それぞれの分かれ道。後編
あの話し合いの結果。
私のことを怯える人もいるので、私とヴィルさん、トレイさんの三人はこのまま欠片探しを続行することになった。
他の二班は、それぞれエラは山側、シスは海側の村を回ってくれている。
終われば、森の中にいくつかある小屋のうち、アルフォ側にある小屋で合流。
私たちが今目指しているのは、とりあえずの今夜寝る場所として、そのいくつかあるうちの二番目にルーサン村に近い小屋である。
こまめに休憩をはさんではいるけれど、それはこういった旅に不慣れな私がいるからで。
きっと私がいなければもっと早くに目的地についているのだろうな、と思うと申し訳ない。
「お前今、自分なんかって考えてただろ」
「え……」
思わず顔を上げると、不機嫌そうな灰色の三白眼と目が合う。
「どうして……」
「お前、すぐに顔に出るんだよ」
コツン、と頭を小突かれる。痛い。
「そんなに出ますか?」
「出てる」
「……出てないですよ」
むう、と頬を膨らませると、鼻で笑われる。
あの日。
お互いの色々を話した夜以来、いつもこんな感じだ。
そしていつも、胸がうるさいくらいに音を立てるから、もう意味がわからない。
とりあえず、気付かれないように、そうやって誤魔化すしかなくて。
「お二人さん、だいぶ打ち解けたみたいだねえ。いやあ、なによりなにより」
でもおそらくこの人は誤魔化せていない。
「ああん?」
凄みのきいた声に肩を震わせると、可笑しそうにトレイさんが笑う。
「いやいや、だって仲の悪い騎士と歌姫さん、よりも仲がいいほうが良くない?」
「義務は果たしてるからいいだろ」
「えー?」
ケラケラと笑うトレイさん。
小さく笑うと、ふと、首から下げた小袋から固いものがぶつかり合う音がする。
視線を下げるとそこには、神殿にいた頃、毎朝使っていた麻袋の手のひらサイズの小袋。仲には、今まで集めた欠片が入っている。
ルーサン村から、この森で別れるまでの間に集めた欠片。すべて、エラとシスが見つけたもの。
だいぶそろったから、手先がとても器用なヌドクさんに一度だけ仮に組み立ててもらったら、半円形になった。
つまり、あともう半分を集められればいいわけなのだけど、その半分がそろわない。もっと言えば、エラとシスと別れてから、袋の中以外のところから、まるっきり音が聞こえないのだ。
なんだか欠片にまで、お前に歌姫は向いていないと言われている気がして辛い。
「まあでも、ちょっと元気ないな、とは思うかな。大丈夫? いつもの二人がいなくて寂しい?」
トレイさんが顔を覗き込むようにして心配そうに私を見てくる。その肩をガシッとヴィルさんが掴む。
「なあに、ヴィル。俺今歌姫さんと話してるんだけど?」
「話すならもう少し距離を離しても話せるだろ」
「それはもしかして、ヤキモチ?」
「……どこからそんな結論が出てくるんだよ」
頭上からため息が降ってくる。
うん、まあ、ヴィルさんがヤキモチを妬く意味なんてないので、別にいいのだけど、なんで気になるのか。
「で、寂しいの? それとも……二人がいなくなった途端に欠片が集まらなくなったから、自信なくなってきちゃった?」
ドキッと胸が音を立てる。
図星だ。
「……どうしたらいいんでしょうか」
ポツリと零せば、トレイさんが肩をすくめる。
「まあ、こればっかりは、そこにないと音を拾えないわけなんだし、ない物の音を聞け、なんて無理難題なわけだし。気にしたってしょうがないよ。気長に、ね?」
「……でも、急がないと、ルーサン村みたいなことに……もしかしたら、それ以上酷いことになるかもしれないんですよ……?」
「うん。でももしかしたら、他の班が通った道にあるかもしれないよね? あんまり焦ると、聞こえるはずの音も、聞こえなくなっちゃうよ?」
その言葉に、私は足を動かしながら考える。
ふ、と思いついて足を止める。
すると二人も気付いて私を見て止まる。
ギュッと小袋を両手で握りしめる。そして、今ここにいない、欠片たちへ語り掛けるために口を開いて、息を吸って――。
「……っ」
出ない。
それどころか、出そうとすればするほど、真っ白な顔や、虚ろな瞳を思い出してしまう。
どうして? あのときは出たのに。
終いには身体まで震え初めて――。
「……どうした?」
ヴィルさんに肩を掴まれて、私は一度口を閉じてから答える。
「……ルアディス・ウィションは、私たちの歌に反応します」
毎朝、二人の歌声と一緒に、温かく輝いていたルアディス・ウィション。もしかしたら、歌に反応して光だけでも見えないかな、なんて思ったのだけど。
「だから、歌えば、聞こえるかな、と思ったのですが……」
「また歌えなくなってるのか?」
頷くと、何度目かのため息が降ってくる。つられて私もため息。
「こらこら。二人とも、ため息を吐くと幸せが逃げちゃうよ。気長に、気長に」
「お気楽だな」
「そうしてないと、旅に疲れちゃうよ? ほら、早く足を進めて。もう少しで小屋に着くんだし、ね?」
トレイさんの言葉に押されるようにして、私たちは再び歩き始める。
小屋に着いたのは星が空でまたたくような時間で。
結局今日も私は、欠片を一つも見つけられなかった。




