歌姫として、騎士として。
「シス」
ヌドクとリターナと追いかけっこをしていたら、名前を呼ばれた。
振り向けば、ティアナが手招きをしている。
「ティアナ!」
私は彼に駆け寄る。一緒に、ヌドクとリターナもあとを追ってくるのが足音でわかる。
「お、子分たちも一緒か」
からかうような口調に私は頬を膨らませる。
「子分じゃないよ、友達だよ!」
「そうか、そうか」
「あたしたちが子分ならシスはお姉ちゃん?」
「違うよ。僕たちが子分ならシスは親分ってやつだよ」
「そうなんだ! じゃあ、シスは親分で」
「僕たちは子分!」
キャッキャッと楽しそうに笑う二人。可愛いなあ、なんて思いつつも、やっぱり親分と呼ばれるのは嫌だった。
二人とは、対等な関係でいたかったから。
「もう、そのお話はおしまいにしよう! それで、ティアナ。もしかして私のこと探してた?」
「もちろん。シス、お誕生日おめでとう」
「えへへ。ありがとう、ティアナ!」
ニコッと微笑むティアナに、私も笑って返す。
「おめでとう、シス!」
「シス、おめでとう!」
「二人も、ありがとう」
よしよし、と両手で二人の頭を撫でれば、嬉しそうにキャッキャッと二人は笑う。
「ところでシス。大切な話があるんだけど、いいかな」
「大切な話……?」
二人からティアナへ視線を動かす。真剣な瞳に、胸がざわつく。
「うん。できれば、その二人にはどこかに行っておいてほしいんだけども……」
ティアナが私の後ろを見る。つられて私も周囲を見渡しつつ、後ろに視線をやる。
ティアナが来て安心したからなのか、さっきまで私たちを見守ってくれていた大人は、どこかに行ってしまっていた。
「無理だね」
「そうだね」
「どうしてー?」
「内緒のお話があるんなら、僕たち、大人を探してそこでおとなしくしてるよー?」
「ねー?」
「……大人の傍から離れちゃいけないって、何度も言ってるよね?」
私の言葉に、むう、と二人が頬を膨らませる。
そんな二人の様子に、ティアナが困ったように笑う。
「まあ、大人の大半は知っていることだし、君たちもいずれは知ることだから」
「いていいってこと?」
「てことだよね?」
「うん、そうだね」
「やったね、リターナ!」
「やったよ、ヌドク!」
パン、と軽やかな音を立てて二人がハイタッチをする。
「懐かれてるね」
「……そう、ですかね?」
嬉しいけれど、少し恥ずかしくて、思わず疑問形になってしまう。
「で、ティアナ。話ってなにー?」
「なにー?」
「……回りくどいのは、あんまり得意じゃないし、時間もないから、単刀直入に言うけれど。シス。君は……歌姫なんだ」
「え……?」
歌姫。
歌で、ルアディスの人たちを生かす人。
お母さんや、ティアナ、ここにいる皆を嫌っている人たちを、傷つけている人たちを、生かす人。
「……冗談だよね」
「残念ながら、冗談じゃない。シス。君の額には、歌姫の印があるんだ」
ティアナの言葉に、思わず私は額を押さえる。
そこには確かに、なにか不思議な模様のような痣みたいなものがあって。
お母さんに訊いても、生まれつきあるものだとしか教えてくれなくて。
ずっとずっと、これがなんなのか、疑問だった。
でもまさかそれが、歌姫の印だなんて、思ってもみなかった。
「本当は、君が生まれたとき、その印を見た人のほとんどが、このまま殺してしまった方がいい、と言ったんだ」
鈍器で頭を殴られた気がした。ショックだった。
いつも微笑みかけてくれていた人が、そんなことを言っていたなんて、知りたくなかった。
「だけどね、これはチャンスだと思ったんだ」
「チャンス……?」
私の言葉に、ティアナが頷く。
「そう、チャンス。ルアディスに一矢報いるための、チャンス。ルアディスの民は、歌姫の歌のおかげで生きている。それなら、その歌を利用すれば……」
「ルアディスの民に、復讐することができる……?」
「その通り。君は俺たちにとって、希望の光だ」
「どうして、今それを言うの……?」
「歌姫は本来、五歳になったら迎えが来るんだ。だけど君の場合は生まれてくる前にアンディスに来てしまった。だから、迎えは来ない」
「なら、来年教えてくれれば――」
「時間がないんだよ、シス。アンディスにいる皆が、元の世界に、ルアディスに残してきた人たちにもう一度会うためには、そして、自分たちを傷つけた人々に復讐するためには、君はきっと、武力で対抗しなくてはいけないこともあると思う。君に死なれるわけにはいかないんだ。だから、君に特別な武器をあげようと思う」
「特別な武器……」
「だけどそれは、ちゃんと特訓をして、体を鍛えて、試練を乗り越えて、それでも手にすることができないかもしれない武器なんだ。でも、それをなんとしてでも手に入れてもらわないと困る。君には、他の歌姫と違って、自分の力で自分の身を守らないといけない場面に遭遇することが多くなるだろうから」
「……ティアナは騎士だったんでしょ? なら、一緒に行けば――」
「シス。俺は一度罪人としてここに連れてこられたんだよ。一緒に行けば、君もアンディスの出だとすぐにばれてしまう」
「……」
つまり、ティアナはもう二度とルアディスに行くつもりはないんだろうか。
私と一緒にはいてくれないんだろうか。
思わずうつむいてしまう私の頭に、ティアナの大きな手がのっかる。その手は、優しく撫でてくれる。
「大丈夫。自分の身さえ自分で守ることができればいいだけだから。君に死んでほしくないから、俺はできる限りのことを君に教える。それに、ルアディスにも君のことを知ってる人がいる」
「……え?」
意味がわからず、顔を上げる。
「女神とその姉、そして騎士や騎士の見習いの面倒を見ているタウファ。その三人は、君のことを知っている」
「どうして……?」
するとティアナは苦笑いを浮かべる。
「歌姫は、女神の口づけを受けた者から生まれるんだ。だから、女神とその姉は君のことを知っている。君のお母さんと同じ国にいたタウファは、歌姫がちゃんを無事に生まれるかどうかを見張る役割を与えられていたからね。もちろん君がここにいることも知っている」
「私をアンディスで育った歌姫だと知っている、ということなんだよね。その人たちのせいでなにかわるいことになったりは……」
「ないと思うよ。秘密裏に君を殺したとしても、ばれてめんどうなことになるのはわかっているだろうし、とりあえずは理性で生きている人だから」
「信じられないよ。だって皆に嘘の罪を被らせて、ここに連れてきたんだよ? ティアナだって、そうじゃない」
「ああ、まあ、うん。そうなんだけども」
「信用できないよ……」
「じゃあさ、俺のこと信じて」
「ティアナのこと?」
聞き返せば、ティアナが大きく頷く。
「そ、俺のこと。君になにがあってもなんとかなるようにするし。それに、もしも嫌になったらこっちに帰ってくればいい。誰にも気づかれないように隠してあげる」
「そんなことができるの……? 皆嘘が嫌いなのに……?」
自分たちが裏切られたから、嘘を吐かれるのが皆嫌なのだ。
「そうだね。俺もできることなら嘘は吐きたくない」
「……」
「シス」
「私は、本当の本当に、歌姫なんだよね?」
「うん」
「歌姫じゃなくなるっていうのは、できないの?」
「歌姫は、生まれる前から歌姫だと決まっているから。逃げることはできないよ」
「……」
「どうする?」
私はチラリと双子を見る。アンディスは暗闇だ。だけどルアディスは明るいと聞く。
アンディスを淡く照らす光石よりももっと明るい太陽があって、光石とよく似た色で光る月があると。
実は一度だけ、その光の下を歩いてみたいと思っていた。
それは、どんな感じなんだろうと。
眩しいんだろうか。目は開くんだろうか。暖かいんだろうか、それとも寒い?
その世界に、一緒に二人もいてくれたら。
お母さんやティアナ、家族……この世界にいる人たちを行けたら。
それなら、歌姫になってもいいかもしれない。
誰も、裏切られた、なんて傷つかない世界になるのなら。
家族を、お母さんを、ティアナを裏切った人たちがいなくなってくれるのなら。
そんな世界を作れるのなら、きっと、きっと。
「私、やってみる」
その一言に、ティアナは大きく頷いた。
*
やってみる、なんて言ったけれど、実際はそんな簡単なことじゃなかった。
まずはじめに、ティアナは私のことを、皆に言った。
彼女は歌姫だ、と。
ルアディスへの復讐のためだ、と。
本音を言えば、皆のルアディスへの気持ちなんて、やってみる、と言ったときはそんなにわかっていなかった。
私の周りにいた大人たちは、子供にそんなところは見せられないから、とある程度布で自分の憎しみを覆っていたのだ。
子供として、ではなく、自分たちの憎しみを晴らしてくれる歌姫として、彼らがこぼしていく言葉はどれも醜くて真っ黒で、そしてすごく苦いものだった。
苦しくて、こんなもの知りたくなかったと泣き喚いてももう遅くて。
気持ち悪かった。
今まで見てきた人たちが、見慣れた笑顔が、お面のようにしか見えなくなって。
それでも、泣けばお母さんはいつも抱きしめてくれた。
苦しそうにしていれば、ティアナが慰めてくれた。
「シス、大丈夫?」
「元気?」
だけど、いつも自分を頼ってくれるリターナとヌドクにだけは、情けない姿を見せたくなくて。
「大丈夫、元気だよ」
必死で笑顔を貼り付けていた。
「それよりも。遊ぶときはちゃんと、大人の目の届くところで遊んでる?」
「大丈夫!」
「シスがいれば、安心!」
「安全!」
「ねー!」
「ねー!」
双子が笑顔で頷き合う。
それのどこが大丈夫なのか。
思いっきり誤魔化そうとしているのがわかる。
「こら。私はそばにいられないんだから、絶対大人のそばから離れないでよ」
「でも今まで危ないことにあったことはないもん」
「それにシスと一番仲がいいのは僕らだもん。手を出す人なんていないでしょ!」
「そうやって油断してるときが、一番危険なんだぞ、二人とも。絶対に大人のそばから離れるなよ」
腰に手を当てて、ティアナが注意するけれども、二人は笑いながら、はーい、なんて軽い調子で返事をする。
本当に、大丈夫なのかな。少し、というか、だいぶ不安だ。
その後は、ニナが、邪魔になるといけないから、と二人を連れていってくれた。
*
私を待っていたのは、精神的な苦しさだけではなくて。
自分の身を守るために、ひたすら護身術と、命を奪う方法をティアナに身体に叩き込まれて、そして歌姫として知っておくべき教養と、歌を頭に叩き込まれた。
いっぱいいっぱいだった。
もう辞めたい。
私なんか、歌姫に向いていない。
そう思っていた矢先だった。
最悪の事態が起こったのは。
*
「歌姫さま、リターナとヌドクを見ていませんか?」
そろそろ夕飯だから、と特訓を切り上げたときだった。
「見てないです」
フルフルと首を横に振れば、二人を探しているニナが、困ったように眉を寄せる。
それは、今にも泣きだしそうな表情だ。
「二人だけ、いないのか? 他の大人は?」
落ち着いた声でティアナが問いかける。
ニナは、真っ青な顔を横に振る。
「二人が遊んでいるのを見ているうちに寝てしまっていて……。起きたら二人ともいなかったんです。……二人にもしものことがあったら……」
血の気が一気に下がるのがわかる。
つまり、二人は子供だけでどこかに行ってしまったのだ。
「ティアナ……!」
どうしよう。
思わず隣にいるティアナの袖を引っ張ると、ティアナはポン、と私の頭を撫でる。
「ニナ。まずは最後に二人を見た場所に案内してくれるかい?」
「はい……」
か細い声で返事をすると、ニナは回れ右をして歩き出した。
*
「ここです……」
そこは、二人とよく遊ぶときに来ていた場所だった。
私たちの前には樹々が生い茂った上り坂があり、その坂が終わって平らになっているのがここだ。
ふ、と音が鳴っていることに気づく。
それと一緒に、なにか、人の声のようなものも聞こえる。
「シス、なにか気付くことはある?」
「音が聞こえる……」
関係のあることかはわからないけれど、他に気が付いたことはなかったので、それを言う。
「……十点満点中七点。追跡の方法、ちゃんと復習な。どっちの方向から?」
はい、と返事をしてから、私は耳を澄ませる。
この方向は。
「……あっちです」
「わかった。ニナ、先に帰ってろ。気をつけてな」
「で、でも――」
「いいから」
「……二人を、お願いします」
ニナは深く頭を下げると、何度かこちらを振り返りつつも来た道を戻っていく。
「シス、行くぞ」
「はい」
私は頷くと、ティアナと一緒に、坂道を上り始める。
ティアナは足元を見ている。
私もつられて下を見て気付いた。
小さな足跡が二人分、ついていたのだ。
そうだ。ここではよく、三人で足跡をつけて遊んでた。
だから三点減点されたのか。
よく見れば、木の幹に横にまっすぐ引かれた傷があるものが一定間隔に並んでいる。
「石、だろうな」
私がその傷を見ていると、ティアナが教えてくれる。
恐らく、なにで付けた傷なのか、教えてくれたのだ。
「どうして――」
「嫌だったら嫌だ!」
「これはプレゼントなの! おじさんなんかにあげないの!」
二人の声に、思わず声を上げかけて、口に手を当てられる。
見上げれば、ティアナが手振りで静かに、と言われる。頷けば、ティアナは腰を低くして、クイクイ、と手を引っ張られる。ついてこい、ということらしい。
足音に気を付けつつ、ティアナと同じような姿勢で、彼にくっつくようにして足を進める。それにつられるようにして音も大きくなっていく。
数歩歩くと、ティアナが足を止めた。私も足を止める。
ティアナ越しに、二人の姿が見える。その向こうには、知らない大人が一人。
「なんだよ。君ら、たくさん持ってるじゃないの」
「三つだけだもん!」
「あたしとヌドクとシスの分! おじさんの分はないの!」
「ああん? 一個くらいくれてもいいだろーがよぉっ!」
「――っ!」
「ぐっ」
「リターナ!」
男が太い左腕でリターナの胸倉を掴む。右手に拳が握られているのを見て、私は思わず駆け出した。
右手には、特訓のときに使っていたナイフを持って。
そして後ろへ回って。
「はなせぇぇぇえええっ!!」
「な――」
地面を蹴る。
手を伸ばす。
確かな感触。
男の首に、深々とナイフが刺さる。
吹き出た血が、顔にかかる。驚いて手を放してしまう。
横を影が駆け抜けた。
瞬間、赤色の光が見えたと思ったら、男の首が飛んだ。
流れるような動作で、その赤い光を放ったなにかを服の中に仕舞ったティアナが、しゃがんで私たちを見る。
「怪我はないかな、三人とも」
*
あのあと、二人は家族中の大人からこってりしぼられた。
だけど夕飯のあと、笑顔で私とティアナのもとへ駆け寄ってきた。
「あのね、これをね、シスにあげたかったの!」
「とっても綺麗でしょ?」
笑顔のヌドクが、そっと両手を開くと、そこには紫色のなにかの欠片が三つ、並んでいる。
その結晶からは、あのとき聞いたのと同じ音が聞こえる。
「……どこで見つけたの」
鋭い声に驚いて、私たちは顔を上げる。
ティアナが、怖い顔をしている。
「遊んでたら、あの場所で……」
「たまたま、だよ? なんでそんな顔するの?」
二人が首を傾げる。
ティアナは小さくため息を吐くと、しゃがみこんで私たちと目の高さを合わせてくれる。
「その石のこと、他の大人には言った?」
二人はフルフルと首を横に振る。
「言ってない」
「あのおじさんみたいなことになったら嫌だから」
「怖いから」
「言ったほうがよかったの?」
「言わなくてよかったの?」
すると、ティアナの表情が少しだけ柔らかくなる。周囲を見回したあとに、ティアナは口を開いた。
「言わなくてよかったよ。これからも、誰にも言ってはいけない。ばれちゃいけないよ」
「ティアナ、この石はなんなの?」
見たところ、見た目が綺麗なことと、音が聞こえることを除けばただの石だ。
「それはね、アンディス・ウィションと言って、この世界を支える石なんだ」
「え」
「何年も前に、ルアディスで女神と歌姫の歌によって割られた石の欠片。それがあれば、ルアディスに行くことができる」
なるほど。
「だからあの人は、どうしてもその石が欲しかったんだ」
帰りたかったのは、復讐のためなのか、それとも好奇心か、会いたい誰かがルアディスにいるのか。
それを知る術は、もうないけれど。
「そうだね。その石は、いろんなところに飛び散っていて、数個、ルアディスで見つかっているんだ。だから、ルアディスで罪を犯したとされる人をアンディスへ送る人が、ちゃんとルアディスに帰れるようになっている。……とは言っても、例外がいるんだけどね」
「例外?」
「うん。女神と歌姫だけは、その欠片がなくてもルアディスとアンディスを行き来することができるんだ。あとは、移動するときに女神と歌姫と手が触れているもの、ね」
「どうして?」
「色んな説があるけれど……一番有力なのは、その石、ウィションの塊のような身体をしているからじゃないか、ということになっているね」
「塊?」
「じゃあシスの中にもこんな石がいっぱい入ってるの?」
「ゴロゴロしてるの?」
「固そう」
双子の言葉にティアナが吹き出す。
「大丈夫、そのままが入ってるわけじゃないよ。同じような成分が流れているんじゃないかっていうお話ね」
「ふーん」
「わかるの? ヌドク」
「なんとなくねー」
「本当?」
「嘘」
「むぅ……」
頬を膨らめるリターナと、ペロッと舌を出すヌドク。
いつも通りの光景に、本当に二人が無事でよかったと、ホッと息を吐く。
そして、ふ、と閃く。
「ティアナ。それがあれば、この世界の人々をルアディスに連れていくことができる、ということだよね?」
「そうだけど……シス、なにをしたいの?」
「……この石、ティアナに預けるね」
「え」
「確か、ルアディスにも歌姫と女神に憎しみを抱いている人もいるんだよね?」
「ああ、アーニストのことかな」
私は頷く。
「この世界の人たちを何人かずつルアディスに連れていくの。そしてルアディスでは、アーニストに扮していて……そうだ。アンディス・ウィションの欠片なんだよね、それ」
「うん」
「欠片って、元通りにできないの?」
「……歌姫の命と引き換えに、元に戻すことができる」
「元に戻ったら、なにかいいことはあるの?」
「欠片を持っていなくても、ルアディスとアンディス、両方を行き来できるようになる」
「歌姫って確か複数いるんだよね? そのうちの誰かの命を引き換えにして、アンディス・ウィションを元に戻す。そして、一気にルアディスに復讐してしまいましょう」
「欠片のうちに何人かを連れていくのはどうして?」
「味方は多いほうが動きやすい。それに、もしもなにか問題が起きて、アンディス・ウィションを元に戻せなくなったとき、その問題が発生してからルアディスに行くよりも、より早い期間で皆をルアディスに連れていくことができるかな、と思ったの」
「……どうして皆をルアディスに送ろうと思ったの?」
「……皆の話を聞いていると、ルアディスに行ったほうが早いと思ったの」
離れ離れになった家族に会いたい人。
自分を犯人に仕立てあげた人に復讐をしたい人。
誰かに謝りたい人。
色んな言葉を聞いて、きっと、それが一番早いと思ったから。
「……まあ、君のやりたいようにやればいいよ」
「……わかった」
なにか言いたげな表情に、少し戸惑ったけども、そう言ってもらえたのなら、たぶん、そこまでひどい案ではなかったらしい。
「ねえねえ、ティアナ」
「ん?」
服の裾を引っ張るヌドクに、ティアナが振り向く。
「僕、騎士になりたい」
「ず、ずるい!! あたしも! あたしもシスの騎士になりたい!」
「え」
「だって、歌姫さん。どうする?」
騎士になる。
つまりは、二人ともルアディスに来るということで。
それは、もしかしたら二人が危険な目に遭うかもしれないわけで。
「だ、ダメだよ! 絶対ダメ!! 私だけだと守れないかもしれないから」
「違うの! 僕らがシスを守るの!」
「そう! あたしたちが守るんだよ!」
「でも――」
「よし、じゃあ、こうしよう。二人にも、シスと同じような特訓を受けてもらう。そして、シスの七歳の誕生日に、三人とも、俺と戦ってもらう。そこで俺が大丈夫だと思えば、よしとしよう」
「ちょっと待って、私も?」
「元々シスの七歳の誕生日に、試験をやろうかな、と思ってたから、まあ、一人増えても二人増えてもいいかな、と」
「え、ええー……」
ちょっと軽い気がする。
「さ、そうと決まれば、特訓をするぞ!」
パンパンと手を叩くティアナに、私たちは、はい、と返事をした。




