成長を劇的に速める「成超剤」や、腹持ちをよくする「兵糧丸」なども作った。
しかし天使の雫だけは難航している。
何故なら天使の雫の錬金レシピは完全に秘されているものだったからだ。
それでも魔法書を片っ端から読み漁り、試行錯誤を繰り返した結果、天使の雫への完成は近づいて来ているように思えるが、天使の雫は完成すると虹色に光るのだ。
私の手元にある試作品は未だ透明。
「はあああ……詰んだわ」
「姫様、入るぞ。
……うわ、なんだこの惨状。
ここの本は貴重な物ばっかなんだぞ?
ちゃんと片付けろよ」
リヒトが段々オカン化してきている気がする。テキパキと散らかった本を片付けていってくれる。
「……って、なんだこれ!?」
リヒトが指しているのは試作品。
「あー…それ?
今研究してて、良いところまでいってる筈なんだけど何か足りないのよね」
「いや、あんた、これは……。
とんでもない魔力反応を感じるぞ!?
これで試作品って……」
リヒトが何か呟いているが私にとっては試作品。まだまだ決定的に足りないものがある。
また机に向き直ろうとする私をリヒトが慌てて止める。
「おいおい姫様、ちょっと待て。
あんたどれだけぶっ続けでやってんだ?
ちょっとは休憩しろ。身体が持たないぞ」
「休んでる暇なんてないの」
こうしている間にもグレースは前線で身を危険に晒しているのだから。
私だけ悠長に待ってなんかいられない。
そんな私の様子に鬼気迫るものを感じたのか、
「はあ…姫様は決めたら引かないからな」
リヒトは溜息をつきながら私の隣に座った。
どうやら手伝ってくれるらしい。




