お土産を買います!
「ティーナ様、私から離れないで下さいね」
そう言う私の推し。
街中ということで、いつものように姫とは呼べない為の呼び名。
推しから呼んでもらえるなんて恐悦至極…!
今日の推しはいつもの煌びやかな装飾を施した騎士服ではなくて、少し色味を抑えた地味なものだ。髪の色は茶色にしている。それでもその魅力はちっとも衰えていない。むしろいつもとは違った装いで更に興ふn…胸が高鳴る。
街の女の子達もグレースに見惚れている。
うんうん分かるよ、推しは今日も尊い。
私も髪を赤色に変えて、いつもより簡素なワンピースを着ている。今日は街へお忍びで出るのだ。
街に出るのは6歳以来禁止にされてしまったから実に10年ぶりではないだろうか。
……私には前科があるためたくさんの騎士、侍女が付いている。
騎士たちは少し離れたところで監視……私を見守ってくれている。
勿論グレースはぴったりと私の横に付いているけど。
……もうあんなことしませんよ!
あれは聖地巡礼をするというそれはそれは大切な任務があってこその強行突破だったので。あの時多大な心配と迷惑をかけたのでそこはきちんと反省してます、はい。
なぜ私が今回街に出ることになったのか。
視察の意味も勿論あるのだけれど、訪問旅行の際のお土産を買いに来たのだ。そう。私は一週間後(この世界も一週間は7日間)に隣国のアミュール王国へ行く。なぜか文通仲間になったシェリエールから執拗に誘われ続けていたのだ。
お兄様は王太子という立場から頻繁にではないが何度かアミュール王国へ訪問している。
一方私は箱入り娘(笑)なので何だかんだこの国を出るのは初めてだったりする。
シェリエールもウザいけど幼馴染だし、チャラいけどまあいい奴だし、会うのは結構楽しみだったりする。ウザいけど。
そんなシェリエールへのお土産は何がいいかな。
街では炭酸水、ポテトチップス、ハンバーガーなど実は私が考案した食べ物が大人気だ。
……食い意地が張ってるわけじゃない。
やはりジャンクなフードは恋しくなってしまうものなのだよ。
「グレース。貴方だったらお土産に何をもらったら嬉しい?」
隣国とはいえ二日はかかる道のりだから食べ物はやめたほうがいいかな。
シェリエールと同性であるグレースから男性が欲しいもののヒントが得られないかと尋ねてみる。
「ティーナ様が考えて選んで下さったものならどんなものでも私の宝になります」
……うぅ〜〜〜ん?
求めていた答えと違うぞー?
グレースはあてにならなそうなので私は仕方なく自分で考えることにした。
どうせなら実用的な物……?
剣……は無理だし。
筆記用具……はなんだか私が率先して文通したがってるみたいだし。
そういえば、手紙で成長痛で眠れないって書いてあった。
攻略対象が成長痛と聞いて、少し複雑な気持ちになったけど。
成長痛は酷い人は酷いと聞くからなー。
痛み止めの薬とかあるかな。
きっと既製品に成長痛のイメージをしながら魔力を流し込めば成長痛の薬になるだろう。
魔法って便利。
今日は街に来ている。
お忍びのため、姫様は変装されている。
見事な金髪を赤毛に変え、簡素なワンピースをお召しになっているが、その美しさまでは隠しきれない。
現に街を歩いていると彼女に見惚れている虫がたくさん沸いた。
見るな、減る。
俺が睨み付けると慌ててその場をそそくさと去って行く。
「グレース。貴方だったらお土産に何をもらったら嬉しい?」
今日姫様は、近日に訪れるアミュール王国の王太子へのお土産品をご購入されるそうだ。
姫様が誰か男にプレゼントをする、その事実だけでも腸が煮えくりかえりそうだが、なんとかおしとどめる。
アミュール王国の王太子、シェリエール・フランク・アミュール。
俺はまだ直接会ったことはない。
しかし姫様はもう数年シェリエール殿下と文通をしているらしい。
シェリエール。
全く以っていけ好かない奴だ。
俺がそんな黒い気持ちに悶々としていると、
「はい、これはグレースに」
そういって差し出されたのは深い青の小瓶。
俺は手にとってしげしげと眺める。
「これは……?」
姫様ははにかんで言った。
「傷薬よ。
グレース、いつも私を守ってくれてありがとう。私が既製の物に少し手を加えたから効きは保証するわ」
何ということだ……。
俺は姫様の余りの天使っぷりに目眩がした。
「グレース……?」
何も言わない俺を不審に思ったのか姫様が心配そうに俺の顔を覗き込んで来る。
「………感動で言葉が出ませんでした。
大変有難き幸せ。
大切に飾らせて頂きます」
「いや飾らないで使って!?」
そんな勿体無いことをするものか。
これは俺の一生の宝だ。
俺は小瓶をしかと胸に抱き、幸せを噛み締めた。
クリスティーナが薬屋で土産品を買っているとき、グレースは外で見張りをしていた。
勿論クリスティーナには腕利きの護衛侍女がついているが。
するとそこで
一人の女がグレースにぶつかった。
「あ……申し訳ございません。
私……。ご無礼を」
ありふれた茶色の髪に似つかわしくない赤い虹彩にどこか不自然さを感じ、グレースはふとその女を見る。
「いえ、どこもお怪我は御座いませんか」
女は一瞬目を見張り、そのまま頭を下げて足早にその場を去った。
グレースは少し妙に思いながらも任務を続行した。




