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その歌姫の歌う歌は。  作者: 奔埜しおり
死を歌う歌姫。
13/61

祈りの歌。

「ごめん、遅くなって」

 全員が集合したとき、開口一番にそう、謝られた。

 どうやらアーニストはあの一人だけじゃなかったみたいで。

 私が走り去った直後、他の面々も襲われていたらしい。

 それでも真っ先に私を助けにきたのがヴィルさんだったのは、作戦とかではなく、単純に数人のアーニストを撃退すると、なにも言わずにそのまま私を追ったみたいで。

 義務だから。

 そう言ったヴィルさんに、私は頭を下げる。

 そして、他の七人にも。

「勝手に逃げて、ごめんなさい」

 なんともいえない笑みが返ってきた。


「ホロ、ちょっといい? 会わせたい人がいるの」

 エラの言葉に頷いて、私たちはとある宿の部屋の前に来た。

「……あんまり大人数で入るのも、ご迷惑になると思うので、私たち三人だけで入ってもいいですか?」

 エラの言葉に、騎士はあんまりいい顔はしなかった。当然だ。あんなことがあった直後なんだから。

 それでも、なにかあればすぐに呼ぶこと、という条件付きで許可してもらう。

 エラが控えめにドアをノックする。すると中から女性の声が返事をした。

 キィッと音を立てて開く木製のドア。その向こう側にはたくさんのベッドと、そこに横になる人、そしてその人たちを看ている白衣の男女数名がいて。

 すぐに、あの謎の高熱を出している人たちを看病する部屋なのだと気が付いた。

 一人の女性がこちらにやってくると、一度頭を下げてから私たちを見る。

「歌姫様、このたびは――」

「正式な訪問ではないのですから、かしこまらなくても大丈夫です」

 エラが苦笑すると、そうですか、と女性も苦笑する。

「この部屋は……」

「もともと、大人数で泊まる方用の部屋、だそうです。今は私たちが部屋を借りて、運び込めるだけの人を運んだ状態です」

 ルーサン村には病院がない。隣のユラーフ村にあるから、そこから彼らはやってきたんだと思う。

 病気やけがをすればユラーフ村へ。そういう風にしていても、特に困ったことにはならなかったらしい。

 だけど、ここまでの大人数、しかも家はルーサン村ではない人々となれば、宿の部屋を病室代わりにするくらいには困ったことになっている。

 聞こえてくるうめき声は苦しげで。老若男女が入り混じったその声は、ズン、と重みが心に来る。

――私はこのまま死ぬんだろうか。この、見知らぬ土地で。

 そんな言葉が聞こえてきそうで。

 耳を塞ぎかけた私を見て、エラが私とシスの手を引っ張る。そして女性に頭を下げると私たちは部屋を出た。


「ホロ、歌える?」

 エラの言葉。隣ではシスがじっと静かに私を見ている。

 歌えるのか、わからない。でも。

 少しでも、届くかもしれないのなら。

「……やってみる」

 私の言葉に、シスとエラが強く頷いてくれた。



 ルーサン村の中央にある広場。

 そこに私たちは、手を繋いで立っている。

 そこからほんの少し離れたところに、私たちの騎士はいる。

「歌うよ」

 エラの言葉に、私の心はしん、と静まる。

 かすかに聞こえるのは、エラが持っている欠片の音。

 その音に寄り沿うイメージを思い描く。

 浮かんだのは、真っ白な顔。私はそれを首を振って頭の中から追い出す。手が、勝手に震え始める。すると、そっと両側から温かな温もりが。顔を上げれば、シスとエラが私を見て微笑む。

「大丈夫だよ」 

 シスの温かな声。エラがしっかりと頷いてくれる。大丈夫? 本当に?

 でも、歌わないと。

 もうこれ以上、誰かが死なないように。


 二人が息を吸う。

 私も、それに合わせて息を吸う。

 そして。


 かすかな、本当に小さな声。

 だけど、確かに、私の唇から出た声。

 どうか、笑顔でみんな家に帰れますように。

 そんな想いを込めて。

 横からそっと支えてくれる歌声に、少しだけもたれるようにして、歌を紡ぐ。

 そのおかげかもしれない。

 他のことに気を取られることはなくて。

 どうか、届きますように。元気に、なれますように。

 その祈りだけが、私の心の中で音になって響いていた。

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