人殺し、その道具。
合わせていた手をそっと離し、目を開く。
目の前にはこんもりとした砂の山が二つ。
アイラさんとクレハさんが受けた傷は、到底助かるものじゃなくて。
私が歌い終わったときにはすでに、息をしていなかった。
二人を埋めて、今、お別れをしたところ。
私が殺してしまったアーニストたちは、人数的に、埋めていたら時間がかなり経ってしまうので、次に行く予定の国、ファルンに頼もう、とトレイさんが言っていた。
エラは、ずっと両手を握りしめたまま、二つの砂山を見ている。
その手には、二人のあの赤い石が握られている。
声をかけたほうがいいのか、それともそっとしておいたほうがいいのか。
迷っていたら、エラが顔を上げて私たちを見た。そしてふわりと笑う。
「なんて顔してるの」
「エラ……」
「ごめん、そんな顔させてるの、私だね。大丈夫よ。それより、これからどうするか、話し合いましょう?」
「そうだね」
トレイさんが頷く。
誰一人として泣いていない。
きっと、泣きたくても泣けないんだと思う。……それか、堪えている。
「さて、どうしようか」
トレイさんとヴィルさんが、直に地面に座る。私たちも、それにならって座る。
「まず真っ先に考えなければならないのは、エラちゃんの騎士をどうすればいいか、だよね」
「リターニャ、やりたい」
リターナさんがまっすぐな瞳でトレイさんを見る。トレイさんは頷く。
「わかった。ただ、ちょっと前と変えたくて。今、歌姫さんが三人なのに対して、俺たち騎士は四人だ。だから、歌姫さん一人に対して専属の騎士を一人つける形でいきたい」
「残りの一人はどうするんですか?」
「バランス見つつ、フォローに入る感じ」
「じゃあそれはトレイ、お前がやった方がいいな。この中じゃお前が一番周りが見える」
「やーん、ほめられちゃった」
「取り消すぞ」
「俺の耳に永久保存したから大丈夫」
「キモイ」
「ひどい」
トレイさんは軽く肩をすくめる。ヴィルさんは、ふん、と鼻を鳴らす。どこか機嫌が悪そう。
「じゃあ、俺がフリーでリターナがエラちゃん担当になって、それ以外は今までと変わらず、でいいかな?」
それに関しては誰も異論がなかったので、皆頷く。
「……俺から、いいか?」
ヴィルさんが静かに手を挙げる。
「珍しいね。どうぞ」
トレイさんの言葉に一つ頷いてから、ヴィルさんが私を見る。
「どうして歌った」
低い声。明らかに怒りを含んだ声に、私の肩が跳ねる。
顔を見れなくて、私は俯く。
「……皆、死んじゃうと思ったから、です」
「俺たちはそんな、力不足か?」
「違います! 力不足とかじゃなくて。だって、人数の差がすごかったから――」
「信用、してないんだな」
冷えた声。
刺された気がした。
なにも言えなくて、私は下唇を噛む。
「……まあ、あのままだったら全滅していたのは確実だよ。だから、歌ってくれてよかった」
トレイさんの言葉に、私は顔を上げる。トレイさんは、優しく微笑んだ。
「だから、俺はこれからもホロちゃんの歌を武器として使うべきだと思う」
「てめ――」
「ああやって囲まれたら、どうするんだ? 六人でも駄目だったのに、今は四人だ。使えるものは使わないといけない。エラちゃん」
「……はい」
「三人の中で、命を奪えるほど強い歌を歌えるのは誰と誰?」
エラがチラリと私を見てから、黙る。
「エラちゃん」
「私とシスでは、足を止めるくらいはできたとしても……いや、人数によっては私にはそのレベルでもできませんが。命を奪うまでは……ホロしかできない、です。でも、命に関する歌は、それだけ自分の生命力も削ります。だから――」
「だけどホロちゃんはまだ十三歳だ。寿命まではまだ時間がある」
「……」
エラが、俯いてしまう。
「ホロは道具じゃありません」
シスの声。怒ってる……?
「ホロは、人殺しのための道具じゃないです」
「でも、私にはこれしか出来ないから」
「ホロ……。でも、ホロの歌は――」
「今の私の歌は、これだから」
なにかを言おうとして、シスは結局口を閉じる。
「それは、アーニストを君の歌で殺していく、ということでいいね?」
トレイさんの確認。
頷けば、私はこれから人殺しをするために歌を歌うことになる。
――絶対に、この世界を想う歌以外は歌ってはダメなのよ。
私たちの歌は、一人のためではなく、大勢のためにあるのだから。
頭の中で、女神様の声が響く。
ごめんなさい。
私は、歌姫にはなれないです。女神にも。
私は頷く。視界の端で、ヴィルさんの膝に置かれた拳が、震えていた。




