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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
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その代償は。

 あのあとすぐに女神様の騎士がやってきて、騒ぎを鎮めてくれた。

 そしてそのまま、私たちは女神様のもとへ。


「女神様、申し訳ございません」

 開口一番謝る私を見ると、女神様はため息を一つ吐いた。隣で女神様のお姉様が、苦笑いを浮かべている。

「まあまあ、この子だってわざとではないのだし……」

「わざとでルアディス・ウィションを壊されてたまるものですかっ!」

「え……」

 女神様の言葉に、私は目を見開く。

「どういうことですか……?」

 震える声で、エラが問うのが聞こえる。

「ルアディス・ウィションが壊れたって……」

 眉間にしわを寄せて手押しの椅子のひじ掛けに、女神様は頬杖を突く。

「そのままの意味ですよ。ホロの歌で、ルアディス・ウィションが割れました。欠片が飛んでいくのを見たでしょう?」

 その言葉に、思わず自分の頬に触れる。

「橙色に光るなにかが飛んでいくのを、見ました」

 呟くと、シスが俯き、エラは思いっきり顔をしかめる。

「あれが、その欠片だったのですか?」

「エラ。あなたのことは聡い子だと思っていたのですけれど? 信じたくなかった、のかしら?」

 苛立った様子の女神様に、エラまで俯いてしまう。

「……すみません、そうですよね。塔から砕け散っていくところを、見ました。……ルアディス・ウィションの欠片以外、ありえない、ですね……」

「……どうして、ホロの歌で壊れたんですか……?」

 さっきまで黙っていたシスが、ポツリと呟くようにシスが言う。その手は握りしめられていて、ブルブルと震えている。

「やっと、ホロ、人前で歌えたのに……どうしてこんなことになっちゃうんですかっ!」

「シスッ!」

 エラの声が響く。シスの肩がビクッと震えるのが見える。

「女神様の前だよ」

「……すみませんでした」

 でも、とシスは顔を上げる。紫水晶の瞳が光る。

「私のせいでホロは歌えなくなっていたんです。やっとホロの歌を聞くことができて嬉しかったんです。それなのに、こんなことになって……どうしてなのか、理由を教えていただきたいです」

 女神様は静かにシスの言葉を受け止めると、ツッと私に視線を向ける。その瞳からは、なにを考えているのか、伺えない。

「ホロ」

 水のようにしなやかで透き通った声。自然と背筋が伸びる声。

「……はい」

「あなたは、どんな想いを込めて歌ったの?」

 まっすぐに問われれば、嘘なんて吐けるはずがない。一番憧れている人から言われたのなら、なおさら。

「……最初は、なにも込めていませんでした。込められませんでした。……でも、自分の歌声が聞こえて、その歌声がすごく……」

 チラリと二人を見る。

 恐らくは、久しぶりに私が歌えたことを、一瞬でも嬉しく思ってくれたであろう二人には、とても言いづらいこと。

 でも。

「……続けなさい」

 言わないと。

「すごく、不快で。私の歌じゃないみたいで。……こんな歌、歌いたくないって、思ったんです。そしたらこんなことになって……」

 女神様の瞳が見る見るうちに冷えていく。

「あなたは、歌姫なのに歌を否定したのね。自分の歌を」

「……はい」

「……ルアディス・ウィションが割れたのは、あなたの歌が原因の一つでもあるのよ、ホロ。歌姫が歌を否定するなんて、あってはならないことなのだから。……もともと、あなたは自分が力を巧く扱いきれていないのは自覚しているでしょうに」

 世界を支えていると言っても過言ではない歌を、歌姫自身が否定するのは、遠まわしに世界を否定していることになる。

 そんな想いを込めてしまえば、よくないことが起こるに決まっている。

 そして私の歌の力は、強い。自分では操りきれないほど。そんな力を持っていて、なおかつ、歌を否定してしまえば、どんなことが起きるかなんて、想像に容易い。

 ルアディス・ウィションが割れてしまうのは、当然だった。

 ギュッと服の裾を掴んでしまう。

 どうすればいいのだろう。

 これじゃあ、あのときと同じことが……それ以上のことが起きてしまう。

 たくさんの人が、死んでしまう。

 震えが止まらない。

 どうして私が歌姫なんだろう。

 私の歌は、人を不幸にしかしない。

 もう嫌だ。

 どうしたら、どうしたら――。

「ちょっと待ってください。原因の一つ、ということは、他にも原因はある、ということですか?」

 エラがよく透る声で問う。女神様は、女神様のお姉様と顔を見合わせて一つ頷くと、私たちのほうを向く。

「……ありますよ。でも、今回の件はホロの力の影響が大きい。このままだと、ルアディスはなくなってしまう。世界は、壊れてしまう。だからホロ」

 女神様は、女神様のお姉様に椅子を押されて、私の前まで来る。そしてそっと頬に触れる。

 言葉も声も、瞳も。すべて冷たいのに、その手は柔らかくて優しくて、温かい。

 その温度に、少しだけ安心してしまう。

「あなたは、どうやってこの責任を取るか、考えていますか?」

 私の歌で、結局世界を壊しかけている。

 私の、せいで。

「……ルアディス・ウィションを、元に戻す方法は、ありますか……?」

 もしもなかったら。

 そんな不安が、私の声を震えさせる。

 じっと私を見つめる女神様。

 段々と積もっていく不安に目を伏せかけたとき、ふんわりと女神様が微笑んだ。

「ありますよ」

 その一言にホッとし過ぎて、身体中の力が抜ける。崩れ落ちかけた私を、エラとシスが支えてくれた。

「全ての欠片を見つけてください。それをくっつけることができれば、元通りになります」

「よか――」

「ただし」

 喜びかけた私たちを、女神様が低い声で制する。その目は、厳しくて、そして、どこか悲しげで。

 胸がザワリと騒ぎ出す。



「代償として、誰か一人の命が必要になります」

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