それぞれの分かれ道。前編
「頑張れー。あともう少し歩けば目的地だからー」
「それ、数刻前にも聞いた気がします……」
トレイさんの言葉に、私はげんなりしながら、左右の足を互い違いに前に出す。
「そうだっけ?」
たはは、と笑うトレイさん。
この人はよくもまあ、こんなにも余裕たっぷりでいられるなあ、と思う。
この人から余裕がなくなった姿を見てみたい。でも、それは間違いなく自分たちも窮地に陥っているときなので、やっぱり見たくないかも。……とは思いつつも、私たちが窮地に陥っていたとしてもやっぱりこの人は笑っている気がする。
「本当に大丈夫か?」
「あ……はい、まだ、足、動きますし……」
「そうか」
隣を歩くヴィルさんはそういうと、視線を前に戻してしまう。
私たちは今、森の中にある、騎士たちがウォルテに行く途中に使うためにあると言う小屋を目指して歩いている。
というのも、数日前にエラからの提案があったからだ。
*
「ウォルテの中心部に、できる限りルアディスの民を集めたほうがいいんじゃないでしょうか」
九人で小屋を目指していた途中の休憩中。
エラの一言に、それまでざわざわしていた私たちは一斉に彼女に集中した。
「理由を訊いてもいいでしょうか?」
アイラさんの言葉に、他の人々もうんうんと頷く。
「ルーサン村での出来事を見て、私は、もしかしたら他国の人々から死んでしまうのではないか、と思い始めました」
「それは……濃度の低い歌しか届かないから、ですか?」
エラが頷く。
「ウィションが壊れた今。現在までの貯蓄量が少ないのなら、今からできるだけ増やすしかないと思います。貯める方法は、私が知っているのはただ一つ、歌姫や女神様の歌を聴くことだけ。なら、移動しながら歌を聴いてもらうよりも、毎朝決まった時刻に歌が聴ける場所に行ってもらったほうが、私たちがウィションを元に戻すまでの間、生き残っていてくれる確率は高いかな、と思いまして」
「なるほどですわ」
「でも、その案を実行するとして、時間はあまり使いたくありません。どうやって実行するおつもりですか?」
ヌドクさんの問いかけに、エラは口を開く。
「くじ引きで分かれた組で手分けをしませんか?」
「そんなことをすれば、アーニストに襲われたとき、守り切れるかどうか……」
「この旅はウィションを元に戻すためのものですが、それは、ルアディスの民のためです。それまでの過程でもしもルアディスの民がほとんどいなくなってしまった、なんてことになれば、なんのために欠片を集めたのかわからなくなってしまいます。多少の危険は冒してでも、ルアディスの民を優先しなければならない、と私は思います」
エラの言葉に、ヌドクさんがため息を吐く。
「現歌姫の中で一番優秀だと聞くあなたからそんな言葉が出てくるとは思いもしませんでした」
「一ついいかい?」
トレイさんが手を挙げると、どうぞ、とエラが指差す。
「その案はいいと思うんだけども、それはつまり、女神様の寿命がさらに削られる、ということだよね? 俺の記憶じゃ、今年で三十五のはずだ。数日前お会いしたときは手押しの椅子に座られていた。あれはもう、立つ力がそんなに残っていないからだよね?」
「……そうですね」
「なら、もしも今さらに命を削ってしまえば、良くて寝たきり、悪くて、君たちが神殿に戻るころにはもうこの世では会えない存在になっているかもしれないよ?」
エラがゆっくりと瞼を閉じ、静かに息を吐く。
そして瞼を開くと、茶褐色の瞳でしっかりとトレイさんを見た。
「私たちの歌は世界のためにあります。もしも世界のために、自分の命を犠牲にしなければならなかったとしたら、惜しんでは駄目だ、と私たちは歌姫になって初めに女神様に言われました。それは女神になっても変わらないのだ、と。だから……」
そこから先は言えなかったのか、エラは俯いてしまう。
「……わかった。じゃあ、そうしよう。で、重要な班決めだけど、これもくじ引き――」
「ちょっと待て。これまで神頼みは私が嫌だ。公平に、話し合いで決めるぞ」
クレハさんの言葉で、私たちは話し合いによってどうするか、決めることにした。




