くじ引きの答え。
パンパン、と手を叩く音にそちらを向けば、トレイさんが微笑む。
「ちょっと提案があるんだけどさ。いいかな?」
「どんな提案ですか?」
エラの問いかけに、トレイさんはウィンクをする。
「騎士が六人、歌姫さんが三人。さすがに六人で三人を守るのは、ムラが出そうだし、あんまり効率的ではないと思うんだ。だから、歌姫さん一人に対して、騎士二人ずつの、合計三人で組んでみたらいいんじゃないか、と」
「いい案だと思いますけど……。すみません、この国からあまり出たことがないのでちょっとわからないのですが、守りにムラが出ると困るくらい、歌姫を襲う輩はいるのですか?」
エラの問いかけに、今度はクレハさんが頷いて口を開く。
「基本的には、歌姫様は尊び、敬うべき存在だという考えを、アルフォもファルンも持っている。だが、中にはそうは思わない連中もいる。困ったことにな」
「アーニストの存在はご存じでして?」
アイラさんの言葉に、私たちは首を傾げる。
「すみません、知らないですね……」
「アーニストは、ルアディスの民、主に歌姫や女神、それに仕える者たちを恨んでいる者どものことです」
「恨んでいる……?」
ヌドクさんの言葉を繰り返せば、今度はリターナさんがコクコクと頷く。
「そう、恨んでるの! アンディスに家族や大切な人を連れていかれた人が、主なんだってヴィリュが言ってた!」
「アンディス……」
それは知っている。
この世界、ルアディスの裏側にある、闇が支配するという世界。
ルアディスで犯罪を起こした人たちが送られる場所で、子供の頃はよく、悪さをすると、アンディスに送ってやろうか、なんて言われていた。
「どうして……?」
「中にはろくに調べもせず、ざっと見ただけで犯罪者として捕らえられる人もいる。基本的に犯罪はルアディス内での裁きとなるが、殺人だけは別だ。殺人者は犯人だと決まれば問答無用でアンディス送りだからな。ここまでは知ってるだろ?」
ヴィルさんの言葉に、私たちは頷く。
それに付け加えるとするのなら、犯罪を裁く役割を担っているのが、歌姫や女神様に仕えている神官たち、ということだろうか。
神に等しいとされている女神様や歌姫に仕えているからこそ、神の代行として裁きを言い渡す、とか、なんとか……。そういう意味で、神官が裁くことになったのだ、と女神様から聞いたことがある。
「中には、歌姫や女神に危害を加えたとして死刑が決まった者も、アンディスに送られている、と聞いたことがある」
「え……?」
「手を汚したくないんだろうな。まあ、そんな感じに凶悪殺人犯と一緒に真っ暗闇の世界に閉じ込められてるわけだ。大切な人が無実の罪で捕まってアンディスに送られたとなれば、恨む奴もいる。アンディスとルアディスを行き来できるのは歌姫と女神、そして送り人しかいないからな。その送り人も、神官の中にいる、ということしか知られていないから、誰かはわからない。大切な人をこちらの世界に連れ戻そうなんて、できるはずがない」
「恨んで、そして私たちを襲うんですか……?」
私たちを襲ったところで、意味なんてないのに?
「襲って殺す奴もいるかもしれないし、人質として捕らえられて女神や神官、送り人との交渉道具として扱われるかもしれない。まあ、アーニストじゃなくても、歌姫ってだけで価値があるわけだから、売り飛ばされるかもしれないしな」
「売り飛ばすって……」
「ファルンやアルフォよりもさらに離れた国では、人の売買がある」
「人を売ったり買ったり、ということ……? なんのために?」
「色々あるんだよ。ってか、本当に知らないんだな、お前ら。世間知らずもいいところだろ」
ヴィルさんの言葉に、エラの眉がピクリと動く。それを見たトレイが間に入る。
「まあまあ。歌姫さんたちも女神様も、こんな形で国外に出ることなんて考えたことがなかったんだと思うよ? だって、ウィションが砕けるだなんて誰も考えたことがなかったんだから」
「だとしても、これは異常だろ。国を出たことがないわけじゃあるまいし」
確かに、アルフォとファルンには、幼い頃に一度ずつ、歌姫になりたてのときに女神様に連れられて歌を歌いに行ったことがある。
その代の歌姫が誰なのかを知らせるためだ。
そのときは、普段私たちの護衛をしてくれる騎士以外にも、厳しい試験を合格した護衛の方々に守られていた。
「まあ、そういうこともあるから、ムラがあるよりはないほうがいいかな、と思って」
「で、どうやって決めるんだ?」
クレハさんの問いかけに、トレイさんが、よくぞ訊いてくれました、と胸を張る。そしてポケットから布袋を一つ取り出した。
「くじ引きで決めようと思います」
「正気ですか……」
「わたくしはそれでかまいませんが……歌姫様の命を守る騎士を、そんな適当に決めていいのかしら……」
ヌドクさんとアイラさんが、呆れ気味なため息を吐く。
「駄目? くじ引きは運だからこそ、神様の意思が宿るんだと思うんだけどなー。ね、リターナ?」
「意思がどーのはどーでもいいけど、リターニャ、くじ引き大好き!」
「あはは、ありがとう。リターナはいい子だねえ」
「どうでもいいとか言ってるけどな」
「じゃあ歌姫さん。二枚引いてくれるかな?」
ヴィルさんの突込みをサラリと無視してトレイさんは袋を振ると、私たちのほうへ口の部分を差し出す。
「……じゃあ、末の妹のシスからでいい?」
「うん」
エラの問いに、私は頷く。シスはそれを見ると、スッと袋に手を入れる。
そして手を出すと、二枚の紙を握って私たちを振り返る。
「ね、三人で同時に開かない?」
突然の言葉に、私とエラは顔を見合わせる。
「確かに、同時に開いたほうが俺たちもワクワクするかも」
トレイさんもそれに載る。
「ワクワク感なんているのか?」
恐らくはその場にいるほとんどの人が思っていたことを、ヴィルさんが口にする。
「だって、これからもしかしたら辛い旅が始まるかもしれないだろ?」
「かもしれない、じゃなくて始まるんだよ」
「それなら今のうちに楽しんでおこうってことだよ」
「人生最後、みたいな言い方をするな」
ごもっともである。
「どうかな……?」
エラが仕方ないな、と微笑む。
「シスがそうしたいのなら。ホロも、それでいい?」
「うん」
そうして、私、エラの順でくじを引いて。
三人同時に折りたたまれた紙を開いた。……私は、書かれた名前を見て、目の前が真っ暗になった気がした。
「私は、ヌドクさんとリターナさん。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「よろしくー!」
静かに微笑むシスに、リターナさんは飛び跳ねて、ヌドクさんは頭を下げる。
「私はアイラさんと、クレハさん、ですね。これからお世話になります」
「いえいえ、こちらこそ、ですわ」
「私の方こそ、よろしく頼む」
頭を下げるエラに、二人も綺麗な姿勢で頭を下げる。
そして。
「私は……トレイさんと、ヴィルさんです。……ご迷惑を、おかけいたします」
トレイさんはともかくとして、ヴィルさんは、申し訳なさと怖さで目が見れず、深々と礼をする。
「そんな改まらないで。命をかけて、お守りするよ?」
トレイさんは温かく、そう言ってくれる。でも。
「……」
ヴィルさんからは、なにも言ってもらえなかった。




