或る女の話
「どういうことなの……」
私は混乱していた。
人がいない路地に足早に入り込んで自分にかけていた魔法を解き、髪を元の色に戻す。
先程のあの騎士は確かにグレースだった。
見間違えるはずがない。
見事な銀髪に青い瞳。
私がかつて何度も何度もループした乙女ゲーム「あなたと夢見る愛に願いを」のヘビープレイヤーだった私。
生まれつき心臓に病気を抱えていて入院生活を強いられていた私は学校に行くこともままならなかった。
白い部屋、白いベッド、白いカーテン。
無機質な箱に入れられていた私の唯一の救いは「あなたと夢見る愛に願いを」。
姉のお下がりでもらったこのゲームだったが、他に大した娯楽もなかった私はのめり込んだ。
ゲーム内の攻略者は皆好きだったが、中でもグレースはヒロインへの執着度が高いヤンデレであり、私の心の支えだった。
あな夢は実は最初、全攻略者をクリアした後の2巡目からが本当のプレイなのだ。
2巡目からはグレースの、ノヴァルティ王国の第二王子であるという事実が解放される。
3巡目からはヒロインが魅了の魔法を使えるようになる。
4巡目からは遠視の魔法が使えて、攻略キャラクターの日常を覗き見ることが出来、新たなスチルが開放される。
そして5巡目からは新たな攻略対象を攻略することが可能になるのだ。
そこまでやりこんだ私は発作が起きて呆気なく死んでしまった。
目が覚めると私はあな夢のヒロインとして生まれ変わっていた。
そして私には生まれつき魅了の魔法と遠視の魔法が備わっていた。
私は遠視の魔法を使ってたまにゲームの攻略対象の様子を覗いていた。
それで分かったのは大きなイレギュラーが起こっていること。
攻略対象者たちは本来はヒロインによって改心し、ヒロインに心を開くのだ。
しかし現在攻略対象者たちは既にマトモになっている。
彼らに共通して関わりがあるのはクリスティーナ・エデュ・ヴァレンティン王女。
ゲーム中の悪役令嬢(王女)だ。
攻略対象者たちは皆一様にして王女に心を開いている。
バグが起こっている。
恐らく王女も転生者なのだろう。
先程会ったのは2巡目で現れるグレースとヒロインの出会いイベントだ。
そこで私は魅了の魔法をかけてみた。
ヒロインの持つ魅了の魔法は強力で、これに抗うことは通常ならできない。
なぜ私の魅了の魔法が効かなかったか、考えられるのはグレースが既に心を開いている相手がいること……。
「王女か……」
そんなことは困る。
グレースは私にとってなくてはならない存在なのだ。
「ダメよ…絶対にダメ。
許さないわ……そんなこと」
何とかしなければ……。
私はまた足早に歩き出した。




