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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
命を歌う歌姫。
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里帰り。

「ウォルテの中心部に、できる限りルアディスの民を集めたほうがいいんじゃないでしょうか」


 エラのその言葉がきっかけで、私たちは今、アンディスにいる。

 本当は、山のほうにいる人々にウォルテに行くように言わないといけないのだけど。

 それは後回しにした。

 そこまでアンディスに長居するつもりはないから。

「ティアナ」

 クシャッとした黒髪に、白い服を着た後ろ姿に、私は声をかける。

 彼は振り向いて、驚いたように目を丸くする。

「あれ、どうして……」

「ちょっと、個人で動く期間になっちゃったので、少しだけ、近況報告をしに来たの」

「そう、か。いや、ちょっと驚いたよ。で、近況報告って?」

 ティアナに促されて、私はこの八年間のことをできるだけ簡潔に話していく。足りない部分は二人が横から付け足してくれる。

 そうして話し終えると、考えるように少し黙ってから、ティアナが口を開く。

「……俺も様子見に行こうかな」

「え?」

「ちょっともう一人、二人ついでで連れていこうかな。あ、いいところに。ニナ! カヤ!」

 ちょうど通りかかったニナと、もう一人、男性に、ティアナが声をかける。

「ちょっと、様子見って――」

「歌姫残り二人のことも、味方してくれてるルアディスの子も気になるからね。手合わせできたらしたいなって。あ、この子、カヤね。一年くらい前にうちに来たんだ」

 すると、カヤと呼ばれた男性が、うす、と会釈する。

「んじゃ、用意したら一緒に行こうか。ルアディスに」

 こうなったら、ティアナは話を聞かない。

 私は頷くと、ティアナの準備が終わるのを待つことにした。



 そして今。

 私はニナと二人、ルアディスの森の中、留守番をしている。

 ニナは今、ティアナとカヤと彼女の三人を連れてきた欠片を持っている。

 その音で居場所に気付かれる可能性があるということで、ニナは留守番、私はその護衛だ。

 リターナとヌドクは、ティアナをトレイたちがいるところへと案内をし、ティアナが目的を果たすまでその場で隠れて待機する予定だ。

 それが終われば、こちらへ戻ってくる。

「ニナは、その欠片をティアナに還したら、ここに留まるの?」

「そうするつもりですよ」

「そっか」

 今、どのくらいの人数がこっちに来ているのか、私は知らない。

 でも、ティアナや、リターナとヌドクから何も言われていないということは、順調に進んでいるということなのだろう。


 しばらくして、三人が戻ってきた。そこにカヤという男性はいない。

「カヤは?」

「ああ……。適当になんかやって相手刺激してから逃げようって言ってたんだけど、秘密をベラベラ話し出したから、置いてきた。たぶん、トレイ君が始末しておいてくれるんじゃないかな」

「……そう」

 よかったのか、悪かったのか。

 彼にとっては、運が悪かった。そういうことにしておこう。

「満足はしたの?」

「まあね。トレイ君はいいね。俺、気に入った。だけど、あの歌姫は、早めに殺しておいた方がいいんじゃないかな」

「……ホロのこと? どうして?」

「完全に俺の勘だけど。あの子がいると、たぶん計画は思い通りに動かなくなるぞ。早めに始末しておけ」

「駄目。もしものことがあったら――」

「いいか、シス。君は女神になるんだろう? 邪魔はできるだけ早めに殺しておいた方がいい。忘れたわけじゃないよな、君が女神になろうと思った理由を」

 う、と言葉に詰まる。

「……っ、忘れたわけじゃないわ。そうね、今どのくらいの力が私たちにあるのか知りたいわ。だから、一週間後。アルフォを襲撃して」

「……どのくらい、壊せばいい?」

「できるだけ」

「わかった」

 頷く。

 いいのだろうか。

 アルフォは基本的に罪のない人たちばかりだ。

 争いに向かない穏やかな気質を持った人たちばかりだと聞く。

 確かに、昇進だ、なんだとドロドロしている神官や、仕事柄どうしても争うことになる騎士には、アルフォ出身者はあの二人を除いていない。あの二人自体も、そこまで騎士に向いた性格をしているとは思えないけれど。

 その人たちの住む場所を、奪っていいのだろうか。


 心の中の声に、私は静かに首を振る。

 どうせ、ティアナ達の中の私は、ルアディスの民を全員殺す予定の私なのだ。

 なら、ホロから気をそらさせるためにも、アルフォを犠牲にするしかない。

「そういえば、ヌドク。面白い発見をしたんだって?」

 唐突にティアナがヌドクに話を振る。ヌドクが、ああ、と頷く。

「ちょっと試したいことがあって……ニナ、持ってる欠片、借りてもいいですか?」

「いいですよ……?」

 ニナがヌドクに欠片を渡す。

 するとヌドクは、胸元から小さな麻袋を取り出す。口を縛っている紐をほどいて中に入っているものを、リターナを手招きして、その手の上に広げた。

「光石?」

「はい」

 それは色とりどりの光を放つ光石だった。

 そこから、グレーと青と紫のものを一つずつ麻袋に入れ直す。

「この間読んだ本に、光石にはいろんな使い方があると載っていまして。色の組み合わせによって、光の色の他に、いろんな効果をもたらすものがあるみたいなんです。例えば、今三色の光石を入れたこの袋に、欠片を入れると……どうですか、女神様」

 私は目を丸く見開く。

「音が……消えた?」

 袋に入った瞬間、ずっとなっていた音が消えたのだ。

 驚いて顔を上げると、ヌドクが嬉しそうに笑う。どことなく年相応なその笑顔に、胸が痛くなる。

「これを巧く使うことがことができれば、他の歌姫にばれることなく、色々と動くことができるんじゃないかなと思います」

「すごいな、ヌドク。俺たちには聞こえないから、用心しようがないんだよね。だから、助かる」

「お役に立てて良かったです」

「すごい! ヌドク凄いよ!」

「リターナもありがとう」

 久しぶりに、二人の年相応の笑顔を見ることができて、嬉しいけれども、やっぱりどこかで胸が痛んだ。


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