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よくある霊能力高校生の話

作者: でくすぎ こぼく

 俺の名前は、(れい)ミエル。生まれつき霊感が強く、幽霊と話も出来てしまう霊能力高校生だ。

 そんなちょっぴりあぶない俺が、真夜中にもかかわらず今何をしているかというと、おじいちゃんの尾行である。



 おじいちゃんは先週、葬儀が終わると同時に満面の笑みで成仏していった。

 弔問者のすすり泣く声が聞こえるなか、その笑顔を見た俺は、ちゃんと成仏出来てよかった、きっとあの世でおばあちゃんと仲良く暮らすのだろうと安心していた。

 だが次の日の朝、何の未練があったのか、おじいちゃんは下界へと降りてきたのだ。


 おじいちゃんは俺を見つけると、酒を持ってこいと早速こきつかってきた。仕方なく俺は仏壇に一升瓶の酒を供える。そして十秒ほど手を合わせると、おじいちゃんの頭上から足元へポトッと霊体となった酒が落ちてくる。

 これが霊界への郵送システムである。

 この方法で、おじいちゃんは他にもタバコや雑誌、食べ物など四六時中俺にお供え物を要求してきのだ。

 しそて、仏壇が汚れていると、そこに祀られいる霊の身体も汚れてくるらしく、とにかく掃除をさせられた。

 さらに幽霊であるおじいちゃんは、霊能力のある俺に対してはテレパシーを使えるようで、俺が何処で何をしていようと直接俺の頭に話かけてくる。

 無視してもひたすら暴言を吐いて指示に従わせようとしてくるので、俺は仕方なく、ひたすらおじいちゃんにこきつかわれる地獄のような日々を送っていた。



 そして今日もいつものようにお供え物をしろと言ってきたのだが、そのお供え物の内容がいつもとは違っていた。

 要求されたのは、サングラス、高級腕時計、香水、と何やら色気付いた物だった。

 そしていつもより念入りに仏壇の掃除を指示した後

「ワシはこれから悪霊退治に出掛けてくる。後で色々と武器や道具を頼むかもしれん。お前は仏壇の前で待ってサポートをしてくれ。」

 と言って出掛けていったのだ。

 悪霊退治て…。そんな見え見えの子供のような嘘を付くなんて、これは何かある。

 何か面白そうなものが見れる予感がした俺は、そんなおじいちゃんの言い付けを無視して尾行を始めたのだった。


 何処へ行くのかなーとワクワクしながら尾行をしていると、おじいちゃんは廃墟となった病院へとやってきた。

 これはまじで悪霊退治かもと思ったのもつかの間

「おほぉ、噂どおりじゃ。ナンパ待ちの若い女の霊がわんさかおるわい。」

 と、なんとも下世話な事を口走った。

 まぁそんな事だろうとは思っていたが、まさか廃墟の病院が幽霊のナンパスポットになっていたとは驚きだ。

 おじいちゃんは花束(おそらく仏壇の供え物)を手に取り、病院の入り口付近で女の霊を物色しはじめた。

 俺も気付かれないように後をつけ、近くの茂みに隠れる。


「よお、そこの若いネェちゃん。ワシとこれから」

「じーさん金持ってる?」

「え、金?金あるよさベイベェ!」

 ナンパ開始数秒で金蔓にされてる。

 でもおじいちゃんはそんな事お構い無しのご様子。

 そして早速テレパシーで俺の頭に話かけてきた。

「おいミエル、金だ。金を供えろ。とりあえず十万ばかし。」

 色々とツッコミたいが、面倒くさいので指示に従う事にする。

 俺はこんなこともあろうかと、事情を知る弟を仏壇の前に待機させていた。


 弟も少し霊感がある。俺のように霊と話をする事は出来ないが、ぼんやりと霊の存在は感じ取れるらしい。なので小学生といえど、俺の良き理解者でもある。

 弟には、おじいちゃんと悪霊退治に行くと伝えてある。

 弟は「頑張ってね!」と、まるで俺をヒーローの様に思い、熱い眼差しで送り出してくれた。


 そんな弟に対し、俺は電話で

「十万円供えて。」

 と指示を出す。小学生の弟相手になんて要求だと少し自己嫌悪に陥るが、

「十万円だね!分かった!」

 弟は何の疑問をもつことなく、意気揚々と俺の指示に従った。

 そしてしばらくすると、どこから手にいれてきたのか十万円がおじいちゃんの目の前に落ちてきた。


「へぃネェちゃん、十万円だぜぇ。」

「サンキューじーさん。じゃあねー。」

 早速やられてしまった。

 だがおじいちゃんはそれにめげることなく、次のターゲットを探していた。

 因みにさっき供えられた十万円は、お金の霊体が霊界へ行っただけなので、実物の十万円もちゃんと現実世界に残っているので安心してほしい。


 その後も、何度もナンパに挑んではお供え物(主にお金)を要求し、それを弟に伝えて物を届けさせては玉砕する、というパターンを繰り返していた。

 そしてついに

「ミエル、金塊だ!金塊を用意しろ!」

 と、とんでもない物を要求してくるまでに至った。

 金塊なんて身近にあるわけないだろう。さすがにこの要求には応えられないなぁと思っていたら、一体の女幽霊が俺に話かけてきた。

「あなたあのおじいさんの親族?大変ねぇ。まぁでもあんな事があったらねぇ。」

「あんな事ってなんですか?」

「あなた知らないの?あのおじいさん、あの世に行ったその日に、新しい男を見つけて同棲していたおばあさんから、離婚届けを突きつけられたそうよ。」

 そうだったのか。どうりで下界に来てから荒れてたわけだ。

「ああやって無理にでも女性と話をする事で、きっと寂しさを紛らわしているんだわ。ちょっとかわいそう。」


「金塊だ!金塊を供えるんだ!」

 気が付けば、俺は電話口で弟に叫んでいた。まさかおじぃちゃんがそんな心傷を負っていたなんて。なんとか少しでも力になってあげたいと思った。

「キンカイ?キンカイって何?」

(きん)だよ、金の塊だよ!」

「金?んー、そんなのウチにあったかなー。」

「何でもいいから、それっぽい物を持ってくるんだ!」

「それっぽいもの?うん分かったー。」

 俺がやれる事はやった。後は弟の機転にまかせよう、と弟からの返事を待っていたら、何やらぞろぞろと人影が見えてきた。


「これりゃあ心霊特番にはもってこいなロケーションだなぁ。」

 と声が聞こえてきたので、どうやらテレビの撮影をするようである。

「ここには、邪念を持った幽霊がいるようですね。」

 スタッフの中から聞き覚えのある声がした。その声の主であるおばさんを、俺は見たことがある。

 あのおばさんは、霊媒師の岐阜(ぎふ)愛知子(あいちこ)さんだ。

 心霊番組には必ずと言っていいほど登場し、祈祷、除霊などをこなす正真正銘の霊媒師だ。


 すげぇ、本物の岐阜さんだ!と興奮していたら

「よーし、では『岐阜愛知子の大除霊祭』のリハーサルを始めまーす!」

 とテレビスタッフの声が聞こえてくる。

 大除霊と聞こえた。その前には、邪念を持った幽霊がいると岐阜さんが言っていた。


 おじぃちゃんが除霊される!


 俺は焦った。

 おじぃちゃんからはテレパシーで話かけられても、俺はそんなもの使えないのでこっちからは話かけられない。

 いや、直接目の前で話せばいいのだが、それだと尾行してきたのがバレてしまう。いやいや、そんなことは言ってられない。それより早くおじぃちゃんに身の危険を知らせなければ。

「おいミエル!金塊はまだ準備できんのか?さっさと供えやがれこの役立たずが!」

 そんな危機に気付いていないおじいちゃんが暴言で急かしてくる。

 少し危険を知らせる気が失せる。

「あぁもう逃げられた!チッ、なんて使えない孫じゃ!」

 次々と浴びせられる罵声に、俺の中で悪い虫が騒ぎだす。


 除霊されてしまえばいい。


 そういえば、霊能力がある者同士で集まったSNSのグループ内で、唯一俺だけ除霊の現場を見たことが無いんだった。

 除霊の瞬間はそれはそれは気持ちが良いらしい。その話で盛り上がるグループチャットに入れない俺は、結構寂しい思いをしているのだった。


 はっと我にかえる。

 いかんいかん、いくら除霊の瞬間を見たこと無いからって、いくら罵声を浴びせられたからって、実のおじぃちゃんを見捨てる訳にはいかない。


 俺は早くおじいちゃんに危険を伝えようと、茂みから出ようとしたが、こんな時に弟から電話が掛かってくる。

「にぃちゃん、見つけたよ!」

「何を?」

「ぽいやつ!」

「いや、今はそれどころじゃ」

「こら!あんた何してるの!」

 突然母親の声が電話口の向こうから聞こえてきた。


「にぃちゃんを助けるんだよ!」

「馬鹿な事言わないの!こんなに散らかして、さっさと片付けなさい!おじいちゃんに怒られるわよ!!」

 いや、むしろおじいちゃんのリクエスト品で仏壇の前は散らかっているのだが。霊感が全く無い母親には話しても分かるまい。

 母親と弟の言い争いは続く。

「にぃちゃんは今悪霊と戦ってるんだ!僕も力になるんだ!」

「お兄ちゃんはね、頭が少しアレなのよ!あんたもちゃんと勉強しないとああなるわよ!」

 ヒドい。

「どうしても言うことをきかないっていうのなら力ずくよ!」

「はーなーしーてーよー!」

「あんたこそ、はやくその鉄アレイを手から離しなさい!」

 鉄アレイ?

 ぽいやつってまさか鉄アレイなのか?

 弟よ、その塊は残念ながら金ではない。鉄だ。

 だが兄想いの弟は、なんとかその鉄アレイを届けようとしているようである。

「うおー!えーい!」

「ガシャーン!!」

「あんた何やってんの!仏壇がこなごなブツッ…。」

 電話が切れてしまった。

 だが何が起こったかは分かる。

 仏壇が粉々になったのだ。


 おそらく、母親に身体を拘束されながらも何とかお供えしようとした弟が、鉄アレイを仏壇めがけて放り投げ、勢い余って仏壇を粉砕したのであろう。

 弟には悪いことをさせてしまって申し訳ないが、それよりも今はおじいちゃんが心配だ。


 ふと、おじいちゃんの方を見ると、何やら様子が変である。

「ぐ、ぐぐぐぐぐ…」

 どうやら仏壇が粉砕された影響で、おじいちゃんの身にも異変が生じているようだ。

「ぐぐ、グオォォォーーーー!!!」

 化け物の様な雄叫びをあげ、一瞬閃光が走ったかと思うと、おじいちゃんはみるみるこの世のものとは思えない身体へと変身していった。

 目は白目を向き、口は裂け、爪は鋭く尖り、全身が真っ黒く毛羽立っている。

「きゃー悪霊よー!」

 その場にいた幽霊達が逃げていく。

 おじいちゃんは悪霊になってしまったのだ。

 そして、その異変に気が付いた人物がもう一人いた。

「これはテレビの撮影どころではないわね。」

 岐阜さんだ。

 岐阜さんはスタッフと話を始めた。

「今悪霊が誕生したようです。スタッフの皆さんは危険なので下がっていて下さい。」

「あ、悪霊?どうするんですか岐阜さん。」

「誕生したばかりの悪霊なので、元の無害な姿に戻す方法はあります。でも、面倒くさいので滅しちゃいますわ。」

 そう言うと、岐阜さんは悪霊滅しグッズを手に持ち、「腕がなるわ。」と呟きながらおじいちゃんのいる方向へ歩きだした。


 おじいちゃんが滅されちゃう!!


 姿形は変わっても、あれは俺のおじいちゃんだ。

 俺は慌てて岐阜さんの前に飛び出す。

「待って下さい!あれは俺のおじいちゃんなんです、だから」

 助ける方法があるのなら教えて下さい!

 と続けるつもりだったのだが、ここでまた悪い虫が騒ぎだす。


 滅するって、なんだか除霊よりもヤバそうだ。これは自慢出来るかも…だから

「俺も手伝います!」

 言っちゃった。

「分かったわ、あなたも手伝ってちょうだい。」

 もう後には引けない。

 俺は岐阜さんから御札を渡された。

 これを悪霊の、悪霊ともう言ってしまったが、元おじいちゃんである悪霊の頭に張り付ければ、滅する事が出来るらしい。

 やること自体は単純だが、話はそう簡単ではなかった。


 雄叫びと共に振りかざしてくる腕、なんとかかわしたのは良いが、後ろにあったコンクリートの壁に穴が空いている。

 こんなに命懸けとは、甘く見ていた。

 というか、いくら理性を失っているからといって、本気で孫を殺しにくるとは。

 頼りの岐阜さんは

「ゼェ、ゼェ、よる年波には勝てないわね。でも頑張れワタシ!」

 と息を切らせながら、悪霊の攻撃というより自分との戦いをしているようである。

 破壊力抜群のパンチを隙無く繰り出してくる悪霊に、防戦一方だった二人だが、俺の体力もいよいよ限界に近づいてきた。

 そしてついに動きを捉えられ、避けることが出来そうにない一撃が飛んできた。

 普段から霊を身近に感じていた為、そこまで死に対する恐怖は無いと思っていたのだが、やはり間近に近付くと怖い。

 だがもうどうしようも出来ないと、死を覚悟したその時だった。


 ボゴンッ!

 と鈍い音が鳴り響き、悪霊はその場で目を回し始めた。

 そして悪霊の頭上から鉄アレイが転がってきた。

 俺の電話が鳴っている。まさかと思い電話にでると

「にぃちゃん、供えたよ!」

 なんと、弟は母親を振り切って、言われた通り鉄アレイを供えに戻ってきたのだ。

 そして、供えられた鉄アレイはタイミングよく悪霊の頭にクリーンヒットしたのである。


「よくやった弟よ!お前こそ真のヒーローだ!」

 まさかホントに悪霊退治の手助けになるとは。俺は弟にお礼を言うと、悪霊の頭に向けて御札を付けようとした。


 だが、ここにきてまた迷いが生じる。

 今自分が滅しようとしているのは、紛れもない自分のおじいちゃんだ。

 ふと、おじいちゃんとの思い出が頭をめぐる。


「ミエルは相変わらずじゃのう。」

「ほれ、ミエル、仏壇が汚れておるぞ。さっさと掃除せんか!」

「酒だよ、酒!もっと酒を供えんかいワレ!」

「おい、ボケクソ、じゃなかったミエル、ちょっと一発殴らせろや!」

「おいミエル!金塊はまだ準備できんのか?さっさと供えやがれこの役立たずが!」

「あぁもう逃げられた!チッ、なんて使えない孫じゃ!」



「このクソじじぃがーーーー!!!!!」

 思い出されたのはこきつかわれていた日々に罵詈雑言。

 俺の躊躇はサッパリ消え

「そんなんだからおばあちゃんに三行半を突き付けられるんだよー!」

 と叫びながら全力で頭に御札を張り付ける。


「ぎゃあああああ!」

 見た目のおぞましさとは裏腹に、断末魔は生々しいほどおじいちゃんの声だった。

 悪霊退治と嘘付いて出掛た結果、自分が悪霊となって退治されてしまったおじいちゃん。さすがにちょっと悪いことをしちゃったかなあ、と思っていたが

「このクソガキ覚えてろよー!」

 と言う台詞を聞いて罪悪感は消えた。そして

 シュポンッ!

 という気持ちのいい音がなり、悪霊は御札に吸い込まれ、戦いは終わったのだった。



 その後、自ら体験した事をグループチャット内で散々自慢しまくってやったが、誰も信じてくれなかった。

 悔しくなった俺は岐阜さんに弟子入りし、一流の霊媒師として名を馳せる事になるのだった。


 おわり

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