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コンビニ物語   作者: 沙央未
1/1

1、上着の秘密(仮)

初めて投稿します。初心者なのでうまく書けるかわかりませんが、読んでいただけると嬉しいです。

1、家出妻


晶奈(あきな)は今見知らぬ中年男性とコーヒーを飲んでいる。

コンビニの数席しかないイートインスペースで、、、。


「少しは温まった?」


スーツを着た紳士は晶奈に優しく問いかけた。


「はい…ありがとうございます……」


晶奈はそう答えるしか言葉が見つからず、気まずくなって、紳士が買ってくれたコーヒーをすすった。

コーヒーの温かさが体に染み渡る。


その様子を紳士。。。大塚は心配と困惑の眼差しでみつめていた。


どうしてこんな、状況になってしまったのか…

そうそれはつい数分前の事。



大塚は仕事の帰り道にあるいつものコンビニで、遅すぎる夕食とビールをカゴに入れ、レジで会計を済ませている途中だった。

ふいに、外を見ると女性の姿が見えた。

大塚はその姿にぎょっとした。この寒空の中、スエットの上下。防寒具は身に付けていないのに、スエットには似合わない皮のブーツ。顔は長い髪でよく見えないが、細い身体は明らかに震えていた。

女性は疲れているのか力なくえんせきに座り込んだ。


「1189円になります」

店員が大塚に告げた。


「すみません…ホットコーヒーを、二つ追加でお願いします」


大塚はイートインコーナーにコーヒーを並べ、急いで女性の元へむかった。


「大丈夫?」


大塚の声にビクッと肩を上げると、女性は虚ろな目で大塚を見上げた。

その顔は疲れと寒さで青ざめ、唇も青く震えていた。

大塚は着ていたコートを女性の肩にかけた。


「お店の中に入ろう。そんな所では風邪をひいてしまう」


「でも私…お金持ってなくて…」


「大丈夫だよ。コーヒー買ったから良かったら飲まない?」


窓越しにコーヒーがイートインコーナーのテーブルに並んでいるのが見えた。

女性は少し迷っていたが、その言葉に甘えることにしたのか、静かに頷いた。ヨロヨロと立ち上がろうとする女性を支えながら、コンビニの中へと導きいれたのだった。



  


「これからどうするつもり?帰りたくない気持ちはわかるけど、こんな時間に女の子一人でウロウロするのは危ないよ」


晶奈がコンビニの時計を見上げると、もう夜中の1時を過ぎていた。

旦那とケンカをして家を飛び出したはいいものの、お金もなく、結婚して新しい土地に引っ越して来た私には、近くに頼れる人もいない。


「どうして帰りたくないってわかるんですか?」


「だって、この2月の寒い時期に上着も着ないで、財布も持ってない。結婚指輪だけしてたから、旦那とケンカでもしたのかなって」


大塚は苦笑いを浮かべた。

その聡明な目に全てを見透かされているような気がした晶奈は、ポツポツと言葉を繋げた。


「ウチのダンナ。すごく金遣い荒くて…

子供ほしいって言っても、子供なんて作ろうと思えばすぐ作れるだろって…

子供産むのにもお金もかかるんだよって言っても、できてから貯めたらいいだろって……

今日も仕事終わりにまた夜のお店で飲んで帰ってきて…それでまたケンカに……」


「家飛び出してきちゃったんだ」


晶奈は黙ったまま頷いた。


結婚して2年が過ぎていた。でも、旦那の金遣いの荒さや無神経さに嫌気がさして、最近は旦那とケンカが絶えなかった。

そして今日もいつものようにケンカをし、気が付けば家を飛び出していた。

上着も羽織らず、財布も持たず、着の身着のまま出てきた晶奈は、街をウロウロさまようしかなかった。


夜道を1人、1時間ぐらい歩いただろうか…

さすがに疲れた晶奈は目に入ったコンビニの駐車場のえんせきに力なく座り込んだ。

冬の風は冷たく、体が自然と震えた。


そんな時、この男性が現れたのだ。

コンビニから出てきた男性は、自分が着ていただろう上着をそっと肩にかけてくれて、震える晶奈を支えるようにイートインコーナーに座らせてくれた。

そして、温かなコーヒーを手渡してくれたのだった。


黙ったままの晶奈を見兼ねて、大塚はスーツの胸ポケットから、万年筆を取りだし、買ったコーヒーのレシートに何かを書き晶奈に手渡した。

レシートの下には一万円札が重なっていた。


「帰りたくないなら無理して帰らなくていいよ。ただ、旦那さんには連絡しときな。この近くに完全個室の漫画喫茶があるから。そこで一晩過ごすといいよ。これマン喫の住所ね。

後、これ、私の連絡先。何かあったらいつでも連絡してきていいから」


「そんな…こんな事まで…」


「いいんだよ。ほんとは心配だから一緒にいてあげたいけど、見知らぬオジサンといきなりお泊まりは嫌でしょ?」


「あっ…」


「大丈夫だよ。人妻を襲うほど、人間腐ってないから(笑)

まぁ、家出するときは、上着と財布ぐらいは持って家出しなさい。後、ケータイもね」


「あっ、ありがとうございます!」


私は深々と頭を下げた。


「そこのマン喫ね、デラックスシートがオススメだよ」


大塚はそう言うと、柔らかく微笑みコンビニの外へ姿を消した。


「あっ!上着!」

追いかけて外へ出たが、男性の姿はもう見当たらなかった。




その夜は快適すぎるほど快適だった。

大塚の教えてくれたマン喫は、コンビニから歩いて2、3分で見つかった。


そしてオススメされたデラックスシートの部屋をチョイスした。

少し値段は張るが、大塚が手渡してくれたお金で十分こと足りた。


部屋はそんなに広くないが、高級感のある黒革のマッサージチェアにシングルの簡易ベッドとテレビが付いている部屋だった。

私はお言葉に甘えて、マン喫を堪能した。

食事を済ませ、シャワールームに行った後、マッサージチェアでくつろいだ。

そして、まだ陽が昇らない早朝、私は久し振りに深い眠りについた。部屋の片隅にかけた上着から、ほのかに香るあの人の匂いと温かさを感じながら…






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