告白、あるいはその手前。
あの日以来。
トレイさん以外の番人を見なくなった。
トレイさん曰く、巧く交渉して、自分一人だけにしてもらったとかなんとか。
私は今、トレイさんの髪をいじっている。
理由は簡単で、暇だからだ。
「トレイって、髪の毛、白いよね」
「あら? 今更?」
「うん、まあ……いうタイミングがなかったっていうか、あんまり突っ込んでいいことではないかな、と思っていたというか」
「確かシスちゃんも同じだよね」
その言葉に、髪をいじる手を止める。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも……有名だったよ。白髪の歌姫がいるって」
「そうなんだ……」
「エラちゃんはさ、シスちゃんの髪の色を初めて見たとき、どう思ったの?」
「綺麗だな、と……。目の色と、あと、なんだか儚い雰囲気とすごく似合っていて。……トレイは、その髪の色で、なにか酷い目にあうことはなかったの?」
するとトレイは、どこか困ったような笑みを浮かべる。
「うーん……完全になかったとは言えないけど。タウファさんが親になってからはまあ、そっちの話で色々言われることはなくなったかな」
そっちの話。
じゃあ、そっちじゃない話はいったいなんだ、なんて訊かなくても察した。
実の両親のこと、なんだろう。
母を殺そうとした父と、父を殺してしまった母。その二人の間に生まれた子なのだから、きっと陰口を言われていたかもしれない。もしかしたら、それ以上にひどいことも。
どこか本心を言うことを避けているようなところがあるのは、それがきっかけなのだろうか。
それとも、また別の理由がある?
「トレイも、綺麗な髪してる」
「どーも」
まっすぐにトレイさんを見て言えば、トレイさんは、スッと顔をそらす。
なにかおかしいこと言ったかな、と思ってよく見れば、少しだけ耳が赤い。
「照れてる?」
「そういうことは、本人に言うことじゃないと思う」
「そうなの?」
「そうなの」
なんだか、すねたような口調に、可愛いな、なんて思ってしまう自分がいる。
いやだって、なんか、うん。
今までこんな姿は見てこなかったわけだから。
飄々として見えるトレイさんでも、照れることがあるんだな、なんて新発見。
もしかしたら本当は、こういう人なのかもしれない。
だけど、年長だったから、意地ではないけれど、どこかでそんなところを出さないように意識していた部分があるのかもしれない。
「可愛い」
「いやいや、待って、エラちゃん。男に可愛いはどうかと思うよ」
「だってトレイの反応が可愛いからしょうがない」
「そういう人だったっけ?」
「さあ。ここ最近、なんだかすごく心が楽なの」
「そう、それはよかった」
ようやくこっちを見たトレイさんが、小さく笑う。
そして、トレイさんの髪をいじっている私の手に、自分の手を重ねる。
私は察して、トレイさんの髪から手を放す。
するりと私たちは手を握る。
柵越しにコツン、と頭を当てる。
「どうしたの」
「俺今、弱ってるから」
どこか唐突な言葉。
「なにに?」
「……自分がするべきことと、自分のしたいことが、逆方向になってるから、悩んでて。少し、疲れてる」
「そっか……」
手はやっぱり、ほどこうと思えばすぐにほどける強さで。
だけど、今は握り返していいのかわからなくて。
「俺さ」
少しの間。
ポツリと、トレイさんが呟く。
「ん?」
「……困らせること、言ってもいい?」
「うん」
「……エラのこと……」
考えるような間。
そして、小さくため息が聞こえた。
「ううん、やっぱり、なにも聞かなかったことにして」
「……わかった」
「……エラちゃん顔赤い」
「……うるさい」
私は右足を立てて、その上に右手を置いて、顔をうずめる。
だって、突然エラ、なんて呼んでくるんだもの。
だって、少し期待したんだもの。
「ごめんね、変なこと言って」
「……私はなにも聞いてないから」
「……ありがとう、そうしてくれると助かる、かな」
胸が苦しい。
なんでなんだろう。
トレイさんの言葉に、すごく、嫌な予感を感じていた。




