話し合い
「ということで、俺たちの中に内通者か、それに近い人がいるかもしれない」
あれから更に数日経って。
シスたちも帰ってきた日。私たちは円になって情報を共有していた。
トレイさんの報告に、みんななんとも言えない表情でお互いを見る。
「……それはもしかしたら、適当を言って僕たちを仲違いさせるつもりなだけかもしれませんよ」
ヌドクさんの言葉に、そうかもしれない、とみんな頷きかける。けど。
「そうやって安心させて、もしかしたら油断したところをヌドクがサクッとやっちまうかもしれない」
冷えた声が、もう一度みんなの表情を凍らせる。
「ヴィル」
たしなめるようなトレイさんの声に、壁にもたれたまま、ヴィルさんはため息を吐く。
「可能性の話だろ。それに、アーニストの動きが妙だ。少し前までは確かに歌姫を殺そうとしていたのに、今回は殺すつもりはないと言っていた。アーニストはアーニストで内部分裂しているのかもしれない」
「つまりどういうことですの?」
アイラさんが首を傾げる。
「あいつらの話がすべて本当だとすれば、だけど。アンディスの女神に従う派閥と、これまでどおり歌姫や女神、それに準ずる人たちを殺したい程憎んでいる派閥の大きく分けて二つに分かれてるんじゃないかってこと」
「あら。じゃあ、どっちにしろ来る敵はすべて潰せばいいってことですのね!」
「そういうことだな」
ふん、と満足げに鼻を鳴らして微笑むアイラさんに、クレハさんが頷く。そのやりとりに、ヴィルさんとヌドクさんが呆れた表情をする。
「あなたたちの脳みそは筋肉ですか。それともしわ一つないんですか」
「ヌドク、それ馬鹿にしてますわよね?」
「いや、馬鹿だろ」
「ヴィルまで! 流石に怒りますわよ!」
プンプンと怒るアイラさんを、まあまあ、とトレイさんがなだめる。
「まあ、ただ潰せばいいって訳じゃないからねえ。剥がすなり、折るなり、抜くなり、刺すなり、削るなりしながら情報集めなきゃだし」
「話は分かるが、トレイ。お前が言うか」
クレハさんが言えば、トレイさんは肩を小さくすくめてみせる。
「想像したら気分悪くなりそう……」
「私も……」
エラとシスが眉間にしわを寄せる。私も想像することが無理で俯いてしまう。
「ごめんごめん。女の子のいるところでする話じゃなかったね」
「トレイ。私とクレハ、そしてリターナも女の子、ですのよ?」
「か弱い美少女のいるところでする話じゃなかったね」
「ちょっと!?」
勢いよく立ち上がったアイラさんを、クレハさんがどうどうと落ち着ける。
「殺しに来る奴は、問答無用で殺してしまえばいいと思う。ただ、そうじゃない奴は話を聞く必要があるから、せめて頭が繋がった状態にしておかないとな」
頭が繋がった状態って……。
「ただ、まあ、怖いなって思うのは、下手をすればアンディスとアーニストが手を結んだ可能性が高いこと、だよね」
トレイさんの言葉に、どことなくにぎやかになっていた空気が、しん、となる。
「どーしてー?」
リターナさんが首を傾げると、トレイさんが柔らかく微笑む。
「ルアディスにいる人間が、どうしてアンディスの女神様、なんて知ってるのかってこと。まあ、実在すれば、なんだけど」
「確かにそうなんだよな。私も気になってたんだ。もしかしたら、アンディスの民が数人、こちらに来ているのかもしれない」
「どうやって、ですか。みなさんご存知の通り、ルアディスからアンディス、アンディスからルアディスを行き来できるのは、神官だけなんですよ?」
「その神官が裏切った可能性があるってことだ」
「それか、もう今頃なにも言えない物になっている可能性もある。行方不明になった神官はいない?」
トレイさんの言葉に私たちは顔を見合わせる。
「いたの……?」
「わからない」
シスの問いかけに、私は首を傾げる。ただ一人、エラだけが、静かに考え込んでいる。
「エラ?」
「……二人は覚えてないかもしれない、というより、シスに至っては知らないかもしれないんだけど。十年前に、立て続けに数人、神官が新しくなったことがあったの。前の神官にはよく構ってもらっていたから、会いたいって女神様に何度か言ったんだけど、すごく難しい顔で首を振られたわ。あのときは寂しかっただけだけど、今思えば不自然だなって思って……」
「それ以降、そういうことは?」
トレイさんの問いかけに、エラは首を横に振る。
「ないです。別の人に代わるときだって、絶対に挨拶に来ますし。なにもなしにいなくなってしまったのは、十年前のそのときだけです」
「これは……」
「つまり、十年前からアンディスの民がこちらに移ってきている可能性があるってことか?」
眉間にしわを寄せて、ヴィルさんが、まじかよ、とうめく。
「とすると、神官の入れ替えとアンディスの女神さまが関係するならば、アンディスの女神様は十歳以上、になるね」
「……おい、トレイ。なにが言いたい?」
「いや、歌姫さん方は見事にその条件をクリアしているなって……ああ、みんな殺気立たないで。あくまでそうかもねって話。俺はそうは思ってないから」
そして、あ、そーだ! と手を打つ。
「みんな着てるもの一旦脱ごうか!」
「……っ」
「いてっ」
トレイさんの頭をヴィルさんがはたく。
アイラさんとクレハさんがドン引きしている。
「可哀想なトレイ……。とうとう欲望に忠実になってしまわれたのですね」
「うん、違う。違うから。悪かった、なにも言わずに変なこと言ってゴメンって。アンディスに落とされる人間って、みんなルアディスからアンディスに辿り着いたとき、印をつけられるだろう? その印がないかどうか調べようと思って」
「そうなら、そうと言え。……歌姫様、申し訳ございませんが」
「大丈夫ですよ」
そのまま男性陣には外に出てもらい、私たちはお互いに印がないか、見合った。
当たり前だけど、だれにもそんなもの、なかった。




