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なんだか雲行きが怪しいです

「お呼びでしょうか」

珍しく俺を呼び出したアルベイン王子はニヤニヤと笑っている。

まるで見透かされているような瞳を持つこの王子が俺は苦手だった。

「クリスティーナに縁談をと考えている」

嫌な予感がしていたがこれは想像以上にひどい。

「こら。王族に向かって殺気を放つな」

どうやら無意識に殺気を放っていたらしい。

こんな暴挙を許す王子は、いつもながら何を考えているのか読めない。

「….…それで、それを私に告げてどうするおつもりで?」

殺気を引っ込めて静かに問うと、王子はいきなり核心をついた。

「お前、あいつが欲しいんだろう」

あまりにも明け透けな物言いに最早呆れた。

「デリット・イェン・ノヴァルディ」

捨てた筈の名を呼ばれ、思わず目を見張る。

王子はお見通しだと薄く笑った。

「銀の髪に青い瞳。強い魔力。

この俺が騎士団に入る際、何の調べもしてないと思ったか」

「では、私がこの国に害をなすとはお思いでなかったのですか?」

王子は確信したように否定する。

「お前は、クリスティーナに仇なすことは絶対に出来ないだろ?」

……この王子は大雑把のように見えて冷静な判断をする広い視野を持つ食えない狸だ。

「……それで、何が仰りたいので?」

俺がそう促すと、王子は嫌味ったらしく笑う。

「いくら元王子だったからと言って、平民の一騎士に大事な妹はやれん」

王子は憎たらしいほど勿体ぶる。

「何が望みでしょう?」

とてつもない面倒ごとに巻き込まれそうな予感がしつつも、王子の答えを待つ。

「隣国の動きがどうにも怪しい。

一騎士には妹はやれないが、この件を解決できるような器の男なら、妹に、また俺の義弟に相応しいだろう」

……もう一度言う。

この男は食えない狸だ。



「やあ、一週間ぶりだね。アルベイン」

相変わらずチャラいこいつが言ってることは残念ながら間違ってない。

妹が発明した転移ゲートをヴァレンティンとアミュールとの間に置いている。

これによっていつでも両国を行き来できるのだ。王族しか入れない場所へ設置しているため悪用防止に対する心配は必要ない。

よって両国の結びつきはより強固なものになっている。

我が妹ながらその発想力には驚かされる。

この前はグレースが余りにも煮え切らない態度だったため発破をかけたが、縁談を考えていることは本当だ。

最有力候補は目の前のシェリエール・フランク・アミュール。

大国の次期王と縁続きになることは我が国としても利がある。

こいつならクリスティーナをしっかりと守れる力がある。

軽薄に見えるがそれは生来の繊細さを隠すものからくると俺は思っている。

俺とは週一単位で頻繁に会っているが、クリスティーナとは文通こそしているものの、あまり直接会ってはいない。

本人曰く、クリスティーナに釣り合う男になってから会うことにするらしい。

健気なことだ。

次点ではリヒトだ。

今の段階では王女を迎えるにはいくら未来の筆頭王宮魔術師とはいえ平民出身のリヒトでは少々荷が重いが、侯爵家で現筆頭魔術師の養子にいれてもいい。あそこは丁度子供がいなかったから。

とはいえ、俺は基本クリスティーナの意思を尊重したいと思っている。

俺は幼い頃あいつに諭されなかったらきっととんでもない暴君になっていただろう。

あいつがグレースを選ぶなら、グレースにはクリスティーナを守れるだけの力があることを示してもらわねばならない。

……可愛い妹を掻っ攫っていく奴に対する嫌がらせの気持ちもまあ少しは入っていないわけではない。

「……今日来たのは他でもない。

ノヴァルディ王国の妙な動きは把握しているだろう」

「……まあねえ。

いきなり武器の輸入をし始めたり、なんかキナ臭い」

やはり大国アミュールは多方面で貿易していることもあり、情報の耳が早い。

「……こんなことを頼むのは本当に心苦しいが、もしノヴァルディがヴァレンティンに攻め入って来たら…。

クリスティーナだけでも助けてやってくれないか」

俺は深々と頭を下げる。

…俺は王太子だ。

この国と最期まで共にする。

でもクリスティーナだけは…。

「はあ……。

突然何を言い出すのかと思えば」

ゴツン!

頭に走った衝撃。

「ぃてっ!…何しやがる!」

「僕は今、物凄く腹立たしい」

シェリエールのこんなに険しい顔は初めて見た。

「クリスティーナだけは助けろ?

ふざけるな!

君は僕のことを窮地に陥った友人を見捨てる奴だと思っているの?

僕は君のことも大好きに決まってるだろ!」

「おい…気持ち悪いこと言うな」

鳥肌がたった腕をさすりながら言うとまた殴られた。

「守るに決まってるでしょ。

大国アミュールの名は伊達じゃない。

友人の国一つ守れないでどうするのさ」

俺はどうやら友人を見くびっていたらしい。

「……俺が女だったら恐らくお前に惚れていた」

「え、何それ気持ち悪い」

俺は無言でシェリエールの脳天にチョップをかました。


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