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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
24/61

ファルンに到着。

 あの話し合いのあと。

 私はこっそりとトレイさんに近づいた。

「トレイさん」

 小声で声をかければ、少し驚いたようにトレイさんが目を丸くする。

「どうしたの?」

「実はお願いしたいことがありまして……トレイさん、昔、アーニストについて調べていた時期があるって言っていましたよね?」

「……それがどうかしたの?」

「……アーニストの居場所、わかったりしません?」

「どうして?」

「……ヴィルさんや、エラとシスにばれずに、その……アーニストを、殺したくて」

 きっと、目の前で歌えば止められるかもしれないし、止められなかったとしても、私が歌わずに済むように、ヴィルさんは無理やり戦いそうで。

 私の都合のいい考えかもしれないけれど。でも、そんな風に戦ってほしくなくて。

 私は、エラもシスもヴィルさんも、知っている人を誰一人として失いたくない。

 それなら、見ていないところで速やかに対処したほうがいいと思った。

 トレイさんは少し考えたあとに、頷いてくれた。

「わかった。って言っても、僕が知っているのはきっと下っ端のほうだと思うけど、いい?」

「それでも、大丈夫です」

 一人でも多く、敵がいなくなるのなら、それに越したことはないのだから。



 その後、何事もなく私たちは無事にファルンに着いた。

 途中でアーニストがなにか仕掛けてくるんじゃないのかと思っていただけに、少し拍子抜けした。

 そして今私たちは、騎士学校に来ている。

「おかえりなさい」

「お久しぶりです」

 そんな温かい言葉が、私たちを出迎えてくれる。

 騎士の皆の表情が、少し和らいだように感じた。

「ヌドク、背が伸びたなあ」

「いいえ、変わっていません」

「じゃあ縮んだか」

「変わっていません!」

 大声を出すヌドクさんに、周りの先生らしき逞しい身体をした男性たちが豪快に笑う。

「リターナはまた可愛くなったなあ」

「えへへ」

 その隣では、がっしりとした体格の良い女性が、リターナさんの頭をよしよしと撫でている。

 と、一人の人の好さそうな顔をした男性が、こちらにやってきた。

「お久しぶりでございます、歌姫様方。と言っても、覚えていただけておりますかな?」

 私とシスは顔を見合わせてかしげる。

 覚えていない。

 誰だろう。

「もちろん、覚えていますよ」

 横から、エラが頷く。そして私たちを見て微笑む。

「ここに初めて皆で来たとき、女神様の騎士と一緒に私たちを警護してくれていた、タウファさんよ」

「そうなんですね! すみません、覚えていなくて……」

「ごめんなさい……」

 エラの紹介に私たちは頭を下げる。すると太陽のように明るい笑い声を上げて、タウファさんは手を顔の前で横に振る。

「謝ることないですよ。それよりも、元気そうでなによりです」

 そしてタウファさんは私を見ると、微笑んだ。

「ヴィルは、ちゃんとあなたを守っていますか?」

 突然の問いに、訳がわからないながらも、私は頷く。

「たくさん……守っていただいています」

「そうですか。それはよかったです」

 その声は、本当に安心した響きに包まれていた。少しだけ、胸が痛かった。

「ところで、なにか異変はありませんか?」

 トレイさんが、後ろからタウファさんに問う。タウファさんの顔が、一気に曇った。

 聞けば、やはり謎の高熱によって死んだ人がいるとのことで。

 私たちは大急ぎで、ファルンの真ん中の広場へ行き、歌を歌った。

 ルーサン村のときと同じように。

 すると、やはり同じように謎の高熱は下がっていったようで。

 私たちは安心しつつ、タウファさんに紹介された宿に泊まることになった。

 明日からはとりあえず、ファルンの中の、ウォルテとは逆側にある村へ行き、そこから一周してファルン中を見る予定だ。

 夕飯を食べて、皆が寝静まったころ。

 ドアを叩く音がして、私は静かにドアを開く。

 そこにはトレイさんがいて。

「行こうか」

 私は静かに頷いた。

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