当たって砕けて弾けました!
どうも、推しから避けられてそろそろメンタルが瀕死のクリスティーナです。
いやね、やっぱりね、どうポジティブに考えてもやっぱり避けられてるのよ!
はにかんだ笑顔ももう見せてくれないのよ!
とはいえ私には何の心当たりもない。
やっぱりゲームの強制力なのかなあ……。
ゲームが始まるのは私のお兄様が20歳、私が18歳のとき。
今私は17歳だから、残っている時間は後一年ほどだ。
「………はあ。しょうがない、やるかあ」
「……はあ?
グレースをお前の護衛騎士から解任する?」
そう言って驚き呆れているのはお兄様。
「ええ。
どうやら私がグレースに何かしてしまったみたいなのです。
グレースは非常に優秀な護衛ですし、この際お兄様の護衛にしては?」
私がグレースにしてあげられることといったらこれぐらいしか思い浮かばなかった。
お兄様は溜息をつき、肩を竦めた。
「……で、本音は?」
ぐ……。
やはり誤魔化されてはくれなかったか。
「……どうやら私はグレースに嫌われてしまったようなのです」
「はあ?
…あいつに限ってそれはないだろう」
お兄様はまた溜息をつく。
「……で?
どうせグレースにはまだ何も話してないんだろ?」
う……。
「まずは当人同士で話し合え。
話はそれからだ」
「……はい」
すげなく断られました。
……分かってはいるんだよ、私だって。
でもさー何事にも心の準備があってさー…。
……はい、すみません。
逃げてちゃダメですね。
攻略対象者に偉そうに講釈垂れてる奴が甘えてどうする。
当たって砕けて後で思いっきり泣けばいいじゃない。
怖気付いたら女が廃る!
「グレース、話したいことがあるの」
声震えるな。目逸らすな。逃げるな。
強く手を握りこむ。
目の前の推しをしっかりと見つめる。
「……貴方、最近私のこと避けてるわよね?」
グレースの目が分かりやすく泳ぐ。
「そのような……」
誤魔化しに入るグレースを遮る。
「はっきり言って欲しいの。
私、何かしたかしら?
何か悪い所があったら言って欲しいの。
直すから」
「姫様が悪いことなど何一つございません!
ただ、私が……」
グレースはぐっと唇を噛んで俯いてしまった。
すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるがここで逃げてはいけない。
「じゃあ、じゃあどうして!
前みたいに笑ってくれないの、
急によそよそしくなっちゃったのっ、
私のこと……嫌いになっちゃったのっ…!?」
感情が高ぶって涙が出てくる。
ひっくひっくと嗚咽が漏れる。
ああ、なんてカッコ悪い。
私は子どもじゃないのに。
こんなに感情をぶつけるのは今世で初めて。
それでもグレースのことになると冷静でなんかいられなくなる。
だってやっぱり辛い。
「ちゃんと言ってくれなきゃ、
分かんないよ……っ!」
瞬間、何か大きなものに包まれた。
ふわり、グレースの匂いが香る。
あ、イケメンは匂いまでイケメンなんだな。
一瞬変態思考が脳をよぎり涙が引っ込んだ。
グレースはそのまま私を腕で囲い込む。
「俺が貴女を嫌うわけがない…っ!
でもこんな穢れた俺の手で、貴女に触れることは許されない……っ」
苦しそうな、とても苦しそうな声だった。
私を抱きしめる身体が震えている。
ああ、推しが、推しが泣いている。
「グレース…。顔を見せて」
グレースは恐る恐るといった様子で顔を上げる。泣き顔も美しいグレース。
でもその目は不安に揺れている。
何をそんなに憂うことがあるの。
何をそんなに怖がっているの。
グレースの手を取る。
「この手は私を守ってくれる手よ。
穢れてるだなんて言わないで。
グレース、私を見て。
私は今、ここにいるわ。
こうして貴方の傍にいるわ」
ねえ、だから。
「大丈夫だよ」
ふにゃり。グレースに向かって笑う。
涙でぐちゃぐちゃだろう。
王女に相応しくない笑顔だろう。
それでも今は、自分を偽ることはしたくなかった。
するとグレースの綺麗な顔が近づいてきて
唇に柔らかいものが触れた。
「……………?…………っ!?!?!?」
混乱の極みに達した私はそのまま気を失った。




