私の歌は、どんな歌?
見渡す限りの人、人、人。
ざわめきは、私たちが前に立った瞬間、一気にしん、と静かになる。
視線が刺さる。
その視線のどこかに怯えを感じて俯きかけた自分を、なんとか抑える。
耳を震わせる、ルアディス・ウィションの旋律。
一緒に感じる、二人の呼吸の音。
同じように私も吸おうとして……なにかがやっぱり喉につっかえて、声を出すことを拒絶する。
下唇をグッと噛んで俯きかけて……人混みの奥に昨日の二人がいるのが見えた。
目が合うと、気付いたのか、トレイさんが軽く手を振ってくる。その隣には、ため息でも吐いていそうな……いや、もしかしたらもう吐いているのかもしれない表情をしたヴィルさんがいる。
もしもこのまま私が歌わずにいたとして。
そしたら二人は私よりも先に死んでしまうのかもしれない。
それだけは、絶対に嫌だ。
絶対に、絶対に、そんなことは認めない。
それなら、やることは、できることは、ただ一つだけ。
瞼を閉じて、そっと息を吸う。
そして耳を震わせる旋律に、寄り添うイメージで……声を、載せる。
「――っ!?」
「ホロ……?」
二人の視線が刺さる。
ざわざわとした感覚が身を包む。
瞼を開かなくてもわかる。みんな、きっと恐怖で顔が引きつっている。
でも、歌わなきゃ。
大切な人たちに、先に死んでほしくないのなら。
それは、世界のためにもなるのだから。
だけど、なにかがおかしい。
違和感が肌を撫でていく。
それがなんなのか知りたくてうっすらと瞼を開くと、驚いた顔で私を見る二人がいて。
ふっと思い出したのは、もう何年も前の記憶。
初めてみんなの前で歌ったときのこと。
歌うことが大好きで。
自分が歌姫だってことを知ったばかりで、自分の歌で誰かを救えるかもしれない。その事実が嬉しくて。
聴こえてくる旋律に身を任せて歌った歌は、風に載って私の心をくすぐって。
本当に気持ちよくて、楽しくて。
あのときはまだシスはいなくて。あんなできごとも起きていなくて。
だからまだ私は、歌姫として歌えていたし、みんなも歌姫としての私の歌を聞いてくれていた。
あのとき、私は……そうだ、ただ歌えることが嬉しかった。
今の歌は、違う。
聞こえてくる歌は、震えていて、小さくて、どこか隠れる場所を探しているみたいで。
怯えてるのは、聞いてる人だけじゃない。
私も、怯えてるんだ。
自覚した瞬間、自分の歌がからっぽな物に聞こえた。
違う。
本当にからっぽなんだ。
だって、なにも想いを込めていないのだから。
違う。
こんなの、私の歌じゃない。
私の歌いたい歌じゃない……!
――やめて。
私は、もっともっと自由に歌いたい。
――やめてって。
私は、私の歌は、もっと楽しくて、幸せで、それで、それで……。
――やめてってば!
こんな歌、歌いたくないっ!!
瞬間、すごく強いなにかが、自分の中から溢れて破裂したのを感じて。
なにかが砕け散る音と悲鳴が、同時に鼓膜を揺らす。
「ホロッ! シスッ! 伏せてっ!」
エラが上に飛び乗る形で、私たちを伏せさせる。頬をなにかがものすごい勢いで掠めて行く。私の頬を掠めたそれは、仄かに橙色に光って見えた。




