遂に出会いました!
活動報告でも書きましたが、9/15から、12:00、15:00、18:00、21:00頃に投稿させて頂きます。
お忙しい方もいらっしゃるとは思いますが、お暇なときにでもお付き合い頂けたら幸いです。
その瞬間、私は思い出した。
推しの破壊力を。推しとは何なのかを。
推しとは光。
画面越しに見つめていた。
その柔らかな声が、はにかんだ笑顔が、その全てが尊かった。
クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティン、
13歳。
遂に運命に出会いました。
「お、お兄様。あの方は?」
お兄様と共に来た騎士団の見学。
遂に私は見つけたのだ。
間違える筈もない、あの姿。
そこだけ世界が違って見える。
その姿はきっとどこにいたって私は見分けられる。
「ああ、あの銀髪の騎士か?
グレースだ。若いながらも剣技に無駄がなく、使う魔法も強力だな」
グレース。グレース。
あれ程恋い焦がれていたあのグレースが今、現実にここにいる。
夢にまでもう何百回は見たあの姿が!今!
私の目の前にいるのだ!
「何だ?
お前ああいうのが好みなのか?」
ニヤリと笑ったお兄様の顔をぶん殴りたい。
好みだとかなんだとかそんな俗っぽい名前をつけないでくれ!
推しなんだよ!尊いんだよ!
推しとは合掌して涙を静かに流して拝むものなんだよ!
私の部屋にはたくさんの騎士達。
皆見目麗しく、顔で選んでいるのかと疑うほどだ。
今まではガナルが私の護衛騎士を務めてくれていたが、この度騎士団長に昇進したため新たに護衛騎士を選出することになったのだ。
まるでアイドルのオーディションかと思うほどイケメンたちがずらーっと並べられている中、一際際立った美貌の持ち主がいる。
肌理細やかな肌は女も羨む程の美白。
銀色に光り輝く髪は絹糸のよう。
コバルトブルーの瞳は見ているだけで吸い込まれそうに透き通っている。
細身ではあるが背は高く、きっと脱いだらすg……。騎士ならば引き締まっているだろう。
柔和に微笑んだ顔は中性的。
ここにカメラがあれば永久保存するのに…!網膜と記憶に焼き付ける。
嗚呼、推しが尊い。
本当なら推しに向かって跪いて五体投地しながらジリジリと近づきたいのだけれどそれをしたら王女として、人として社会的な死を迎えてしまうので耐える。
少し心の音声が乱れしまった。
落ち着くんだ、クリスティーナ。
ここで護衛騎士に推しを選ばなかったら、もしかしたら推しから殺されるという強烈なバッドエンドを避けることが出来るかもしれない。英断をするんだ、クリスティーナ。
「お初にお目にかかります。
グレースと申します。
これから護衛騎士として誠心誠意務めさせて頂きますのでどうかよろしくお願い致します」
……はい、無理でしたー。
推しを前にして推しを遠ざけることなんて出来るわけがなかったね!
そもそもヒロインがグレースのルートに入らなければいい話だし!
グレースの、苦悩に満ちながらも暴走したクリスティーナにトドメを刺すスチルは美麗であれは永久保存すべき国宝だと思った。
もしかしたら推しから殺されるのも本望かもしれない。
「クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティンです。
貴方はとても優秀な騎士だと聞いています。
こちらこそ、どうぞ宜しくお願いします」
推しに向かってめちゃくちゃ偉そうな自分を殴りたい!
グレースは跪いて私の手を取り、口付ける。
……もう一生手洗わない。(震え声)
「あなたが立派な騎士になったら、私に返しに来るのよ!」
その言葉を胸に、遂にここまで来た。
俺は王女に少しでも近づくために騎士団を目指した。
幸い腕が立ったので、騎士団の試験に合格することが出来た。変に魔法を使うことで怪しまれないように髪は銀色に戻した。
騎士団は実力主義だったので、俺はすぐに頭角を現し、精鋭部隊に入ることが出来た。
訓練とは違う、実地での厳しさに慣れた頃俺はこの国の王子から呼び出された。
「お前がグレースだな。
腕がたつとの話は聞いている。
お前、クリスティーナの護衛に付け」
願っても無い言葉に思わず目を瞬かせる。
「あれは賢いが、賢すぎる上にどこか危なっかしい。無茶をしすぎないように手綱を握っててくれ」
……確かに。
俺が初めて会った時もきっとあれは護衛を撒いて抜け出してきたのだろう。
あの小さなお姫様はどのように育ったのだろうか。
遂に再会できると思うと、胸が高鳴って苦しいほどだった。
「クリスティーナ・エデュ・ヴァレンティンです。
貴方はとても優秀な騎士だと聞いています。
こちらこそ、どうぞ宜しくお願いします」
息を呑んだ。
いや、正しくは息をするのを忘れた。
これほどまでに美しく成長していたとは。
俺もあの時よりは幾分かマシにはなっただろうとは思っていたが、到底及ばない。
片や王女。片や一騎士。
あの時から肌身離さず持っているネックレスはまだ返せない。
いつかもっと胸を張れる自分になった時に渡すんだ。
俺は決意を新たにしながら、これからあれ程焦がれた姫様の側にいられることにこれ以上ない幸福を感じていた。
ちなみに、王族には多数の護衛する騎士がつけられますが、「護衛騎士」は一人だけです。
一種の名誉ある肩書きのようなものです。




