再会は、事実と共に。
「あれ、ホロは?」
いつもの朝の歌が終わって、ひと段落ついた。ふと見回せば、いつの間にかホロの姿がない。
エラに問いかければ、苦笑される。
「さあ? たぶん、いつものところじゃないかしら」
エラの言葉に、ああ、と納得する。
ホロはたまに、ここから少し離れたところで歌を歌っている。
もちろん、一人で。誰も聞く人がいないと信じて。
実際は、私はたまに聴きに行っている。
あそこはホロにとって、唯一自由に歌えるところだから、私たちは、なにも知らないふりをしている。
聴いている人がいることに気づいてしまうと、きっとホロは歌うのを今度こそやめてしまうだろうから。
「聴きに行くの?」
「もちろん」
「……気づかれないようにね」
切なげに眉を寄せるエラに、私は静かに頷いた。
*
いつもの場所まで行けば、予想通りホロは歌っていた。
透き通った歌声は、太陽のように温かいのに、どこか影が差しているように力がない。
こんな歌声でホロが歌うようになった原因は、私だ。
あの頃の歌声をもう一度聴きたい。
そして、ホロを女神に――。
「女神様」
囁くような声に、私は振り向く。
「リターナ、ヌドク」
そこには猫目の双子がいた。
「八年ぶりですね」
言いながら、ヌドクが私の右手を握り締める。
「ずっとずっと会いたかったです」
左手をリターナが握り締める。
「久しぶり。私も会いたかった」
二人の手をギュッと握り返す。
「明日から、騎士としてずっとそばにいれます」
「リターナ、楽しみで楽しみであんまり眠れなかったんです」
「よく言うよ。僕の上にのし掛かって、起こしても起こしても起きなかったくせに」
「ヌドクー、それは言わないでよー」
むうっと頰を膨らませるリターナは、あの頃とは変わっていないように思える。
だけどそんなことはなくて。
二人とも背が伸びているし、筋肉がついたのか、がっしりとしている。
それに……自分のことを、名前で呼ぶ子だったっけ……?
「ところで、あの人は……?」
ヌドクがそっと視線をホロに投げる。
「あの子はホロ。……死の歌姫」
私の言葉に、ああ、とヌドクが頷く。
「歌、歌い方が変わりましたね。なんだか……薄い?」
リターナが眉をひそめる。
「……まあ、色々あったのよ」
「そうなんですね。……なんにせよ、弱っているのなら、それに越したことはないです」
そして、ヌドクと目を合わせる。二人は私のほうを向くとニッコリと微笑んだ。
「だって、女神様はあなたしかいないんですから」
「……ありがとう」
私は、微笑み返すことしかできなかった。
「女神様。実は、リターナのことで――」
「ヌドク、言わないでよ」
「駄目だよ。言わずにいて、なにか困ったことが起きたら、リターナだって嫌だろ?」
「そうだけど……」
むうっと唇を尖らせるリターナに、私は胸がざわつくのを必死に抑える。
「なに、どうしたの?」
「……リターナ、記憶があいまいになってきているんです」
「もしかして」
「……恐らく、青いあの武器のせいです」
ヌドク曰く、ルアディスの騎士に配られる赤い武器も、拒否反応が出たらしい。
それでも、あのときの方法を自分なりに真似して強引にその武器を自分の物にしたらしい。
結果、最近物忘れが多いな、という段階から一気に進み、今では赤い武器を与えられた八歳から、最近迎えた十四歳の誕生日まで、ほとんどの記憶が抜けている状態なのだとか。
だから、一人称もリターナ、だったのかと納得した。
名前を忘れないため、なんだろう。
そう問えば、実はアンディスの面々以外と話すときは、また別の一人称と別の呼び名で呼ぶようにしてるんですよ、と言う。自分がいまどちら側なのか、言い聞かせるためなのだと言う。
「実は、会うまでちゃんと女神様のこと、覚えていられるか不安だったんです」
「覚えてた?」
「はい! これで一安心です」
ニッコリと笑う彼女に、胸が痛くなる。
ホロを女神にするためには、きっとこの子に武器を握らせることが必要で。
この子はきっと、私がそれを欲すれば、私を女神にするために武器を振るうだろう。自分の記憶と引き換えに。
一人になりたくないと望んだこの子は、その手段として手に入れたはずの武器で、いつか唯一の肉親である双子のことも忘れてしまうのだろう。
一番いやなのは。
記憶を失うくらいなら、武器を捨ててアンディスに戻りなさい。
その言葉を吐こうとも思えない、自分だった。




