公平無私
短編?的なものです……
思いついたことを書いただけ〜って感じなので、その、文がおかしかったりしますが目を瞑っていただければ( '-' )
出城クラネス真理愛は中学生活三年間においてのクラスは全て同じであり、僕の彼女だ。僕の僅か十五年間の人生においての彼女。もうすぐ一年と五ヶ月。あえて言うなら人生の中で二回目、二人目の彼女である。
一人目は僕が告白されて、付き合って、三ヶ月目でちょっとした喧嘩をしてしまって切り上げられた。対して、彼女との出会いは実はあまり覚えていない。ロマンチックでもないし、成り行きで付き合うことになったわけでもない。そもそもどっちが告白したのかが覚えていない。
「私が告白した。一年と五ヶ月も前に。中学一年生の十一月二十二日。放課後、下校中。午後四時三十二分三十八秒。『好きだから付き合おう』と言うのに二秒程度かかった。毎鶴君が私の告白を承諾するまでに十三秒。付き合い始めたのは実際は四時三十二分五十三秒」
と彼女は言う。彼女が言うなら、それが正しいのだろうけど。
彼女の『クラネス』は所謂ミドルネームらしい。彼女の母親は確かアメリカ人だっただろうか。どうしても、『クラネス』を名前に入れたかったそうで、付けたらしい。本人もなかなか気に入っているようで『クラネ』と呼んで、と言っていたりもする。ところが、僕達の間は互いに未だに苗字呼びだ。いや、僕は時に『クラネ』と呼んだりもする。まあ、基本は『出城』。彼女も僕のことを『毎鶴君』と呼ぶ。
『舞』ではない。『毎』だ。
まあ、僕達の出会いなんかは置いておいて、今日は彼女について話させていただきたい。
◆◇◆◇◆
出城は第三者だ。
中立、公正、平等、そんな視点から全ての物事を見ている。
平等。誰に対しても同じ度合いの接し具合。彼氏という名目を持っている僕でさえもだ。
贔屓をせず、決して味方ではなく、しかし敵でもない。
ある意味味方だったり敵だったりかもしれないが。
とにかく出城は当事者にならない。平等に見ている。
アメリカと日本のハーフあってか少し日本人離れした顔立ちに似合わない深黒い目。それに沿うような漆黒のセーラー服。そして、それらとは対照的な白髪(本人曰く地毛)を顎の下辺りで全て切りそろえている。前髪もぎりぎり目が隠れないくらいに切りそろえている。
ちなみに、髪の左側に三束程度、黒い髪の部分がある(本人曰くこれも地毛)。しかもその黒具合も不思議であって、正面から見てつむじから毛先まで真っ黒の束、その奥に半分の長さが黒い束、その奥の半分の束の奥に半分の束の長さの半分の長さが黒い束、というようになっている。ええい、ややこしい。
そんな容姿をした彼女は、神が如く平等に見ていた。
どんな物事でも本当に第三者というか。
絶対中立、というか。
そういえば一年程前、(確か――僕は出城のような飛び抜けていい暗記能力を保持していないのでそこの辺りはやや曖昧――僕達が付き合ってまだ二、三ヶ月程度の頃)クラスで女子二人――花石絵梨香と黒淵梓を中心とした喧嘩が起きた。
理由はどうだったか。確か文化祭の決め事で花石がクラス実行委員のはずなのに、黒淵が一方的に決めまくってそれに花石が怒って勃発、と言ったところだっただろうか。
花石は真面目ちゃん。正直言ってカリスマ性が少ないというか、欠けるというか、話し合いの司会には向いてない人だった。対して黒淵はクラスの人気者で、そこそこカリスマ性もあるし、話し合いをまとめるのが上手くて。
そこで、クラスは真っ二つ(主に女子生徒が)。
あくまで実行委員である花石絵梨香を中心として物事を決めるべき、という主張をする『花石派』。
話し合いは黒淵梓中心で決めていきたい、という『黒淵派』、である。
僕は話し合い系は嫌いだし(以前に僕はクラス活動に意欲的ではないし、地味ーズと呼ばれるタイプだし)、正直誰がどう決めたって、とりあえず文化祭ができればいいやーなんて思っていたのだが、昼食(出城と2人で教室で机を合わせて食べる)の時、女子としての出城の意見を聞いてみたのだった。
「なあ、出城。お前はさ、今女子が揉めてるじゃないか、あれはお前、何派なんだ?」
出城は卵焼きを頬張って、良く噛んで飲み込んで
「私は私派だよ。出城派かな」
と言った。
「は、はあ…?」
僕はとりあえずミートボールを放り込んだ。
「絵梨香ちゃんも梓ちゃんも、どっちにも頑張って欲しいしさ。私はどちらでも大して気にしないからね」
「じゃあ聞くけど毎鶴君はどうなの?」と無表情で出城は聞いてきた。う、うーん……。
「僕は………」
「あ、そっか。ごめん、あんまりそういうの興味無いんだっけ」
「そ、そうだね……うん…」
出城は二つ目の卵焼きを箸でつまむ。ふわりとしていて、美味しそうだ。
「欲しい?」
視線に気付かれた。「い、いや……美味しそうだなって」
「いいよ。あげようか」
出城は軽く笑ってその卵焼きを口に運ぶことなく、僕の弁当の裏返して置いてある蓋の上に置いた。『あーん』をしないのが出城である。いや、僕達である。
その卵焼きを早速口に放り込んだ。見た目通りふわりとしていて、美味しい。少しミートボールの味と混ざったが、出城にとっての卵焼きは、醤油味か、と思った。ちなみに僕も醤油派だ。
「出城派っていうのは冗談だからね。そんな派閥、誰もいないから」
出城は卵焼きを食べている僕を見て嬉しそうに笑っていた。出城は別に常に無表情キャラ、という訳では無いし、ポーカーフェイスという訳でもない、至ってよく笑う、よく感情の出る普通の女子中学生である。
「ただ、どっちでもないってだけでね」
出城は言う。
「どういうこと?」僕は卵焼きを飲み込んで聞いた。美味しかった。ご馳走様。
「まあ、うん。結局私も毎鶴君と似ていて正直こういうことってあまり興味無いんだよ。ま、ただ、大まかな内容をつかむためにただ聞いてるだけっていうかさ」
僕は大まかな内容をつかむことすらしていないな。「それは駄目だよ。毎鶴君」と言われそうだからあえて言わないことにした。
「でも、どっちにも頑張って欲しいってことはやっぱ思ってるよ。うん。どっちがこの先話し合いの……所謂リーダーになっても互いにメリットデメリットがあるしさ」
「メリットデメリット? 俺は黒淵が有利だと思うけど」
「うん、確かに梓が有利っちゃあ有利だよ。だけどあくまで彼女はクラスの一員であって、委員ではない。まあ、この考えは絵梨香ちゃんを推してるけれども……先生も言ってたじゃない、『文化祭は文化祭実行委員を中心に』ってさ。学校なんて、先生の言い分を守るべき場だしね」
じゃあやっぱりお前は花石派じゃないか、と思う僕の心を見透かしたように出城は僕の前に静止させるように掌を向けた。
「でも正直絵梨香ちゃんは話し合い進行役には残念なほど向いていないよね…いや、本当は絵梨香ちゃんの進め方は実に合理的で社会にとって正しいんだよ? でもあんなに話し合いが進まないのは私達、つまりクラスメイトが意欲的に話し合いに参加してないからってわけ。だからみんな、絵梨香ちゃんの話し合いを嫌だと感じるんだよ」
花石はなんというか『the・学級委員』という感じで(見た目も黒縁メガネのキリッとした顔)、いちいち話し合いに意見を問うてくる。「これに賛成な人は何人か理由を述べてください」と。これで、意見を言いクラス全員がその意見に賛成又は反対するまで延々と意見を問うてくる。だがみんな正直意志を持って賛否をしている訳では無いので意見を言えない。だから嫌だ、と。
まあでもこのやり方は確かに合理的(なのかは中学二年生の僕にはわからない)で、正しいと思う。みんなの意見を忠実に聞いて、みんなで文化祭を盛り上げようとしてくれている、いい奴。
「ちなみにやり方で行くなら私は絶対花石派だけどね」
と、出城は最後の卵焼きを口の中に放り込んだ。
「ふうん。でもお前はどっちでもないのな」
「うん」
出城は卵焼きを飲み込んだ。
「だって正直絵梨香ちゃんのやり方って面倒じゃん」
意外にも、出城はあっさりと言うのだった。
「う、うーん…じゃ黒淵のやり方はどう思ってんだよ? それなりにディスってくれないと俺はお前を黒淵派だと理解するよ」
「梓ちゃんのやり方は『ちょ待てよ』って感じだよね」
「?」
? である。
「梓ちゃんは絵梨香ちゃんと対照的だよね。本当に多数決でちゃっちゃ決めちゃうっていうか。まあ、民主主義の日本にとってはやっぱこっちも合理的なんだけど、不満を買いやすいよね」
黒淵のやり方は今言った通りで、正直勝手に進めているともとれる。「じゃこの意見でいい人ー」と問うて挙手させ、数えて、それがクラスの全体人数より半分以上の場合、その意見が通る。反対に、半分より少ないと「じゃこっちの意見ねー」ともう片方の意見とまとめてしまう。バッサリと片方の意見を捨ててしまうのが、黒淵流(?)である。
「分かりやすくて早く進むのはいいと思う。けど、捨てられた意見を推していた人達にとっては、不満しかないんじゃないかな」
出城はおかずの部分を食べ終え、ご飯に箸を進める。鮭ふりかけの乗った、ツヤりとしたご飯。
「なんだ。つまり、黒淵派は話し合いを適当に済ませたくて、花石派は文化祭を盛り上げようと考えてる人達なんだな」
「そうだね」
出城は小さな一口でご飯を食べた。そしてよくよく噛んで飲み込んだ。
「そう考えたらさ、なんとも言えないな」
「どっちにも賛成できないんだよ、私は。だって確かに文化祭は楽しくしたいし。でも延々と話し合いをしたくないし」
出城は水筒を取り出して、少しお茶を飲んだ。
「でもね、このクラスの雰囲気で決めるならば断然梓ちゃんなんだ」
そう、確かに。半数以上の生徒はどうせ「あ〜だりぃ〜早く帰りてぇ〜」とか思ってるだろうから。
「正直絵梨香ちゃんみたいなタイプは来年の実行委員で頑張ってくれた方が頑張りやすいよね」
来年は中学三年生、最後の文化祭。『最後の』が着くと、少し寂しくなって頑張ろうという気になる。だからか。
「だから私は、どっち派でもないんだよ。なれないんだよ」
◆◇◆◇◆
彼女は常にこういう風に見ていた。
いつか、一回だけ喧嘩(僕が一方的に怒っていた)が起きた時がある。理由はしょうもなさすぎて忘れた。
そんな時彼女は
「毎鶴君、私が悪いよ。私は○○な所が悪い。けれど毎鶴君、毎鶴君だって○○な所が悪い。でも私はさらに○○が悪い。毎鶴君はあとは何も悪くない。だからね、毎鶴君、理音くん、この場合は私が悪かったよ。すみません」
と言ってきた。それを聞いて僕は怒れるはずもなく(正直『理音くん』と名前でサラッと呼んでくれたことに喜びを照れを感じて怒りなんてどっかいった)、喧嘩は幕を閉じた。
彼女は客観的に物事を捉えて、分析するのだ。この場合は当事者であったから彼女の私的意見を述べていたけれど、あんな言い訳の仕方はまるで第三者じゃないか! と思う。
だから僕は彼女と付き合っていられるんだと思う。客観的に捉えてくれているおかげで、彼女と付き合っていられるんだと。
どうして彼女が僕を好きになってくれたか分からない。聞いても「いつか分かるよ」と教えてくれない。
仮に僕が誰かと喧嘩した場合、彼女は第三者の視点から話を聞いてくれるだろう。そして僕が武が悪ければ「毎鶴君が悪いんだから謝るべきだよ」なんて言ってくるだろう。彼女は、クラネは、例え僕の事を愛していたって、第三者だろうが当事者だろうが、物事を公平に見て善悪を決めるんだろう。
だからこそ、なぜか別れられない。正論を言われるから。
別れるとしたら僕がフラれるのだろう。
そんなものだ。
「なあ、出城――真理愛」
「なに、理音くん」
僕達は二人並んで歩いて下校していた。
「真理愛はさ、ずっと、ずーっとその視点で見ていてくれよ。お前はずっと、第三者でいてくれよ。僕が悪かったら罵っていいから」
出城は、真理愛は笑った。可愛くて、美しくて、愛おしい笑顔を僕に見せた。
「私に罵る趣味なんてないけれど、わかったよ。ずっと見ていてあげる。でもね、理音くん」
真理愛は空を見上げた。そして伝える。
「結構第三者って難しいんだよ。これでも私は良心を咎めたりしてる時だってあるしね」
「そっか」
僕は真理愛を抱きしめた。
「何? どうしたのさ」
「じゃあ苦しくなったら、お前の私情を僕にぶつけろよ。罵る代わりにな」
真理愛はフッ、と笑い、僕の背中に手を回してきた。
「わかったよ、その時は頼んだよ。理音くん。私は理音くんのそんな所が大好きだよ。全く、惚れさせてくれるなぁ」
ありがとうございました。
第三者って難しいんだよ……。。。ってことが言いたかった!