○月○日前夜
「ねぇ。」
その声で、夢の中から引きずり出される。
「どうしたの...?」
「いや、ね。俺達はこのままのんびりしてて良いのかなって思ってね...。」
「他に何をするの?」
私の問いに、彼は困ったように笑った。
『○月○日に人間は滅亡します。』
何日か前、テレビが数人の科学者と何処かの偉い人を写し出しながら言った。
これはドッキリなんかじゃない。
嘘じゃない。
それは無知な私達にでも安易に理解できた。
数ヶ月前からだ。世界中の人々の体に異常が出たのは。
肌が異常に白くなり出した。体を動かすのが何故か辛くなった。何をするのもダルい。血を吐くようになった。そして、全身の毛が抜けた。
何かのウイルスだという事は科学者が発見した。しかしそれを治す血清もつくれない。
何故ならばその日、世界中の人々はー秒も違わずに一斉に感染したから。
何人もの人が、目の前で死んでいった。
感染してから百日で確実に死に至る。
世界中の全員が一度に感染したから、百日後の○月○日が私達人間が完全に滅亡する日。
それが、明日。
明日といってもあと30分なのだけれど。
「前原、寝ちゃダメだよ。」
「どうせあと30分で死ぬじゃない。それにすごく眠いの。」
「君の黒髪は素敵だった。」
私は自分のつるりとした真っ白の頭を撫でた。
どうやら私は彼を睨んでしまったらしい。彼が慌てたように首をふった。
「勿論、今でも綺麗さ。」
「恋人でもない人に言われても嬉しくないわ。」
彼、黒埼和也とこのマンションで同棲を始めたのは二年前。
バイトの同僚だった彼と同棲を始めた理由は今でも思い出せない。
「じゃあ恋人になろうか。」
真面目半分冗談半分といった顔で言った。
「私、あなたは好きじゃない。」
嘘。
あと十分。テレビはうつらなくなった。
うつっていても生きていて、テレビをみられているのはごく数人だと思うけど。
彼がちょっと寂しそうな顔をした。
そんな顔されても、私が彼を好きだという事実は来世まで秘密にする予定。
「俺は本心だったのに。」
ちょっと以外。
にやけないのは無理だった。
「眠くなってきた。」
彼が私にもたれ掛かる。
私が眠りそうになった時に起こしてきた人が私より早く寝るなんて....。
「ねぇ咲、」
私も、眠くなってきた。
「初めてあったときからね、君が好きだったよ。」
そう言い、彼が目を閉じた。
どうやら、一足早く逝ってしまったらしい。
時計が、明日まであとー秒を告げる。
「奇遇ね。私も好きだった。」