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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
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気になる音

「……意識は、一度でも戻ったのですか?」

 トナイ村に戻ってすぐにタウファさんのもとへ向かった。

 ヴィルさんからざっくりと事情を聞いたタウファさんは、ベッドに横に寝かせたトレイさんを見るなり、開口一番にそう言った。

「朝、一度目を覚ましました。今後の予定について少し話して、すぐに寝てしまいましたが」

「そうですか……」

 タウファさんの表情が少しだけ和らぐ。

「とりあえず、もう少し安静にさせていないといけませんからな。トレイが動けるようになるのを待ちますか? それとも、先にどこか行きますか?」

 その問いかけに、私たちは顔を見合わせる。

「僕は、置いていった方がいいと思います。いつまたアーニストに襲われるかもわかりませんし、またあの高熱が再発するかもしれません。もしかしたら、それよりももっとひどいことになるかもしれない。時間は、あまりないかもしれないんです。あなたたち歌姫は、一度ウォルテに戻りたいのでしょう? 本音を言えば、戻っている暇があるのなら今すぐにでもルアディス・ウィションを直すべきだと思いますが、ウォルテに戻るのなら、早めに戻ったほうが、世界のためになると思いますよ」

 ヌドクさんの言葉に、ヴィルさんも頷く。

「そうだな。一番の目的である欠片が恐らく集まったんだし、早く出発するべきだと思う」

「リターニャは、なんかトレーだけ仲間はずれにするみたいでヤダなー」

 リターナさんは、唇を尖らせて床を小さく蹴る。

「……私も、置いていきたくないですね。ここまで一緒に来ましたし、なにより、今戦える人数が減ることが、怖いです」

 エラの言葉に、シスも頷く。

「確かに、怖いかも……。でも、早くいかないと、ウォルテに戻るよりも前に、ルアディス・ウィションを直さないといけないことになるかもよ?」

 シスの言葉に、エラは、唸りつつも頷く。

「そうよね……ホロはどう思う?」

「私は……欠片が全部そろっているのか、まだ確定していないわけだから、ヌドクさんにまたこの間みたいに組み立ててもらって、その結果次第で決めたらどうかなって思ってる。そろっていなかったら、色んな所を探し回ることになるから、トレイさんが動けるようになるまで待つほうがいいと思う。でも、そろっているのなら、すぐに出発するべきだと思う。時間は、限られているから。それに」

 ヴィルさんを見ると、目が合う。私は静かに笑う。

「私は、騎士の三人を信じるから」

 私の言葉に、ヴィルさんが驚いたように一瞬目を丸くする。そしてすぐに、しっかりと頷いてくれる。

「……トレイがいないからって、守りは絶対に弱めないからな。ちゃんと俺たち騎士は、歌姫三人を守り切るよ」



 ヌドクさんがルアディス・ウィションの欠片を組み立てている間。

 暇なので、私たち三人は、さっきまでいた騎士学校からほんの少し歩いたところにある空き地にいた。

「なんだか、三人だけで一緒にいるのって、懐かしいね」

 他愛のない会話をしていると、ポツリと零してしまう。

 すると、二人が苦笑を浮かべる。

「確かに」

「誰か騎士の人が一緒なことが多かったしね。……ホロ、だいぶヴィルさんと打ち解けたようで安心したわ」

「……どういうこと?」

 首を傾げると、二人は顔を見合わせて笑う。

「最初はどうなることかと思ってたんだよ? ホロのことボロクソに言って。……こっそり始末しようと何度思ったことか」

「シス。漏れてる漏れてる」

 フッと笑うシスに、エラが突っ込みを入れる。

「まあでも、一番にホロを助けようとしてるのは見ててすぐわかるから。最初の印象は最悪だったけれど、今は彼がホロの騎士でよかったと、私は思ってるわよ?」

「えっと……ありがとう?」

 反応に困って首を傾げつつ言うと、二人が笑う。

 明るい笑顔。つられて私も笑う。

 すごく、安心する。

 あと数日で、この中の誰か一人がいなくなる。世界と引き換えに。私の、せいで。

 

 そのときだった。

 静かで、そしてどこか冷たさを感じる音が、耳に入る。

 その音は、静かに近づいてきていて……。

「この音、なに……?」

 どこか不安になる音に、私たちは手を握り合う。

「私この音、何度か、聞いたことある」

 シスの言葉に、私たちは顔を見合わせて、私も、と頷く。

「この音がするときって、アーニストがくるよね……」

 そうだ。

 今ここで襲われたら。

 騎士学校の近くとはいえ、すぐに騎士が助けてくれるとは限らない。

 殺されるのか、誘拐されるのか。

 わからないけれど、ただでは済まされない。

「騎士を呼びに――」

「どうした、怖い顔して――」

「きゃあああっ!!」

「なっ!?」

 後ろから聞こえた声に、私たちは悲鳴を上げる。私はその場で凍り付き、エラが私たちを背中に隠そうとして固まり、そしてシスは声の主に殴りかかる。

「いてっ! おいこら! おちつ、いてえっ!」

 あれ、この声、知ってる。

「ちょっとシス、やめなさい! アーニストじゃないから落ち着きなさい!」

 エラが止める声。ゆっくりと振り向けば、エラに羽交い絞めにされているシスと、シスに殴られたのであろう肩を擦るヴィルさんがいた。

「……歌姫って暴力的なんだな」

 ポツリと呟くヴィルさんに、落ち着いたシスを解放しつつ、エラが謝る。

「ごめんなさい。アーニストが時々鳴らしている音が聞こえていたときに、たまたま声をかけられたので――」

「アーニスト? 傍にいるのか?」

 その言葉に、ハッと私たちは気付く。

「音が……遠のいていく」

 明らかに走って逃げていくような速度で遠のいていくあの音に、私たちはホッと胸を撫で下ろす。

「おい、どういうことだ」

 ヴィルさんの眉間にしわが寄る。

「音、聞こえなかったんですか……?」

 私の問いかけに、ヴィルさんは頷く。

「ああ、聞こえなかったな。……なにか聞こえていたのか?」

「……どういうこと?」

 私たちは、首を傾げる。

「今までアーニストが傍に来たとき、なにも聞こえなかったんですか?」

「つまり、アーニストと遭遇するとき、お前らはいつもなにか音が聞こえていたのか?」

「いつも、ではないですけど……。音が聞こえれば、アーニストがいる、かんじです」

 私の言葉に、ヴィルさんはやっぱり首を横に振る。

「聞いたことないな」

「……歌姫にしか聞こえていない音ってこと……?」

「もしかして、さ」

 ルアディス・ウィションがはまっていた塔を思い出す。

「ルアディス・ウィションの隣に、くぼみがあったの、覚えてるかな……?」

 二人が、ハッとする。

「もしかして、ルアディス・ウィション以外にも、ウィションがあるってこと……?」

 エラの言葉に、私は頷く。

「アンディスにも、ウィションがあったのかもしれない」

「だとすれば、アーニストはアンディスのウィションを持っているということ? なんのために?」

「わからないけど……」

「たぶん、そういう話は、今この村だとタウファが詳しいと思う」

 うーんと唸り始めた私たちに、ヴィルさんがそう、教えてくれる。

「ちょうど、欠片の組み立てが終わったってことを伝えに来たんだ。もう一度みんなで集まってタウファに話を聞こう」



 トレイさんが寝ている部屋へ行けば、ヌドクさんとリターナさん、そしてタウファさんがいた。

 事情を説明すれば、タウファさんは驚いた顔をする。

「あなたがたは、なにも聞いていないのですか?」

「どういうことですか?」

 その反応に眉を顰めつつ、エラが問う。すると、考えるようにタウファさんは顎を擦る。

「……私がお話をしてもいいのですが、この内容は、一部の限られた人間以外の耳に入ってはいけないもののため……。できれば、神殿で女神様からお聞きするのがよろしいかと」

「そんな話があるんですか?」

 単純に、そんなものがあるとは思わず、私は驚く。すると、タウファさんが苦笑する。

「まあ……長い歴史を持つ世界、というのは、時として後ろめたい道を進んだこともあるのですよ」

「後ろめたい道……」

 なんだろう。私たちが首を傾げていると、パンパンと音がする。見れば、ヌドクさんが手を叩いた音だった。私たち全員の意識がヌドクさんに向いたことがわかると、ヌドクさんは小さく咳払いをする。

「ルアディス・ウィション、欠片は全部集まっています。その謎も早く解決したいですし、早速支度をしてウォルテへ出発しましょう」

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