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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
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とどめを刺す

直接的ではありませんが、残酷描写有。

お気を付けください。

 ゆっさゆっさと揺れる背中。一緒に私の身体も揺れる。

 触れている部分が熱く感じるのは、私の体温がきっと高いからで。

 「……ごめんなさい」

 申し訳なくて、本日何度目かの謝罪をする。

 いつも頭上から降ってきていたため息が、下から聞こえてくる。

「謝るんなら、体調管理くらいしっかりしろよ。お前、最近あんまり食べてないだろ」

「食べてます……」

 嘘だ。

 自分の意思で他人の命を奪うようになってから、食欲がなくて、あまり食べることができていない。

 食べることは、生きること。

 人を殺している私が生きていていいのか、なんて食事のたびに考えてしまい、食欲がどこかへ行ってしまう。

 奪えば奪うほど、それは強くなって。

 大きくなって、喉につっかえている。

 それでも、皆に心配されたくなくてなんとか押し込んで。

 そして、外で隠れて戻していた。

 胃になにか残っているのが、嫌だった。

 殺すことしかできない自分。

 人を殺し続けていることを言えない自分。

 それが許せなくて、戻すたびに、ホッとしてしまう。それも本当に嫌だ。

「……食べてないだろ、お前。軽過ぎだ」

「ヴィルさんが力持ちなだけです。重いですから、私」

「お前なぁ――」

「あはは」

 突然横から笑い声。

 見れば、トレイさんだった。

「トレイ……」

「いや、うん。なんか、うん。成長したなあって」

「お前、どういう――」

「いやあ、たくましい騎士さんは大切な歌姫さんをちゃんと守ってあげてねー」

 ポンポン、とトレイさんに頭を撫でられる。すると、その手から逃れるように、ヴィルさんが身体を捻る。

「からかうな!」

 表情が見えなくてもわかる。絶対今、灰色の三白眼がとても鋭くなってる。肩をすくめるトレイさんの横からエラとシスが私を見る。

「ホロ、大丈夫?」

「朝より顔赤いわね……」

 エラの手が伸びてくる。身体がだいぶぐったりしていて、もうその手を避ける気力すらなくて、おとなしく触られる。ひんやりとしていて、気持ちいい。

 思わず目を細めたときだった。

 前を歩いていたリターナさんが、パッと振り向く。

「囲まれた、かも……?」

 瞬間、緊張が走る。

 ピンと張りつめた空気の中で、ゆっくりと黒いマントの人が出てくる。

 同時に、ぞろぞろと樹々の間から同じようにマントの人たちが現われる。

「お久しぶりですね、皆さま」

 聞き覚えのある穏やかな声。

「どうして……」

 どうして、この人は生きているんだろう。

「戦略的撤退ですよ。死の歌姫なんかに、関わりたくはないんですけれど。でも、仲間を大量に殺されてしまったら、そりゃ、黙っていられないですよね?」

 笑った。

 そんな気がした。

 すごく、冷たい笑い。

「この間のことか?」

「……あら、これは秘密のことでしたか? 死の歌姫。あなた、夜な夜なそちらの弓使いの騎士さんと一緒にアーニストたちの命を奪っていましたよね?」

 ギュッと身体の中を冷たい手で握られた気がした。

 私とトレイさんしか知らないはずなのに、どうして。

 反応しちゃだめだ。

 反応したら、肯定したことになるから。

 そう必死に言い聞かせるけれど、身体は正直で。

 硬直していく。

「……」

 ヴィルさんは無言だ。

 だけど、私をおぶっている手は、微かに力がこもっていて。

 なにも言ってくれない。

 それが、こんなに苦しいとは思っていなくて。

 私は息を吸う。

 なにをしようとしているのか気付いたのか、ヴィルさんが私を振り向く。だけど、私のほうが早かった。


 透明な、空気の糸を想像して。

 この場にいる全員の動きを封じる。そんなイメージで歌う。

 大切な人が傷つかないように。

 大切な人を、傷つけられないように。

 そして――誰かの大切な人の命を、確実に、奪うために。

 音を立てて、一人、また一人と倒れていく。

 あの、穏やかな口調の人は、普通に歌っただけじゃまた逃げられるような気がして。

 そっとなにかを掴むように手を伸ばす。

 そして、ゆっくりと右にひねる。

 コロン。

 そんな可愛い音じゃないけれど。

 そんな風に、軽く、それは落ちて。

 断面からは噴水が。

 これで大丈夫、ちゃんとこの人は死んだ。

 あれ。

 声が、出にくい……。

 そう思ったときにはすでに、視界が曇っていて。

 誰かが名前を呼んでいる気がする。

 もしかしたら、呼んでいてほしいと思っているのかもしれない。


 人殺しには、名前はいらない。

 人殺しには、心はいらない。

 人殺しには、仲間は、いらない。


 真っ暗な世界。

 死ぬのかな。

 今死んだら、駄目だ。

 エラとシス、どちらにも、代償になってほしくないから。


 私にできることは、人の命を奪うことと、代償になること。

 それだけだから。

 それすらもちゃんとできずに終わったら、私は本当に、意味のない存在になる。

 それは嫌だな。

 ヴィルさんに、ちゃんと認めてもらってないな、そういえば。

 ちゃんと私は歌姫なんだって認めてほしいな。

 だって、歌でこんなに……。


 歌が聞こえる。

 見れば、幼い頃の私が歌っている。

 人前で初めて歌ったときの私だ。

 両手を広げて、笑顔で歌ってる。楽しそう。

 その姿が少しうらやましくて、そしてとてつもなく、妬ましく感じて。

 殺したくなった。

 私は楽しくないのに。

 なんで、どうして。幼い私はあんなに楽しく歌うんだろう。

 ずるい。

 そんな歌、誰の役にも立たないのに。

 役立たずの歌はいらない。

 私なんか、いらない。

 私は口を開く。

 息を吸う。

 声を出す。音に載せて。

 幼い私は、簡単に消えた。

 よかった。

 これで私はちゃんと、死の歌姫になれる。

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