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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
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一つ消えれば、

「嘘でしょ……」

 ぽつりとアイラさんが呟く。だけど、それに答える声はなくて。

 静かに吹く風が、独特の臭いをつれて、私たちの鼻を刺激する。

 私たちは今、アルフォにいる。

 一度訪れたときの記憶だと、ここは、田舎ながらも温かな国だった。

 だけど今目の前に広がっているのは、傷つき、汚れた建物や、生きていたであろうモノ、そして苦しみもがいた跡の残る横たわった人だったモノ。

 温かさなんてない。

 大きな力で、力任せに遊んで散らかしたあと、みたいな。

 あれから急いでアルフォに向かった私たちを出迎えたのは、そんな光景だった。

「姉様は……? 父様や母様、国の民は……?」

 アイラさんは震えつつ、クレハさんに視線を向ける。

 その目は、涙ににじんでいて。ひきつった笑みを浮かべている。

「ねえ、クレハ。わたくし、悪い夢を見ているのですわよね? そうよね……!?」

 鬼気迫るって言うのは、今のアイラさんのことなんだと思う。

 そのくらいの気迫でクレハさんの肩を掴んでいて。布が寄って深いしわが刻まれる。

 アイラさんのすがるような瞳に、クレハさんは一度目を伏せたあと、じっと強いまなざしでアイラさんを見て――首を横に振った。

「あ……ああ……」

 細い指が、きめ細やかな白い肌に食い込んでいく。へこんだそこから赤い赤い液体が指を伝っていく。

 そのまま力なくアイラさんは座り込んでしまう。

「アイラ」

「嫌、嫌よ……嘘だと言ってよ、クレハ……」

「アイラ。嘘じゃない。……嘘では、ございません」

 口調が変わり、クレハさんがひざまづく。

「……アイラ・ソーム・アルフォ様。もしもこのままあなた様のお姉様も、お父様もお母様も見つからなければ、あなた様がこの国を背負う女王となるのです」

「そんなの――」

「今までにも、様々な問題により、女性が王となったことのある国ですから、あなた様が女王になっても――」

「そんなこと言うなんて、クレハが裏切り者じゃないのですか!?」

 きつい言葉。

 鋭く尖った言葉が、静かな空気に刺さる。

 あ、と慌てて口を塞ぐアイラさんに、クレハさんも固まっている。

「あー……とりあえず、残ってる人が一人でもいないか、探してみようか」

 トレイさんの言葉で、固まっていた私たちは、やっと動き始める。

 トレイさんが素早く指示を出して、私たちはもう一度三組にわかれる。

 チラリとクレハさんとアイラさんを振り返れば、ちょうどクレハさんがアイラさんになにか囁いていて。アイラさんと、傍にいたエラの目が大きく見開かれる。

「おい、行くぞ」

 なにを言ったのか気になるけれど、後ろからの声に、私は頷いて視線を戻した。



「それにしても、隠す気なしって感じだね」


 一通り見て回って、ここに到着したときよりも、はるかに上に太陽が昇った頃。

 広場に集まって、私たち九人は情報を共有しあう。

 そのすべてが、生存者はいないということ、争った跡があること、死んでいる人には皆、誰かに殺されたのだとわかるような死に方をしていることが共通していて。

 しかもその中には、よほど恨みがあったのか、それとも、なにか別の意図があるのか、原形をとどめていない部分があるモノもいて。

「ただ、やっぱり、死んでしまった人の人数を見た限り、だけど、だいぶ人数が減っているな。恐らく殺されるよりも前に病死して埋葬された民もいるのだろう……」

 クレハさんの言葉に、私は目を伏せる。

 私のせいで死んでしまった人もいるんだ。

 もしかしたら、今回殺された人の中にも、病気にかかっていて、抵抗できずに殺されてしまった人もいるのかもしれない。

「私たちアルフォの民は、争いが大嫌いですの……」

 ポツリと呟く声に、私は顔を上げる。

「幼い頃に歌姫様たちの歌声を聴いて、絶対にこの人たちを守るんだって思って。それで、騎士になる! って言った日も、大反対されましたのよ? 自分から争いの場に身を置くことないって……。それでも、守るために騎士になるって何度も説得して、なんとか了承を得て、アルフォを出てファルンの騎士学校に行って……。やっと、やっと立派になれたところを見せられると思いましたのに……。喜んでもらえると、思っていたのに……」

 アイラさんの細い肩がフルフルと震えている。座り込んだ膝に載った手は、ギュッと布を握りしめている。そっと、その上にクレハさんが、そしてエラが、手を載せる。

「許せない……。絶対に、絶対に殺す……!」

「アイラッ……様。そのお言葉は――」

「アイラでいいんですの! 私はまだ騎士なのですから! だってこの国にはもう、民はいないじゃない!」

「私がおります。それに、旅に出ている者もいます」

「……そうね。ここに戻ってきて、同じように苦しみ、悲しむ人が……いるんですのよね」

 アイラさんは、震える息で無理矢理押し出すように言うと、うずくまってしまう。

「安定しないな……」

 小声で零したヴィルさんに、トレイさんが苦い笑みを浮かべる。

「繊細な子だからね」

「弱いだけだろ」

「その分力が強いんだから、バランスが取れてていい子じゃないか」

「精神のバランスが取れてないだろうが。……でも、あいつにとっては初めて失ったようなもんだから、しょうがないのか」

「まあ、戻ってきたら戻るべき場所がなくなってたら、相当ショックだけどね。まだよく持ちこたえているほうだと思うよ、アイラは」

 トレイさんの言葉に、ヴィルさんは少し考えるような間を置いてから、そうだな、と頷いた。

 戻るべき場所。

 私にとっては、神殿、だろうか? いいや、大きさとしてはやっぱり、ウォルテくらい?

 この旅を終えて、帰ってきたとき。

 そこにいる人たちが、女神様が、女神様のお姉様が、神官や騎士たちが、あまりにもあんまりな姿で殺されていたら?

 耐えられるだろうか? ……絶対に、耐えられない。

「これは、アーニストの仕業、なんでしょうか」

 静かなシスの問いかけに、リターナさんがむうっと頬を膨らめる。

「だとしたら、リターニャ、許せない!」

「リターナ、落ち着いてください。アーニストの仕業だとしても、どうしてわざわざアルフォの国民をすべて殺したんでしょうか? それに、もしもなにか理由があったとして、アンディスの女神様に従う方の派閥なのか、それとも従来のアーニストなのか、それも知りたいですね……」

「確かに、気にするところかどうかは置いておいて、気になるよね」

 トレイさんがヌドクさんの言葉に頷いたときだった。


「ならば、教えて差し上げましょうか」


 聞き覚えのある、穏やかな口調。

 慌てて声のしたほうを見れば、大きな一本の木があって。

 その一番上に、黒いマントの男が一人、立っていた。

「こんにちは、皆さま。私は、アンディスの女神様の忠実なるしもべであり、アーニストにございます」

 男が、笑った気がした。

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