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訪問旅行に来ました!

「姫様、大丈夫ですか」

「ええ……大丈夫」

クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティン。

只今人生最大の危機に瀕しています。

アミュール王国へ向かう途中の馬車の中。

私は尋常でない吐き気に見舞われています。

乗り物酔いです。

この世界の馬車の乗り心地をナメてました。

いくら王女の馬車とはいえ、前世の乗り物の乗り心地に甘やかされた身体には刺激が強すぎたようで。

道路もアスファルトで舗装されていないため、私の脳みそは前後左右、縦横無尽にシェイクされ、三半規管は限界を迎えています。

つまり端的かつ簡潔に要約すると、吐きそうです。

酔い止めの魔法をかけたって、かけたそばからまた酔ってしまうのでキリがなくて最早諦めました。

推しがとても心配そうにこちらの様子を伺っているが、私は青い顔をして懸命に耐えている。

吐くための容器も用意されているけど、推しの前でそんな醜態を晒したら絶対一生ものの後悔になる。

私は馬車に揺られながら固く決意した。

帰ったら、絶対、転移魔法をリヒトと開発するんだ……!



死線を潜り抜けなんとかたどり着いた地、アミュール王国。

私は着いてからすぐに状態異常回復の魔法をかけて少し回復した。

アミュール王国は広大な土地を持ち、貿易が盛んな大国で、様々な国から色々な物が集まって来る。活気溢れるバザールは世界的に有名だ。

今の私にはそんな活気は微塵もないけれど。

青い顔をした私を出迎えたのはこの国の王太子、シェリエール。

「愛しいティーナ、久しぶりだね。

僕はこの日をずっと心待ちにしていたよ。

……あれ?何だか顔色が良くないね」

随分美しく成長したご様子。

だいぶゲーム中の容姿にも近づいて来た。

しかし私にはそれをじっくりと確認する余裕はない。

「姫様は長旅でお疲れでございます」

私の顔を覗き込もうとしたシェリエールの前に立ちはだかったのはグレース。

「あれ、君は初めましてかな?」

「クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティン王女の護衛騎士、グレースと申します。

どうぞお見知り置きを」

シェリエールは挑発するように笑う。

「これはどうも、ご丁寧に。

僕はシェリエール・フランク・アミュール。

この国の王太子で、ティーナの婚約者だよ」

その場の空気が2,3度下がった気がした。

「シェリエール様、そのような戯言はおやめ下さい。ただの腐れ縁でございます」

私がキッパリと訂正する。

「酷いなあ、僕は本気なのに。

いつでも素直になっていいんだよ?」

「クリスティーナ様はご気分が優れないので休養が必要です」

話の流れをバッサリと切るグレース。

うん、大変頼もしいけど相手一応王太子だからね!?

「そうだったね。

すぐに部屋を用意させよう。

大丈夫かい?ティーナ」

これが大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ。後で転移魔法の重要性について語らせてもらおう。

グレースは私を軽々と横抱きにし(お姫様抱っこですよ!残念ながら今の私には興奮する余裕もないけれど)シェリエールに向かって慇懃無礼に挨拶をして足早に案内された部屋へと向かった。

とりあえず少しの間休ませてもらおう…。



「ティーナの様子はどう?」

姫様がお休みになったのを見届けて部屋を出ると、あのいけ好かない王子が話しかけてきた。

ティーナなどと親しげに愛称で呼ぶのも、それが許される身分であるのも非常に憎らしい。

「今はお休みになっています」

「そうか……。

ティーナは無理が祟ると一気に疲れが出るからね」

知ったような口をきく王子に更に苛立ちが募る。

「お傍でお守り申し上げておりますので、私もよく存じております」

姫様の傍には俺が一番いる。

「そうか、君もか。

君とは気が合いそうだね。

これからよろしく」

心にもない言葉を吐きながら王太子は去って行った。

力のない今の自分に酷く腹が立って仕方がなかった。



グロッキーから一転、回復した私、クリスティーナは本日シェリエールの案内でバザールに来ております!

いつも私の傍に控えているグレースは、シェリテールからすぐ傍での護衛は不要だと言われて今日は少し離れた所にいる。

グレースは悔しそうに下がっていった。

グレースが傍にいないことは寂しいけれど、郷に入っては郷に従え。

ごめんね、グレース。

バザールは前世でいう東洋風の雰囲気が漂っていて、とっても心惹かれます!

前世でいう小豆のような豆、アンや、もち米のようなモチイを見つけ、とても心が踊っています。

「気に入った?」

「ええ、とっても!」

テンションが上がった私は思わず素の笑顔でシェリエールに答えてしまった。

ぽかん、とした顔でこちらを見るシェリエールにしまった!と慌てて心を落ち着ける。

シェリエールの前でこんな醜態を晒してしまうなんて……!

恥ずかしさが込み上げ赤くなった顔を隠すように露店に並んでる物に集中した。



心配だったティーナの体調も翌日にはすっかり治ったようなので今日はティーナとバザールに来た。

あの邪魔な護衛は今日は後ろで大人しくしていてもらおう。

バザールにはここら辺では珍しい物が数多く並ぶ。ティーナも興味が惹かれるのか、色々な物を僕に質問してくる。

きちんと予習しておいてよかった。

これまで見たことがないほどはしゃぐティーナの姿を見ていると何故か僕も嬉しくなる。

「気に入った?」

くすぐったい気持ちになりながらティーナに話しかける。

「ええ、とっても!」

とくん。鼓動と共に時が止まった気がした。

とくん。呼吸の仕方も忘れてしまったかのように息を呑む。

真っ直ぐな、とても真っ直ぐな笑顔だった。

今まで何となく、心地良いと思っていた。

何となく、共にいる未来を気まぐれに描いたこともあった。

でもこれは違う。

今僕は、鮮明に、君に恋に落ちた。


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