護衛騎士を解任します
本日は12:00と21:00に二話ずつ投稿致します
「それは真の話か?」
「ええ、あなたの弟君は追っ手を逃れ生き延びて、現在はヴァレンティン王国にいます」
銀の髪に青い瞳。
その色合いは彼の弟と似ているが、私の前にいるのはアロガン・エリク・ノヴァルディ。
ノヴァルディ王国の現国王。
私はあれからノヴァルディ王国に行き、洗脳、魅了などの魔法を使って王宮へと潜り込んだ。
前国王が元より患っていた心の病を魔法で悪化させ自害させた。
ついでに正妃も邪魔だったので自害させた。
代わって即位したアロガン王。
アロガンはとても愚かで横暴な王子で、前世のゲームではアホガンと呼ばれていた。
弟に強烈なコンプレックスを抱えているアロガン。魅了の魔法を使いながらコンプレックスを認めてあげるような言葉を吐けばすぐにおちた。
アロガンは5巡目にようやく攻略対象となる。ヒロインがアロガンを攻略し、一定以上の親密度を達成すると、ノヴァルディ王国はヴァレンティン王国に攻め入り、二国間で戦争が始まる。
その戦いでノヴァルディ王国がヴァレンティン王国に勝利し、クリスティーナが命を落とすことでグレースはヒロインのものとなる。
従属魔法を使役されたグレースはさながらヒロインの奴隷となる。
アロガンはその過程で必要なのだ。
弟に強烈なコンプレックスを抱いているアロガンだ。弟が生きていると知ったら絶対に野放しにはしておかないだろう。
私はヴァレンティン王国へ攻め入るようにアロガンを洗脳し始めた。
『ノヴァルディ前国王は、側妃が死んだことから心の病を患っていたが、それが悪化し自ら命を絶った。
代わって即位したのは第一王子。勢力拡大を試みて戦争を仕掛けようとしている』
「以上がシェリエールからの情報だ」
自信家な兄らしいことだが、これほど無謀なことをする人だったとは。
「殿下、一つお願いがございます」
俺は覚悟を決めて、身を切る思いで切り出した。
「え……?
お兄様、今なんと……?」
「グレースをお前の護衛騎士から外す」
ぐにゃり。
突然床が歪んだ。景色が斜めに見える。
あれ?私が斜めになっているのか。
震える身体に鞭打つ。
「……理由を、聞いてもよろしいですか?」
「あいつにはやるべきことがある」
やるべきこととは何だろうか。
そういえば、お兄様は今年で20歳だ。
ゲームの舞台であるお兄様の婚活パーティー(あけすけ)はもう間近のはずだ。
それなのに何の準備も行われていないということは……。
「……何が、起こっているのですか」
「お前は何も気に病むことはない」
そう言い切ったお兄様の目はこれ以上ない程静かに凪いでいてそれが逆に恐怖心を煽る。
「……お兄様、教えてくださいませ。
私にも、知る権利はございます。
何も知らないまま耳も目も塞がれて守られたままなのは嫌です」
しっかりとお兄様の目を見つめると、お兄様は根負けしたのか大きく溜息をついた。
「……ノヴァルディ王国の様子がおかしい」
ノヴァルディ王国。
他国との交流は少なく、閉ざされた秘国だとゲーム中では呼ばれていた。
そのノヴァルディ王国がなぜ……。
こんな展開は知らない。
未来がどうなるか分からない恐怖に身体が震えだした。
そんな私の頭をお兄様がポンポンと撫でる。
「大丈夫だ。
お前は何があっても俺たちが守る」
俺たち。つまりグレースはこの件に関して深く関わっているのだ。
私は恐怖のどん底に突き落とされた。
「グレース!!」
それから真っ先に愛しい人の元へ向かった。
「申し訳ありません。
私から申し上げたかったのですが、先にアルベイン殿下からお聞きになったのですね」
困ったように笑うグレースの瞳からは強い意志が見えて、ああ、この人はもう覚悟を決めているのだと分かった。
ここは平和な日本ではない。
あの予定調和のゲームでもない。
未来が分からない。
そんな当たり前のことがこんなにも怖いなんて忘れていた。
本当はそんな第一線で危険を冒して欲しくない。ずっと私の傍にいて欲しい。
でも分かってる。
それでは本当の意味で共にはいられないこと。
「……命令です。
必ず生きて帰って来なさい」
震える声で生まれて初めてした命令。
まるで前世のフラグみたい。
本当はこんなこと、言いたくなかった。
「貴女に相応しいに足る存在になるために務めを果たして参ります」
そう言って私に跪き頭を垂れる騎士。
この人が欲しい。どうしようもなく愛しい。
一緒に未来を作っていきたい。
そのためには
「……今までよく務めてくれました。
グレース、貴方を私の護衛騎士から解任します」
信じて愛しいこの手を放した。
「今から行くんだね。
ティーナに挨拶は無事に終えた?」
俺にそう声をかけたのはシェリエール。
アルベインと軍事会議を行うためにきたのだろう。
「……ええ」
いつもながら姫様を愛称で呼ぶあたりに殺意を覚える。
「……死ぬなよ」
まさかそんな事を言われるだなんて思っていなかったため、思わず二度見をしてしまった。
「……何さ、その反応。
確かにお前はいけ好かない奴だけどさ。
お前がいなくなったらティーナが悲しむ。
お前が帰って来なかったら僕が貰うからな」
ああ、きっとこの人はもしものことがあっても姫様を幸せにしてくれる。
そう思うとスッと肩の荷が下りた。
「そんな日は一生来ません」
捻くれた励ましを受け取りながら俺は戦いに向かった。




