ファルンに到着。
あの話し合いのあと。
私はこっそりとトレイさんに近づいた。
「トレイさん」
小声で声をかければ、少し驚いたようにトレイさんが目を丸くする。
「どうしたの?」
「実はお願いしたいことがありまして……トレイさん、昔、アーニストについて調べていた時期があるって言っていましたよね?」
「……それがどうかしたの?」
「……アーニストの居場所、わかったりしません?」
「どうして?」
「……ヴィルさんや、エラとシスにばれずに、その……アーニストを、殺したくて」
きっと、目の前で歌えば止められるかもしれないし、止められなかったとしても、私が歌わずに済むように、ヴィルさんは無理やり戦いそうで。
私の都合のいい考えかもしれないけれど。でも、そんな風に戦ってほしくなくて。
私は、エラもシスもヴィルさんも、知っている人を誰一人として失いたくない。
それなら、見ていないところで速やかに対処したほうがいいと思った。
トレイさんは少し考えたあとに、頷いてくれた。
「わかった。って言っても、僕が知っているのはきっと下っ端のほうだと思うけど、いい?」
「それでも、大丈夫です」
一人でも多く、敵がいなくなるのなら、それに越したことはないのだから。
*
その後、何事もなく私たちは無事にファルンに着いた。
途中でアーニストがなにか仕掛けてくるんじゃないのかと思っていただけに、少し拍子抜けした。
そして今私たちは、騎士学校に来ている。
「おかえりなさい」
「お久しぶりです」
そんな温かい言葉が、私たちを出迎えてくれる。
騎士の皆の表情が、少し和らいだように感じた。
「ヌドク、背が伸びたなあ」
「いいえ、変わっていません」
「じゃあ縮んだか」
「変わっていません!」
大声を出すヌドクさんに、周りの先生らしき逞しい身体をした男性たちが豪快に笑う。
「リターナはまた可愛くなったなあ」
「えへへ」
その隣では、がっしりとした体格の良い女性が、リターナさんの頭をよしよしと撫でている。
と、一人の人の好さそうな顔をした男性が、こちらにやってきた。
「お久しぶりでございます、歌姫様方。と言っても、覚えていただけておりますかな?」
私とシスは顔を見合わせてかしげる。
覚えていない。
誰だろう。
「もちろん、覚えていますよ」
横から、エラが頷く。そして私たちを見て微笑む。
「ここに初めて皆で来たとき、女神様の騎士と一緒に私たちを警護してくれていた、タウファさんよ」
「そうなんですね! すみません、覚えていなくて……」
「ごめんなさい……」
エラの紹介に私たちは頭を下げる。すると太陽のように明るい笑い声を上げて、タウファさんは手を顔の前で横に振る。
「謝ることないですよ。それよりも、元気そうでなによりです」
そしてタウファさんは私を見ると、微笑んだ。
「ヴィルは、ちゃんとあなたを守っていますか?」
突然の問いに、訳がわからないながらも、私は頷く。
「たくさん……守っていただいています」
「そうですか。それはよかったです」
その声は、本当に安心した響きに包まれていた。少しだけ、胸が痛かった。
「ところで、なにか異変はありませんか?」
トレイさんが、後ろからタウファさんに問う。タウファさんの顔が、一気に曇った。
聞けば、やはり謎の高熱によって死んだ人がいるとのことで。
私たちは大急ぎで、ファルンの真ん中の広場へ行き、歌を歌った。
ルーサン村のときと同じように。
すると、やはり同じように謎の高熱は下がっていったようで。
私たちは安心しつつ、タウファさんに紹介された宿に泊まることになった。
明日からはとりあえず、ファルンの中の、ウォルテとは逆側にある村へ行き、そこから一周してファルン中を見る予定だ。
夕飯を食べて、皆が寝静まったころ。
ドアを叩く音がして、私は静かにドアを開く。
そこにはトレイさんがいて。
「行こうか」
私は静かに頷いた。




